美術部俺達

緋色刹那

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第四話「美術部だってマラソンしたいっ!」

3,恩田の行方

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 その頃、恩田は一人で独走状態にあった。後ろを振り返っても、誰もいない。
 ただ、コースの数メートルおきにいるはずの教師とも会わないのは、違和感があった。恩田が普段利用している通学路でもないため、自分がどこを走っているのかも分からない。現在地を調べようにも、スマホは学校のロッカーに仕舞ってあり、連絡を取ることすらも出来なかった。
「うーん……もしかして、迷子になった? おかしいな……この地図の通りに走ったのに」
 恩田は改めて地図を確認し、「あっ」と青ざめた。
「道……一本間違えたかも」
 とりあえず後戻りするが、今度は来た道を間違え、さらに新たな道へと迷い込む。
 進めば進むほど迷っていき、恩田は完全に方向を見失った。しかし、
「あ、あんなとこにパン屋さんがある! 今度行ってみようかなー」
 恩田は景色の真新しさに目を奪われ、まるで危機感を持っていなかった。

     ◯●◯●◯

 むしろ危機感を抱いていたのは、彼の後続を走っていたはずの、同じ陸上部の友人だった。
 髪を赤みがかった茶色に染めている彼、道尾みちおがコースを一周し、校門へ戻ってくると、校門の前で待機していた陸上部の顧問が心配そうに駆け寄ってきた。
道尾みちお、恩田に何かあったのか? まだ一度も校門に来てないんだが」
「なんですって?」
 道尾は眉をひそめた。彼も途中までは恩田の姿を見ていたが、いつの間にか消えていた。てっきり、ものすごいスピードで突き放されたと思っていたのだが、校門に来ていないとなると、話は変わってくる。
 道尾は走りながら、陸上部の顧問に言った。
「……俺、恩田を探してきます。もしかしたら、迷子になってるのかもしれない。あいつ、結構方向音痴だし」
 しかし陸上部の顧問は首を振った。
「いや、お前はマラソンに集中しろ。恩田のことは必ず見つける。任せておけ」
 そう命じると、顧問は一旦学校へ戻り、他の教師に応援を頼んだ。突然の恩田の失踪に他の教師達も驚き、慌てて探しに行く。
 道尾も恩田を探しに行きたい衝動に駆られたが、グッとこらえた。
「恩田ー! どこにいるんだー!」
 走りながら、恩田に呼びかける。
 だが、その声は本人には届かなかった。

     ◯●◯●◯

 恩田の耳に届いたのは、大勢の声だった。
 何を言っているのかは分からなかったが、ずいぶん楽しそうだった。
「お祭りでもやってるのかな?」
 恩田はその声に導かれるように、ひと気のない道を真っ直ぐ進んでいった。
 やがて、見覚えのある道にたどり着いた。どうやらコースをかなり大回りしてきたらしい。スタートから半分ほど走ったあたりの通りだった。
 その時、目の前を大勢の男子の一団が騒々しく走っていった。
「神の支配が終、わ、る、ま、で!」
「天使を構成する5つの条件!」
「「「アイ、イデ、ウロ、エン、オー!」」」
「「「偶像、理想、輪廻、無秩序、輝き!」」」
「「「God Make、God Maker、God makest!」」」
 恩田は思わず立ち止まり、目を丸くした。
「……へ?」
 その一団は、成宮達をはじめとする二年生の男子達だった。
 成宮達以外の男子達は三人が歌いながら走っていくのを見て「面白そうだ」と興味を抱き、歌詞を教えてもらって一団に加わったのだ。
 中には音来と同じ神☆メイファンもおり、声が枯れてきた音来の代わりにボーカルを担当したり、率先して合いの手の掛け声を行なったりしていた。
「二番、行くぞー!」
「「「ウォォォ……!!」」」
 一団は雄叫びを上げ、去っていく。
 恩田は唖然として見送った後、目を輝かせて追っていった。すぐに先頭で走っていた成宮に追いつき、並走した。
「やぁ! 面白そうなことしてるね! 僕も混ぜてくれない?」
「おぉ、いいぞ……って、恩田?!お前、まだこんなとこを走ってたのか? ここ、最後尾だぞ?」
「それが、途中で迷子になっちゃったんだ。この道を真っ直ぐ行けばいいはずなんだけど……」
 恩田は成宮にマップを見せ、ピンクの線を指差した。
 当然、そんな線は成宮達のマップには書かれておらず「なんだこりゃ?」と成宮は顔をしかめた。
「このマップ、間違ってるぞ。俺達がもらったマップにはそんな線は書いてない。誰かにイタズラ書きされたんじゃないか?」
「イタズラ……」
 恩田は真っ先に、マップを渡してきた本加納の姿が思い浮かび、顔を曇らせた。
「あぁ……なるほど」
「心当たりあるのか?」
 恩田は頷いた。
「先月、告白してきた子だよ。僕は部活で忙しいって断ったんだけど、しつこくて……最近は静かだったから、油断してた。まさか、こんな嫌がらせをしてくるなんてね」
「……本加納か」
「知ってるの?」
「ちょっとな。でも……今は、あいつのことは忘れようぜ」
 恩田は周囲の男子を見回した。
 彼らは成宮と恩田が話している間も、歌い続けていた。
「神に背負わされし贖罪」
「「「カルマ!」」」
「求められてた傑作」
「「「キメラ!」」」
「逆らえぬ絶対神」
「「「クロノス!」」」
 タイムも、女子達からの冷たい視線も気にせず、嬉々として歌う彼らを、恩田は眩しそうに見つめた。
「……そうだね。僕も協力するよ。歌詞、知らなくても大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫。三周目くらいで覚えるから」
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