美術部俺達

緋色刹那

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第二話「成宮の恋の予感(出会い)」

4,ゴミの壁

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「君達、どうしたの? そんな慌てて」
 準備室の中から現れたのは、美術部の顧問である柄本えもとだった。定年間近の美術教師で、授業がない日はもっぱら美術準備室で昼寝をしていた。
 柄本はよほど成宮達がこのドアを使うのが珍しいのか、つぶらな瞳をしばたたき、驚いていた。
 しかし彼以上に驚いていたのは、美術準備室の中の様子を見たマネージャーだった。
「な……何よ、これはッ!」
 美術準備室の入り口には、大量のゴミ袋がうずたかく積まれていた。百八十センチ近い身長の成宮よりも高く、もはや壁のようになっている。中身は失敗した絵やカラになった絵の具のチューブなどの、美術室らしいゴミから、コンビニ弁当の容器や空き缶などの美術とは関係ないゴミまで、多種多様だった。
 壁には人一人通れるほどの穴が空いており、どうやら柄本はこの穴から出て来たらしかった。
「あ、君が新しい部員の麻根路屋さん? 初めまして。僕は美術部顧問の柄本です」
「あぁ、どうも。今日からマネージャーになりました、麻根路屋乙女と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
 マネージャーはきちんと柄本に挨拶してから、「そんなことより!」と彼の背後にそびえ立っているゴミ袋の壁を指差した。
「あれは何ですか?! どう見ても、ゴミですよね?!」
「あー、これ?」
 柄本は壁を振り返り、困った様子で頭をかいた。
「全部、美術部のゴミだよ。今までの分が積りに積もって、この有り様でね。まぁ、僕の家もこんな感じだから、全然気にしてないけどね」
……?」
 マネージャーはゴミ袋の出どころが成宮達だと分かり、鬼の形相で振り返った。
 成宮達は青ざめ、慌てて弁解した。
「ご、誤解だ! 俺達はここには入れていない!」
「そうだよ! ここのは全部、歴代の先輩達が隠蔽したゴミなんだよ!」
「そうだ! 濡れ衣だ!」
 成宮達の仕業ではないと聞き、マネージャーはとりあえず怒りを鎮めた。
「どういうこと?」
 成宮達はホッと息を吐き、準備室にゴミ袋が放置されている理由を話した。
「部活で出たゴミは、部員がゴミ収集場まで持って行く決まりになっているのは知ってるな?」
 マネージャーは頷いた。
「えぇ。生徒会の仕事で見張りに立ってたことがあるから、よく知ってるわ」
「じゃあ、分かるよね? ここからゴミ収集場まで、かなり距離があるってこと」
 マネージャーはゴミ収集場までの距離を頭の中で思い浮かべ、「なるほど」と頷いた。
「ここは校舎の四階……こんな大きなゴミ袋を持って階段を下るのは、大変ね」
「しかもゴミ収集場は校舎の入り口からさらに百メートルほど先にある、隣の隣の校舎の裏手だ。階段を下るだけで一苦労だというのに、さらに歩かされるなんて、酷だと思わないか?」
「で、その結果がこれというわけ。僕らも捨てに行くのが嫌だから、なるべくゴミは出さないようにしてるよ」
「……一理あるわね」
 マネージャーは納得する姿勢を見せながらも「でも、」とゴミ袋の壁を睨んだ。
「こんな物が生徒会に見つかったら、大問題になるわ。最悪、廃部させられるかも」
「「「えーっ!」」」
 昨日に引き続き、廃部の可能性を突きつけられ、三人は声を上げた。
「ゴミを捨てないだけで廃部なんて、ありえるの?!」
「俺達が出したゴミでもないのにか?!」
「悪いのは、歴代の先輩共だぞ?!」
「でも、ドアを開けたらゴミの壁があるなんて、いい気はしないわよ。臭いとか、衛生的にも良くないわ」
 すると柄本が話に入ってきた。
「それは大丈夫。腐ってそうな物が入ってるゴミ袋は、僕が捨てに行ってるから」
「柄本先生、これは生徒の仕事ですよ? 勝手なことをしないで下さい」
 柄本は成宮達を援護するために言ったが、かえって逆効果になり、生徒であるマネージャーからキツく叱られた。
 柄本はマネージャーの気迫に萎縮したらしく、「はい」と素直に謝った。
 マネージャーは「次からは絶対にしないで下さい」と柄本に灸を据える。
 そして成宮達の方へ向き直り、ゴミの壁を指差して言った。
「今日の予定は、変更! 至急、これらのゴミ袋を全てゴミ収集場へ運ぶわよ!」
「……マジか」
「そりゃないって、マネージャーさん!」
「俺の至福の時間神☆メイ タイムがぁ……!」
 成宮達は抗議したが、顧問である柄本は部屋が片付くと知り、嬉しそうに表情を和らげた。
「あ、本当? いやぁ、嬉しいなぁ。君達、頑張ってねぇ」
「頑張ってって……」
「そんな他人事みたいに……」
 成宮達は柄本に呆れつつ、改めてゴミ袋の壁を見上げた。
 壁は今にも崩れそうなほど積まれ、下から見上げている成宮達を圧倒する。とても今日の放課後までに終わるとは思えなかった。
「これ……今から、全部運ぶの?」
「無茶振りにも程があるぞ」
「俺、部室で留守番してるわ」
「お前も行くに決まってるだろ、音来」
 こうして成宮達は、歴代のゴミを運ぶ作業を強いられることとなった。
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