美術部俺達

緋色刹那

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第一話「美術部、廃部の危機! それでも俺達はレクリエーションをやめない……」

おまけ:絵しりとりの行方(後編)

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〈前回のあらすじ〉
 部員を集めるために開催した絵しりとりは、混迷を極めていた!
 体育教師の剛田先生にしか見えないゴリラ、イワシ味のあるイルカ、枝がついているものは全て盆栽、石だって食べれる、ハスコラ許すまじ、まさかの剛田先生本人との遭遇……果たして、絵しりとりの行方は?


 八枚目の絵は、男性の絵だった。
「誰?」
「社会科の矢代やしろ先生だ」
 矢代先生は絵の男性と同じく、薄い眉とちょびヒゲに見えるアザが特徴的な先生だった。
 これには女子生徒も納得し、頷く。
「なるほど。前の絵と繋がってはいないけど、よく似てるわね」
 すると大城が横から訂正した。
「うん。本当は夏目漱石らしいんだけどね」
 それを聞いて、女子生徒は目を細めた。
「……何処が?」
「ヒゲとか、頬杖ついてるポーズとか」
「どっちにしろ、ラッパの"パ"から始まってないじゃない」
「それはそうなんだけど……」
 大城はスケッチブックを縦にし、前のラッパの絵を見せた。

 マウスピースが下になり、音が出るベルが上になる。
「このマーク、見覚えがない?」
「……携帯電話のアンテナマークね?」
 女子生徒は大城が持っているスマホを見て、思い出した。
「そうそう! 夏目漱石を描いた人は"マーク"を抜かして、"携帯電話のアンテナ"って答えてたけど、確かに似てるよねー」
「そしてまた例によって、この人も前の人の絵しか見なかったのね……」
「まぁ、見ても分かんないと思うけどね」

 九枚目の絵は、箱を積み上げたような造りのロボットだった。
「やっぱり、矢代先生だと思われてるじゃない」
「矢代の"ろ"だね。しょうがないよ、そっくりなんだから」

 十枚目の絵は、石が黒く塗り潰された指輪の絵だった。
「色がついてないから、何の宝石の指輪か分からないわね……ロボットの次ってことは、トパーズかトルコ石かしら?」
「おっ! 詳しいねー。もしかして、『ジュエリーヒロイン』、略してジュエヒロやってる?」
「なにそれ? 母がジュエリーアクセサリーが好きで、家に大量にあるから知ってるだけよ」
「宝石が大量にあるって……さては、大金持ちか?」
「……ただの、金に目がない哀れな人達よ」
 女子生徒は寂しげに目を伏せる。
 成宮と大城は「これは触れちゃいけない話題だな」と察し、話を戻すために次の絵をめくった。

「さっきの絵の正解はルビーだったんだけど、色がついてなかったからさすがに伝わらなかったんだ。それでもこの人はなんとか繋げようと、頑張ってくれたんだよ」
「それなら、もっと分かりやすい絵にして欲しかったわ」
 女子生徒は十一枚目の絵を見て、眉をひそめた。ラッパの絵以上に抽象的過ぎて、一体何を描いた絵なのか分からない。
「この人は九枚目のロボットの絵もちゃんと見て、描いてくれたんだよ。ちなみに、これが何の絵か分かる?」
 女子生徒は暫し考え、答えた。
「下を見てる目玉?」
「物騒だね……」
 成宮は十一枚目の絵を指差し、解説した。
「正解は頭痛だ。左右の棒が手で、真ん中の円が頭だそうだ。頭が痛くて、両手で押さえているというわけだな」
「こっちが頭痛になるわ」
 女子生徒は額に手を当て、うめいた。
「堪えてくれ。次が最後だから」
「せっかくだし、当ててもらおっかな」
 大城は最後の絵を女子生徒に見せた。

「……何これ」
「ヒントは、この絵を描いた人は前の絵を夕日だと予想したってことかな」
「腕を山、頭を太陽だと思ったらしい。言われてみれば、山と山の間に沈んでいく夕日にも見えなくもないな」
「いや、こじつけ過ぎるわよ」
 前の絵を夕日だと思ったということは、この絵の頭文字は"ヒ"になる。
 女子生徒は"ヒ"から始まるものを思いつく限り、上げてみた。
「人? 光? ヒル? ……でも、どう見ても手裏剣か、星にしか見えないのよね。雲っぽいものも描いてあるし」
「ちなみに、時間ギリギリまで聞いて回ったが、誰もこの絵が何の絵なのか当てられなかった。そのせいで、途中からクイズ大会になってしまったが、かなり美術部の宣伝になったぞ」
「あと、途中で矢代先生に会ったから、夏目漱石の絵を見せてみたよ」
「何て仰ってたの?」
 女子生徒は最後の絵の正体よりも、矢代先生が夏目漱石を何の絵だと判断するか気になった。
「"これ、僕じゃない? そっくりじゃん"だって」
「ついでに、剛田先生にもまた会ったから、ゴリラの絵を見せたら、"俺はこんなマヌケな顔じゃない"って怒られたよ」
「よく本人に見せようと思ったわね」
「だってそっくりだったんだもん」
 結局、女子生徒はその日の部活が終わるまでに、最後の絵が何の絵なのか答えられなかった。
「降参。答えは?」
 成宮は窓を指差し、答えた。
「飛行機だ」
 成宮が指差した先には、澄み切った青空に白い軌跡を残しながら飛んでいく、一機の飛行機の姿があった。
「……部員、増えるといいわね」
 女子生徒は遠ざかっていく飛行機を眺め、言った。内心では「たぶん来ないわね」と確信していた。
「そうだな」
「またやろうよ、絵しりとり。今度は色ペンも使ってもらってさ」
 成宮と大城も飛行機を見上げ、頷く。
 その提案を、女子生徒は「こっちのメンタルがやられるわ」と速攻、却下した。
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