美術部俺達

緋色刹那

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第六話「腐女子会(BL注意)」

4,部長VSマネージャー

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 漫画研究部の部室は、パソコン室と同じ匂いがした。かつては紙とインクで原稿を描くことが多かったようだが、今はパソコンのソフトを使って描く方が主流だった。
 成宮達が聞いていた通り、漫研の部室は普通の教室の半分ほどの広さしかなく、十人余りの部員と人数分のパソコンでスペースが完全に埋まっていた。姉小路がいたのは部室の最も奥にある席で、高級そうな椅子に腰掛け、高級そうなティーカップを使って、高級そうな紅茶を優雅にたしなんでいた。
「……いた」
 マネージャーはノックもせず部室のドアを開け、姉小路を見つけると、彼女の元へずかずかと歩いて行った。
 一方、成宮達は漫研の緊張感に萎縮し、ドアの前から動けなかった。
「マネージャー、よく行くなぁ」
「こんな女子しかいない空間、怖くて入れないよ……」
「作業に集中してる今なら、奴らを仕留められるんじゃないか?」
「音来、ハウス」
 ドアの隙間から顔を覗かせ、マネージャーの動向を見守る。
 マネージャーは一人、姉小路の元へたどり着くと、彼女の机を力任せに「バンッ!」と叩いた。
「部室を賭けて、勝負しましょう」
 姉小路はマネージャーを無視し、ティータイムを続ける。他の部員も何人か視線を向けただけで、大半は作業に没頭していた。
 マネージャーも姉小路の返事を待たず、一方的に勝負の詳細を話した。
「文化祭でより多くの部数の自作同人誌を売った方が勝ちよ。ジャンルや冊数は制限しない。うちが勝ったら、部室は渡してもらうわ」
「負けたらどうするの?」
 姉小路はティーカップから視線をそらすことなく、マネージャーに尋ねた。
大事な部室を賭けるんですもの。相応の報酬がないと、受ける気にはならないわね」
「万が一、美術部が負けたら……部費の半額を漫研に渡すわ」
 マネージャーの衝撃的な一言に、成宮達はざわついた。
「ちょっ?!」
「何ですと?!」
「ただでさえ少ないのに、正気か?!」
 以前までの美術部の部費は専ら、ボードゲームやレクリエーションの素材を購入するのに使われていた。一度買えば半永久的に遊べるものも多く、余り気味だったのだが、最近は定期的に画材を買うようになったため、毎月苦しかった。
 報酬を聞いた姉小路は「半額?」とマネージャーを見上げ,ニヤリと笑った。
「それじゃ、釣り合わないわ。よ。どうせ毎日遊んでばかりいるんだから、部費なんて無くてもやっていけるでしょ?」
「チッ……分かったわ」
 マネージャーは渋々、条件を受け入れた。ここで話がこじれて、勝負が出来なくなるよりはいいと考えたのだろう。
「それじゃ、次は文化祭で」
「えぇ。自称美術部がどんな同人誌を作ってくるのか……楽しみだわ」
 一瞬、姉小路はドアの隙間から覗いていた大城に視線を向け、冷ややかに笑った。その笑みを見た瞬間、大城は「ヒッ!」と悲鳴を上げ、ドアから跳びのいた。
 外からでは、部室の中の様子は窺い知れない。しかし大城には姉小路と漫研の部員達が自分に向かって嫌悪の眼差しを送り、コソコソと陰口を囁き合っているように思えてならなかった。
「う、うぅ……僕は女の子が描ければそれでいいんだ……同人誌なんて、同人誌なんて……」
「大城?」
 成宮は大城の異変に気づき、心配そうに顔を覗き込んだ。
 大城の顔はショックで顔を色を失い、全身に大粒の汗をかいていた。
「大丈夫か? 何か様子が変だぞ」
「ひ、ひぃぃ……!」
 直後、大城は廊下をボテボテと走り、逃げて行った。
 成宮ならば追いつけない速度ではなかったが、大城の気持ちを汲み、あえて引き止めなかった。
「大城くん、どうしたの?」
「腹でも壊したんじゃないか?」
 ちょうど部室から出て来たマネージャーと、大城の心に全く興味のない音来も、不思議そうに大城を見送った。

     ◯●◯●◯

 作業を終え、帰り支度を始めた漫研の部室は盛り上がっていた。美術室にいた部員も加わり、姦しく話している。
「美術部と同人誌対決、楽しみ!」
「毎年同人誌作って売るだけの、ワンパターンだったもんねぇ」
「どんな同人誌を作ってくるんだろう? この前賞を取った絵の雰囲気だったら、かなりクオリティ高いんじゃない?」
「いっそ、BL本作ってくんないかなぁ。男子だけで作るとか、萌えるじゃん」
「そのままリアルでも恋に発展したりして……うほっ、これは見逃せませんわ」
 彼女達は大城の不安とは裏腹に、美術部がどんな同人誌を作るのか楽しみにしていた。
 姉小路にはそれが面白くなかったのか、「おしゃべりはほどほどにして、早く帰りなさい」と部員達を部室から追い出した。部員達は部室を出た後も美術部との対決について話しながら、去って行った。
 やがて部室に誰もいなくなると、姉小路は深くため息をついた。
「はぁ……馬鹿な子達。いかに美術部が下等で汚らわしいか、知らないのね。今のうちに手を打っておかないと」
 胸ポケットからスマホを取り出し、複数の連絡先へメールを送信する。
 さらにそれとは別に、何処かへ電話をかけた。
「もしもし、福太郎ふくたろう兄さん? ちょっと相談なんだけど……」
 こうして美術部と漫画研究部による、仁義なき同人誌即売会対決が幕を開いたのだった。

(第七話へ続く)

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