美術部俺達

緋色刹那

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第二話「成宮の恋の予感(出会い)」

6,スニーキングゴミ袋

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 成宮が提案したのは、「スニーキングゴミ袋」というゲームだった。
 部活時間が終わるまでに、より多くのゴミ袋をゴミ収集場まで運ぶというゲームで、最も多くゴミ袋を運んだ者には「ゴミ袋キング」の称号が与えられ、今月のゴミ当番候補から除外される。ゴミ袋をゴミ収集場以外の場所に放置しない、他の生徒に迷惑をかけない、危険な行動はしないといったルールを守る限り、何をしても構わない。廊下や階段を走るのも自由だ。
 ただし、校内を徘徊している剛田に声をかけられたら、どんなに急いでいても立ち止まって話を聞かねばならない。ただの世間話ならばまだしも、校内を走っているところを見つかれば、そのまま生徒指導室行きは確実だった。

        ◯●◯●◯

「ずいぶん真面目にゴミ袋を運んでくれるわね。ちょっとは休んでもいいのよ?」
 ゲーム開始から三十分ほどが経過した。あれだけあったゴミは順調に運ばれ、残り半分以下になっていた。
 現在、成宮がトップで、次点に音来、最下位が大城で、成宮から五周遅れていた。
「ま、まだ大丈夫だ。いける」
「こ……これ以上、差を開くわけには行かないからね……!」
「絶対にゴミ袋キングになってみせる」
 三人は疲労困憊になりながらも、ゲームに勝利するべく、マネージャーからゴミ袋を受け取り、美術室を後にした。
「……また懲りずに、レクリエーションしてるわね。まぁ、真面目にゴミ袋を運んでくれるなら、かえって都合がいいけど」
 マネージャーは彼らがレクリエーションしていることに薄々気づいていたが、敢えて咎めず、放っておくことにした。
 ただ、マネージャーには一点、気になることがあった。
「それにしても、どうして成宮くんは背中にを貼っているのかしら? あれもゲームに関係してるってこと?」
 成宮の背中には、昨日の絵しりとりリレーで参加者に描いてもらった、剛田そっくりのゴリラの絵が貼られていた。

        ◯●◯●◯

 それはゲームが始まる前、ゴミ収集場で成宮からゲームのルールを聞いた大城の一言がキッカケだった。
「でもさー、結局のところ体力勝負なわけでしょ? 僕、不利じゃない?」
 不満そうな大城に同意するかのように、彼の腹回りにたっぷりついた脂肪もユラユラと揺れる。
 成宮も大城の言い分に納得し、「それもそうだな」と頷いた。
「音来もさほど体力がある方じゃないし、俺に不利なハンデをつけよう」
 こうして成宮は自ら重いハンデを背負い、戦いに臨んだ。
 前半戦は剛田が通り過ぎてから階段を下りたため、気づかれることはなかった。
 だが、後半戦が始まってすぐ、成宮はやらかした。
「あれ? 成宮くん、剛田先生の絵は?」
 一周遅れでゴミ収集場へ到着した大城は、先に収集場に来ていた成宮の背中を見て、そこにあるはずの絵がないことに気づき、青ざめた。
 成宮も自らの背中に手を当て「あっ」と固まる。
「どっかに落としたかもしれない」
「えー、マズいよ! もし、剛田先生に拾われたりなんかしたら……!」
「やっぱり、お前らか」
 成宮と大城は背後から殺気を感じ、ゆっくりと振り返った。
 そこには、ゴリラの絵を持った剛田が立っていた。
「チェルザ(注:チェックメイト=ルーザーの略。現在の大城の称号)、すまん」
 その後の成宮の行動は早かった。
 剛田に話しかけられるより先に走り出し、それまでの疲労を感じさせない俊足で逃げていった。
「ちょっと、成宮くん! 一人で逃げるなんて、ズルいよ! そもそも、絵を背中につけてたのは成宮くんでしょ?!」
「ほお? 詳しく聞こうか」
「ひっ!」
 大城も後を追おうとしたが、剛田に肩をつかまれ、身動きが取れなくなった。
「……」
 遅れて校舎から出てきた音来は遠目からその光景を目撃し、二人に見つかる前に姿をくらました。
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