美術部俺達

緋色刹那

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第三話「成宮の恋の予感(暴露)」

2,本加納が陸上部を好きになった理由

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「なんですって……?」
 女子の言葉を聞いた途端、本加納は憎悪に満ちた眼差しで成宮を睨みつけた。
「どういうこと? 本当に陸上部じゃないの? 他の運動部でもなくて?」
「う、うん」
 女子は怒りを露わにする本加納に引きつつも、頷いた。
「間違いないよ。私、一年生の時にその人と同じクラスだったから」
「え、マジで?」
 成宮は彼女のことを全く覚えておらず、驚いた。
「うん、マジ。名前は忘れちゃったけど、よく他の美術部の人が迎えに来てたから覚えてたの。あと私、陸上部のマネージャーだから、みんなの顔と名前は覚えてるんだよね」
「あー……なるほど」
 ただの元クラスメイトなら言いくるめることも出来たが、陸上部のマネージャーでは言い訳しようがない。
 成宮はこれ以上誤魔化すのを諦め、素直に本加納へ頭を下げた。
「すまん。そういうことだ。騙して悪かった」
 次の瞬間、成宮は本加納に胸ぐらをつかまれた。
 女子とは思えない凄まじい腕力で胸ぐらを引き上げられ、強制的に顔をあげさせられると、頬を思い切り叩かれた。「パァンッ!」と風船が破裂した時のような鋭い音が周囲に響き渡った。
「ぐふぉっ?!」
 成宮は抵抗する間もなく、もろに平手を喰らい、地面に倒れた。
 彼の頬は真っ赤に腫れ上がっていた。
「さようなら……永遠に」
 本加納は成宮への報復を済ませると踵を返し、足早に去っていった。
 交際一日にも満たない、スピード破局であった。

     ◯●◯●◯

 本加納が去った後、木の後ろに潜んでいた大城、音来、マネージャーが成宮のもとへ駆け寄った。
「成宮くん、大丈夫?」
「すぐに冷やした方がいいわ」
「平気だ。それよりゴミ袋キング音来、絵はかけたか?」
 大城とマネージャーの心配をよそに、成宮は打たれた頬を手で押さえながら音来に尋ねた。
 音来は親指を立て、「パーフェクト」と、脇に抱えていたスケッチブックを見せた。そこには成宮が本加納にビンタされた瞬間が、躍動感あふれるタッチで描かれていた。
「上手いな。絵を描く才能があるんじゃないか?」
「フッ……褒めたって、ペナルティは実行してもらうぜ?」
「それは残念」
 そのやり取りを見ていた岡野は「呆れた」と冷ややかな眼差しを成宮に向けた。
「君、その人に絵を描いてもらうために、梨花を騙したの?」
「悪いな。でも、先に勘違いしたのは向こうだ。校内を走っているだけで、陸上部だと決めつけられたんでな。陸上部に何を期待しているのか知らないが、出会っていきなり交際を持ちかけるのはどうかしているぞ」
「まぁ……梨花はああ見えて、ロマンチストだから」
 丘野は本加納がなぜ陸上部に執着するのか、訳を話した。
「"陸上部の王子様"って漫画、知ってる? 大勢のイケメンの選手が互いに切磋琢磨しながら、インターハイを目指すって話なんだけど」
「陸プリのこと? 少し前に流行ったよね。アニメ化とか映画化とかしてさ」
 漫画に詳しい大城が食いつく。
「チェックメイト=ルーザー大城も読んでたのか?」
「まさか! ほぼ野郎しか出てこない漫画なんて、興味ないね。人気があったのは、女子の間だけだよ。あ、でも主人公の妹が結構可愛かったんだよね。女子ファンには不評だったけど」
「その陸プリと本加納さんに、どんな関係があるの?」
 マネージャーに聞かれ、丘野はため息混じりに答えた。どうやら、本加納に呆れているようだった。
「梨花もね、中学の頃にその漫画にハマっちゃって、それ以来陸上部の男子に対して異常に執着するようになったの。現実の陸上部も、漫画に出てくる陸上部と同じように、王子様みたいなイケメンがたくさんいると思い込んだみたい」
「いやいや、そんな都合よくイケメンがいるわけないでしょ。現実はそんな甘かないって」
 二次元と三次元の違いをよく理解している大城がつっこむ。
 しかし、丘野は「それが、いたのよ」と首を振った。
「うちの高校の陸上部、だいたい百人くらいいるんだけど、中には梨花のお眼鏡にかなう男子もいてね。特にエースの恩田くんは、梨花の理想の"王子様"でね、ずっと付き纏ってたみたい。この前告白したみたいなんだけど、フラれたって怒ってた。他の候補もみんなダメだったらしくて……もう陸上部だったら誰でもいいやと思ったんじゃない?」
「なるほど。それで、俺に白羽の矢が立ったのか」
「でも、そんなに陸上部が好きなら、成宮くんが陸上部じゃないってすぐに気づくんじゃないの?」
 丘野は首を振った。
「あの子、イケメンしか眼中にないから、他にどんな部員がいるかまで把握してないんだよ。部活もバスケ部だから、グラウンドに来るのは部活がない日だけだし」
「にしたって、運動部ですらない成宮くんを陸上部だと勘違いするなんて……そんなに速く走ってたの?」
 成宮はマネージャーに尋ねられ、昨日のことを思い返してみた。
「うーん……剛田から逃げるのに夢中だったから、あまり覚えていないな。火事場の馬鹿力というやつだったのかもしれん」
「くぅっ! 僕にも火事場の馬鹿力があれば、逃げ切れたかもしれないのにっ!」
「……」
 一同は大城の出っ張った腹を見て、「たぶん無理だろうな」と密かに思った。
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