美術部俺達

緋色刹那

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第五話「オセロカバディ〜嵐の前触れを添えて〜」

4,妹尾の正体

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 妹尾が向かったのは昇降口ではなく、明かりの点いている教室だった。
 中では大勢の女子生徒が机に向かい、一心不乱に丸ペンや電子ペンを動かしている。彼女達の目の前にはアナログ・デジタル共に、未完成の漫画の原稿用紙が広げられていた。
 そう……ここは、漫画研究部の部室だった。
「戻りました! ご指示通り、美術部の方々がレクリエーションをなさっている映像を録画して参りました!」
 妹尾は一番奥の席に座っていた背の高い三年生の女子生徒に、自身のスマホを差し出した。
 三年生の女子生徒は作業の手を止め、映像を確認する。
『どんどん行くカバディ!』
『ばっち来いです、カバディ!』
 録画された映像には美術部と一緒にオセロカバディを楽しむ、妹尾の姿も映っていた。
 漫研の部室に「カバディ」「カバディ」と掛け声が響く。どの部員も集中して作業をしているのか、誰も顔を上げなかった。
「あっ! これ、おーしろじゃない?! 花ちゃん、おーしろとカバディして来たの? いいなぁ」
 唯一、プリンターで原稿の印刷をしていた二年生の女子だけが横からスマホを覗き込み、不満そうに唇の先を尖らせた。
 彼女は美術館に大城の絵が飾られていなかったことに文句を言っていた女子生徒だった。今日も制服を着崩し、前髪にはドーナツの飾りがついたパッチン留めを何本もつけている。
 彼女だけではない。背の高い三年生の女子生徒、妹尾、この部屋にいる全ての女子……総勢、約二十人。彼女達こそが、連れ立って美術館へ赴き、周囲の客達の目を引いた制服の一団であった。漫画研究部はあの時点で既に、美術部に目をつけていたのである。
 背の高い女子生徒は映像を全て確認し終わると、「ご苦労様」とスマホを妹尾に返した。
「なかなか良い演技だったわ。本当にこのまま入部しちゃいそうなほど、熱心にレクリエーションをしていたみたいね」
「えぇ! とっても白熱しました! 漫研でもやってみません? オセロカバディ」
「遠慮するわ。そんな遊んでいる暇があったら、一枚でも原稿を描いていたいもの」
「そうですか……残念です」
 妹尾は本当に残念そうに、肩を落とす。
 背の高い女子生徒は「演技」だと称したが、実際は演技ではなく、本気で妹尾はオセロカバディを楽しんでいた。背の高い女子生徒もその事実を薄々感じ取ってはいたが、妹尾が美術部側に寝返る可能性を危惧し、黙っていた。
「貴方は漫画研究部のために、よくやってくれたわ。これで、もっとみんなに伸び伸びと活動させてあげることが出来る。ありがとう」
 背の高い女子生徒は妹尾の肩に手を置き、微笑む。
 不意打ちの笑顔に、妹尾は「ど、どういたしまして!」と背筋を伸ばし、頬を赤らめた。彼女は美術部への興味以上に、背の高い女子生徒を敬愛しているらしかった。
 初々しい妹尾に対し、背の高い女子生徒は冷たく薄ら笑いを浮かべ、宣言した。
「さぁ……あの遊び人共から、美術室を奪い行きましょうか」

(第六話へ続く)
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