美術部俺達

緋色刹那

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第二話「成宮の恋の予感(出会い)」

5,立ちはだかる剛田

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「くそっ! 何で俺がこんな目に」
「仕方ないよ、音来くん。廃部になったら困るでしょ?」
「そうそう。大人しくゴミ袋を運ぼうぜ」
 成宮達はゴミで大きく膨れたゴミ袋を両手に持ち、階段を降りていった。
 マネージャーは柄本と美術準備室に残り、ゴミの仕分けをしている。
 ゴミをゴミ収集場まで運ぶのに比べれば楽な仕事だが、一つ一つ袋を開け、燃えるゴミも燃えないゴミも缶もビンも一緒くたになったのを分別するのは骨が折れそうだった。
「なにが、"生徒会の連中が来たら、なんとか誤魔化しておくわ。貴方達はゴミ捨てに専念して頂戴"だ! 俺も残りたかったわ!」
「……成宮くん、どうにか出来ない?」
 気が立っている音来を見て、大城は成宮に助けを求めた。
 成宮は「そうだな……」と暫し思案し、何やら思いついた。
「こういう時こそ、レクリエーションだ。今日の放課後が終わるまでに、より多くゴミ袋を収集場まで運ぶゲームをするというのはどうだろう?」
「それじゃ、ただの競争だろ? 俺はやらねぇからな」
 成宮の提案に、音来は冷たく返す。もしこのままゲームを行なったとしても、音来は途中で姿をくらますかもしれない。
「そうか。もっとゲームが面白くなる要素があればいいんだが……」
 成宮は頭を働かせ、よりゲームが面白くなりそうなアイデアを考える。
 そのまま三階の廊下へ下りた瞬間、横から大柄な男がぬっと姿を現した。
「おい、お前ら」
「あ、剛田先生。こんにちは」
 目の前に現れたのは、体育教師の剛田だった。ゴリラのような風貌で、成宮達を険しく睨んでいる。
「また昨日みたいに、下らんことをしでかそうとしているんじゃないだろうな?」
「ヒィッ!」
 その恐ろしい形相に、大城と音来は思わず悲鳴を上げ、成宮の背後に隠れた。
 一方、成宮は眉一つ動かさず、冷静に答えた。
「絵しりとりリレーなら、やりませんよ。今日はこの通り、ゴミ捨てで忙しいんで」
「ぬ、そうか……また下らんことをしていたら、生徒指導室に連れて行くからな」
 剛田は成宮の言葉通り、三人が大きく膨らんだゴミ袋を持っているのを見て、渋々引き下がった。
「はい。それじゃ」
 成宮は大城と音来を連れ、階段を下りていく。
 背後から剛田の視線を感じながら、なんとか校舎から脱出すると、大城と音来はホッと息を吐いた。
「まさか、剛田先生が僕達を見張ってるなんてね……。今日は大人しく、ゴミ袋を運ぼうよ。さすがに、生徒指導室に行くのはマズいって」
「あいつの視線にさらされながらゴミ袋を運び続けるなんて、嫌だ! マネージャーと交代させてくれ!」
 二人はすっかり剛田に怯え、ゴミ袋を運ぶ気力を失っていた。
 しかしただ一人、成宮だけは「何を言ってるんだ?」と訝しげに二人を見た。
「むしろ、剛田先生がいる方が好都合じゃないか。剛田先生はゴミ袋競争に足りない要素を埋めてくれる、重要な役割を持っているんだからな」

       ◯●◯●◯

「音来くん。僕は今日ほど成宮くんがゲーム狂だと思ったことはないよ」
 大城は新たに調達したゴミ袋を両手に持ち、階段を駆け下りていた。
 隣で並走している音来も「同感」と頷く。
「こんなことになるなら、ゴミ袋競争で妥協していれば良かった」
「本当にねぇ」
 二人が話している間、成宮は階段を二段飛ばしでかけ下りていた。彼は美術部の中で一番身体能力が高く、先程ゴミ収集場から美術室まで駆け上がったとは思えないほど、軽快な走りを見せていた。
 その成宮が三階へ到達する直前、急に減速した。それを見て、大城と音来も走るのをやめ、早歩きになる。
 すると案の定、目の前を剛田が横切っていった。剛田は三人をジロリと睨みながらも、黙って去っていく。
 成宮は剛田が自分に背を向けたのを確認すると、再度二段飛ばしで階段を駆け下りていった。その足音は「カツーン」「カツーン」と、あたかもゆっくり階段を下りているかのように、校舎内に響いていた。
 大城と音来にはそのような攻めたレースが出来ず、早足で下りるのが精一杯だった。
「さすが、成宮くんだ……毎日遅刻ギリギリに登校してるだけあって、足腰が運動部並みに鍛えられてる。階段も走り慣れていて、無駄な動きが一つもない……」
「これが、遅刻勢の本気か……!」
 計算し尽くした成宮の動きに、大城と音来はただ圧倒されるばかりだった。
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