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第五話「オセロカバディ〜嵐の前触れを添えて〜」
1,入部希望者だ!
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「困った」
「熊った」
「熊り果てた」
二学期に入り、成宮ら美術部部員達は美術室で頭を悩ませていた。文化祭で掲示する作品をどうしようか考えていたのだ。
成宮と音来の絵は、夏の高校生絵画コンクールで賞を受賞したため、今も美術館の一角に展示されている。現在手元にあるのは、大城のイラスト一枚だけ……部活動としての実績を残すためには、一枚では足らなさ過ぎる。とは言え、成宮はスランプで絵を描けず、音来はその気にならないと描かない。
いっそ、これまでの美術部同様、レクリエーションの模擬店をすればいいのではないかとマネージャーに提案してみたが、即刻却下されてしまった。
「何をお困りなのですか?」
「うぉっ?! 耳慣れぬ女子の声!」
三人は一様に驚いて飛び上がり、振り向いた。マネージャーは家の用事で先に帰ったので、ここにはいない。
見れば、美術室の入口前に可愛らしい女子生徒がキョトンとした顔で立っていた。細身で小柄な、稀に見る美少女だった。スリッパの色を見るに、成宮達より一学年下の、一年生らしい。
「貴様、何者だ!」
「漫研なら下の階だぞ!」
「さてはスパイだな?!」
突然の女子の来訪に、三人は動揺を隠せない。
女子は「違いますよぉ」と笑った。
「私、美術部の見学に来たんです。絵画コンクールで賞を取られた作品を見て、興味をもちまして……可能であれば、入部させて頂きたいなぁ、と」
「入部だとぅ?!」
女子生徒の言葉に、ますます成宮達は動揺した。
確かに成宮が受賞したことで、美術部に興味を持つ生徒は格段に増えている。中には入部を希望する生徒もいた。だが、いずれも実際に入部するには至っていない。遊んでばかりいるのが気になるのだろう。
だからこそ、成宮達はどこまで彼女が本気なのか知りたかった。
「ここは絵を描かない系美術部だぞ?! まぁ、最近はマネージャーの指示で描かされているが……それを知ってて入部したいと言っているのか?!」
「はい」
「本格的に絵を描きたいなら、漫研の方がいいに決まってるのに、わざわざ僕らの美術部に入部したいの?!」
「はい」
「神☆メイは好きか?!」
「はい! シングルもアルバムも全部持ってます!」
「採用。こいつはスパイじゃない」
「待て待て待て」
同じアイドルのファンだと分かった途端、音来は警戒を解いた。
あまりに軽率な判断に、成宮と大城は呆れた。
「冷静になれ、音来。絵を見て美術部に興味を持ったやつが、絵を描かない美術部に入りたいと思うか?」
「最初は楽しくても、途中で飽きて退部しちゃうかもしれないでしょ? 部員が増えるのは嬉しいけど、辞められたら意味ないよ」
「……それなら、試してみればいい。こいつが何処まで本気なのか」
「試すって、どうやって?」
「フッ、決まっているだろう?」
音来は不敵に笑い、断言した。
「レクリエーションだ! 俺達の創作ゲームをプレイして、本当に楽しめるかテストするんだよォ!」
「つまり……体験入部というわけですか?」
「そうとも言う」
こうして美術部の面々は、マネージャーに禁止されていた創作ゲームをさらっと行うこととなった。
「熊った」
「熊り果てた」
二学期に入り、成宮ら美術部部員達は美術室で頭を悩ませていた。文化祭で掲示する作品をどうしようか考えていたのだ。
成宮と音来の絵は、夏の高校生絵画コンクールで賞を受賞したため、今も美術館の一角に展示されている。現在手元にあるのは、大城のイラスト一枚だけ……部活動としての実績を残すためには、一枚では足らなさ過ぎる。とは言え、成宮はスランプで絵を描けず、音来はその気にならないと描かない。
いっそ、これまでの美術部同様、レクリエーションの模擬店をすればいいのではないかとマネージャーに提案してみたが、即刻却下されてしまった。
「何をお困りなのですか?」
「うぉっ?! 耳慣れぬ女子の声!」
三人は一様に驚いて飛び上がり、振り向いた。マネージャーは家の用事で先に帰ったので、ここにはいない。
見れば、美術室の入口前に可愛らしい女子生徒がキョトンとした顔で立っていた。細身で小柄な、稀に見る美少女だった。スリッパの色を見るに、成宮達より一学年下の、一年生らしい。
「貴様、何者だ!」
「漫研なら下の階だぞ!」
「さてはスパイだな?!」
突然の女子の来訪に、三人は動揺を隠せない。
女子は「違いますよぉ」と笑った。
「私、美術部の見学に来たんです。絵画コンクールで賞を取られた作品を見て、興味をもちまして……可能であれば、入部させて頂きたいなぁ、と」
「入部だとぅ?!」
女子生徒の言葉に、ますます成宮達は動揺した。
確かに成宮が受賞したことで、美術部に興味を持つ生徒は格段に増えている。中には入部を希望する生徒もいた。だが、いずれも実際に入部するには至っていない。遊んでばかりいるのが気になるのだろう。
だからこそ、成宮達はどこまで彼女が本気なのか知りたかった。
「ここは絵を描かない系美術部だぞ?! まぁ、最近はマネージャーの指示で描かされているが……それを知ってて入部したいと言っているのか?!」
「はい」
「本格的に絵を描きたいなら、漫研の方がいいに決まってるのに、わざわざ僕らの美術部に入部したいの?!」
「はい」
「神☆メイは好きか?!」
「はい! シングルもアルバムも全部持ってます!」
「採用。こいつはスパイじゃない」
「待て待て待て」
同じアイドルのファンだと分かった途端、音来は警戒を解いた。
あまりに軽率な判断に、成宮と大城は呆れた。
「冷静になれ、音来。絵を見て美術部に興味を持ったやつが、絵を描かない美術部に入りたいと思うか?」
「最初は楽しくても、途中で飽きて退部しちゃうかもしれないでしょ? 部員が増えるのは嬉しいけど、辞められたら意味ないよ」
「……それなら、試してみればいい。こいつが何処まで本気なのか」
「試すって、どうやって?」
「フッ、決まっているだろう?」
音来は不敵に笑い、断言した。
「レクリエーションだ! 俺達の創作ゲームをプレイして、本当に楽しめるかテストするんだよォ!」
「つまり……体験入部というわけですか?」
「そうとも言う」
こうして美術部の面々は、マネージャーに禁止されていた創作ゲームをさらっと行うこととなった。
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