美術部俺達

緋色刹那

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第三話「成宮の恋の予感(暴露)」

5,チキチキ☆デッサンクイズ!

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 成宮が公園に戻ってくると、美術部のメンバーは自動販売機で購入したアイスを食べていた。
「おいおい、人が昼飯買いに行ってる間にアイス食ってんじゃないよ」
「だって成宮くん、遅かったんだもん」
「何かあったの?」
「……ちょっとな」
 成宮は財布をスられたこと、恩田が取り返してくれたことなどを順を追って話した。
 しかし、恩田の走る姿を見てインスピレーションを感じたことは黙っておいた。もし話したら「実際に描いてみれば?」と言われるのは分かっていた。
「噂の恩田くんに?! すごい偶然だね!」
「だよなー。お前らはちゃんと絵を描いてたのか?」
「暇だったからね。それで、成宮くんにやってもらいたいことがあるんだけど……」
 大城は咳払いし、宣言した。
「チキチキ! 『この絵は何でしょう?』デッサンクイズゲーム!」

        ◯●◯●◯

 唐突にゲーム開始の宣言をされ、成宮は戸惑った。
「なんじゃそりゃ?」
「そのままの意味だよ。僕達が何のデッサンを描いたか当てて欲しいんだ。二人とも酷いんだよ。僕が何のデッサンを描いたか分かんないって言うんだ! 二人だって何が何だか分かんない絵を描いてるのにさ! だから、成宮くんに誰が一番デッサンが上手いか決めてもらおうと思って」
「チェルザ大城のデッサンか……」
 彼らは今まで美術部としてまともに活動して来なかった。当然、部活動でデッサンをやったこともない。
 しかし、大城は絵を描ける人間だった。
 正確には「イラスト」を描くのが趣味で、漫画やアニメに登場する可愛らしい女の子の顔を描くのが得意だった。美術部に入部したのも、自由にイラストを描きたかったかららしい。
 部活でもたびたびイラストを描いており、成宮も大城の画力の高さをよく分かっていた。
「どれ、見せてみろ」
「よろしくお願いします!」
 大城は自分のスケッチブックをうやうやしく渡す。
 成宮は大城のスケッチを受け取り、表紙をめくった。

「これは……かなり上手いな」
「でしょ!」
 大城は得意げに胸を張る。
 大城のデッサンは、セーラー服を着た女子が木の後ろから顔を出している絵だった。目がぱっちりとした可愛らしい女子で、かなり上手い。
 だが、絵を見た成宮は渋い顔をしていた。
「……ところで、この女子は誰だ?」
「魔法少女☆ハルティンの主人公、錵花陽花にえはなはるかちゃんだよ」
「架空のキャラクターじゃねーか」
「失敬な! キャラクターデッサンだって、れっきとしたデッサンでしょ?!」
 反論する大城を、マネージャーが「そんなのルール違反よ」と睨む。
「公園にあるものをデッサンするって、最初に決めてたでしょ? 私もゴミ袋キング音来くんも実際のものをデッサンしたのに、一人だけズルいわ」
「俺だって、神☆メイが描きたかった」
 成宮は二人の意見を聞き「なるほど」と頷いた。
「じゃあ、チェルザ大城は反則負けということで、失格」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 確かにハルティンは三次元には存在してないけど、木は実際に公園にあったやつを見て描いたんだよ? せめて、木のデッサン分のポイントは頂戴よ!」
 大城は木のデッサンを指差し、成宮にすがりつく。女の子のイラストとは裏腹に、木のデッサンはかなり雑に描かれていた。
 大城は女の子のイラスト以外、絵はほとんど描かない。そのため、女の子のイラスト以外の絵を描くとなると、途端にやっつけ仕事になってしまっていた。
「……仕方ないな。チェルザ大城におまけでいちポイント」
「やったー!」
 それでもデッサンは、デッサン。成宮は大城の主張を受け入れ、ポイントを与えた。
「ちなみに、罰ゲームはあるのか?」
「罰ゲームというよりも、課題ね」
 マネージャーは罰ゲームならぬ課題について説明した。
「画力を鍛えてもらうために、今日から一週間、そのスケッチブックにデッサンを描いてもらうわ。もちろん、実際のものを見て描かなくちゃダメ」
「それ、罰ゲームじゃん!」
「めんどくせー!」
 架空の女の子のキャラクターを描きたい大城と、音楽を聴く時間を奪われたくない音来は課題の内容を聞き、絶叫した。
 騒ぐ二人を、マネージャーは「だまらっしゃい!」と睨む。途端に二人は口を閉じ、大人しくなった。
「じゃあ、次は音来が描いたデッサンを見せてくれ」
「頼む」
 音来は緊張した面持ちで、成宮にスケッチブックを渡す。
 一枚目に描かれた、成宮が本加納にビンタされた瞬間の絵をめくると、哀愁漂う太っちょの男性の後ろ姿が現れた。

 音来のデッサンは最低限の線で端的に描かれており、大城よりもデッサンとしての完成度が高かった。
「これは……大城か?」
「違うよ! 成宮くん、太っちょはみんな僕だって思ってない?!」
「でも、すごいそっくりだろ?」
「体格だけね!」
 成宮はてっきり、大城のデッサンかと思ったが、絵を描いた張本人である音来は「違う」と首を振った。
「これは大城じゃない。さっきまで段差に腰掛けていたサラリーマンだ。朝からずっと段差に座って、項垂れていた。日曜日に出勤するとは、社会人は大変だな」
 音来の話を聞いて、一同は絵のモデルとなったサラリーマンを哀れんだ。
「……そうだな。社会人は大変だな」
「僕達も他人事じゃないかもね」
「ご愁傷様……」
 結果、音来のデッサンは見る人に訴えかけるような絵だったとして、十ポイント満点中、八ポイントを獲得した。
「これで音来は"デッさん"の称号を免れたな」
「っしゃぁ!」
「何その称号?! ダサっ!」
「罰ゲームだからな、ダサい名前にしないと。あと、"一週間デッサン"と"デッサン=ウィークリー"と"鉛筆王"という候補もあるが、変えるか?」
「どれも嫌だ!」
「もしデッサン=ウィークリーに変えてお前が負けたら、チェックメイト=ルーザー=デッサン=ウィークリー大城になるな」
「長いよ! もうデッさんのままでいいから!」
「それじゃ、最後は私ね」
 マネージャーは自信ありげに、スケッチブックを成宮に差し出した。
「普段絵は描かないんだけど、結構上手く描けたと思うわ」
「マネージャーの絵か……今まで見たことないから、楽しみだな」
 するとマネージャーの番になった途端、大城と音来の顔が青ざめた。
「成宮くん、覚悟して見た方がいいよ」
「薄目で見ろよ。うっかり直視すると、トラウマになるぞ」
「? どうしたんだ? 二人とも」
「トラウマになるなんて、酷いこと言うわね。こんなに可愛いのに」
 マネージャーはムッとして、スケッチブックをめくり、成宮に絵を見せた。
 
 それは四本足で立つ、黒い化け物だった。耳も手足も尾も鋭利に尖っている。
 顔をこちらに向けており、よく見るとポッカリ空いたうろのような大きな目と、裂けた口が見えた。化け物は不気味な笑みを浮かべ、こちらをジッと見ていた。
「ほら、可愛いでしょ?」
 マネージャーは自信満々に目を輝かせる。
 本人としては、公園を散歩していた黒猫を描いたつもりだったが、どう見ても得体の知れぬ化け物だった。
「こ……」
 成宮は絵を見た瞬間、硬直した。そして大城と音来の忠告むなしく、黒猫の顔を凝視してしまった。
 直後、黒猫が不気味な笑みを浮かべていることに気づき、成宮は悲鳴を上げた。
「怖っ!!!」

        ◯●◯●◯

 ゲームの結果、絵の正確さなどを加味し、"デッさん"は大城に決まった。
 マネージャーの絵はしばらく脳内から離れないほどインパクトはあったものの、絵の正確さという点ではわずかに大城の木を上回り、二ポイントを獲得した。
「というわけで、お前は今日から一週間"チェックメイト=ルーザー大城デッさん"だ。デッサン頑張れよ、チェルザde大城」
「さっそく短くしないで!」

(第四話へ続く)
 
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