美術部俺達

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
38 / 97
第七話「同人誌を作ろう!」

2,それぞれの四コマ

しおりを挟む
「それじゃ、まずは成宮くんから」
「あんまし期待すんなよ?」
 成宮はスケッチブックを立て、他の三人に見せた。
 三人はスケッチブックを覗き、一コマ目から順に目で追っていく。
「……ストーリーは面白いわね」
「うん。でも……」
「字しか書いていないぞ」
 成宮の四コマ漫画は絵が一切なく、全て字で説明されていた。
 人がいる場所には「人A」「人B」、建物がある場所には「家」「学校」とある。キャラクターの表情は「人A(笑)」と()かっこで補足されていた。
「だから言っただろ? 期待すんなって」
「成宮くん、スランプだものね。仕方ないわ」
「でも、ネームとしては百点満点だと思うよ? これを元に作画すれば、立派な漫画になると思う!」
 次は音来が四コマ漫画を見せた。
「音来君は独創的な絵を描くから、漫画にしたら面白くなるんじゃないかしら?」
「神☆メイの神々しさに、恐れおののくがいい……!」
 音来以外の三人はスケッチブックを覗き、別の意味で恐れおののいた。
 描かれているのは四コマのマス目だけで、絵どころか字すらも書かれていなかったのだ。要するに白紙である。
「何も描いてないじゃない!」
「四コマ漫画だぞ?! 絵なり字なり書くんだぞ?!」
「もしかして音来君、四コマ漫画をご存知ない?!」
「失礼な。四コマ漫画くらい知っている」
 音来は「これだから凡人は」と言わんばかりに、深くため息をついた。
「神☆メイの真の魅力は音楽だ。音が目で見えるわけがないだろう? この四コマ漫画には、一コマ一コマ丹精込めて神☆メイの曲を聴かせてある……心で見れば、おのずとライブの風景が見えてくるはずだ」
「いや、見えないって」
「裸の王様みたいなこと言い始めたぞ、こいつ」
「でも、有名人を題材にして客の目を引くという発想そのものは興味深いわ。使わせてもらいましょう」
 次にスケッチブックを見せたのは、大城だった。
「大城くんは漫画を描いたことがあるんでしょう?」
「う、うん。落書きの延長みたいな出来だけど」
「謙遜するなよ。俺達なんて、そもそも漫画をほぼ読まないんだぜ? お前が一番上手いに決まってる」
「一番面白くなかった四コマ漫画を描いた奴は、激マズジュース一気飲みな」
「……あんまり期待しない方がいいよ。僕もスランプになっちゃったみたいだから」
 そう大城が自信なさげに見せた四コマ漫画は、全ての線がブレていて、何が描かれているのか全く分からなかった。大城が得意な女の子の絵は真っ黒い塊にしか見えず、定規で引いたはずの枠線すらも、震えて波打っている。
 わざとか、利き手でない方で描いたとしか思えない低クオリティだったが、大城は今にも泣き出しそうな顔でうつむいていた。
「大城……」
「何が描いてあるのか、全然分からないぞ」
「大城くん、どういうこと?」
 予想以上のスランプに、成宮達は動揺する。
 大城も不安そうに言った。
「……描こうとすると、手が震え出すんだ。どんなに止めようとしても、止まらない。でも、絵を完成させたら止まる。初めて成宮くんの気持ちが分かった気がするよ」
「マジか……」
「今度は大城くんまで……」
「マネージャーなんてスランプでもないのに、似たような絵描いてるのにな」
 音来がドサクサに紛れ、隣に座っているマネージャーのスケッチブックを見せる。
 確かに、マネージャーが描いた四コマ漫画と大城の四コマ漫画は似ていた。線が太いせいで、全体的に黒く見える分、マネージャーが描いた方がよりホラーに見える。画力がつたない分、狂気さが増していた。
「こっわ。女の子の目、血走ってるじゃん」
「こっちの女なんて、目すらないぞ」
「マネージャー、ホラー漫画を描く才能があるんじゃないか?」
「……一応、少女漫画のつもりで描いたんだけど」
「「「え?」」」
 成宮、大城、音来は素で驚き、
「いてっ!」
「あ痛っ!」
「頭が割れる!」
 怒ったマネージャーにスケッチブックで思い切り頭を叩かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

神様自学

天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。 それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。 自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。 果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。 人の恋心は、どうなるのだろうか。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...