6 / 97
第一話「美術部、廃部の危機! それでも俺達はレクリエーションをやめない……」
おまけ:絵しりとりの行方(前編)
しおりを挟む
後日、成宮達は新しく美術部に入部した女子生徒に
「そういえば、絵しりとりリレーってどんな感じになったの?」
と尋ねられ、あの日のスケッチブックを見せることになった。
「なかなかシュールだぞ」
「興味深い結果になったよね」
「俺のヘッドホンが、色んな知らない奴に使われた……」
「ありがとね、音来くん。このゲームが成り立ったのは、君のヘッドホンのおかげだよ」
女子生徒はしりとりの絵を最初から最後まで通して確認し、首を傾げた。
「これ、しりとりになってるの?」
「いや?」
「なってないね」
描いた生徒から答えを聞いていた成宮達も首を振る。
「黒のサインペンしか用意してなかったせいか、みんな勘違いしちゃったみたい」
「まぁ、これぞ絵しりとりの醍醐味だけどな」
成宮は女子生徒からスケッチブックを引き受け、大城と共にそれぞれの絵について説明した。
「まず、最初の絵だ」
成宮が表紙をめくると、りんごの絵が現れた。
「俺達は最初のお題をしりとりの"り"から始まる絵にしてもらった」
「これはりんごよね。分かりやすいわ」
「ただ……問題は次だ」
そう言うと成宮は紙をめくり、二枚目の絵を開いた。
「……何なの、これは?」
「ゴリラだそうだ」
「ゴリラ?!」
女子生徒は絵をマジマジと観察し、ゴリラの要素を探す。
「確かに、鼻はゴリラっぽいけど……全体的見ると、びっくりしてる人間みたいに見えるわね」
彼女の言葉に、大城も「そうなんだよね」と頷いた。
「このゴリラよりも人間寄りなゴリラの絵によって、次の絵が生まれてしまうんだよ」
大城は紙をめくり、三枚目の絵を見せた。
「……さっきの絵って、ゴリラだったはずよね?」
女子生徒は動揺を隠せず、大城に確認した。
「そうだね」
成宮も大城も女子生徒の気持ちがよく分かるらしく、複雑そうな表情を浮かべる。
「でも……これは魚よね?」
三枚目の紙に描かれていたのは、魚にしか見えないほど細身のイルカだった。
「魚だね」
「本当はイルカだけどな」
成宮と大城も頷き、同意する。
「……どうしてゴリラからイルカが?」
すると大城はポケットからスマホを取り出し、一枚の写真を女子生徒に見せた。そこには黒板の前に立ち、授業を行なっているジャージ姿の大柄な男が映っていた。
「この人、誰か知ってる?」
「体育教師の剛田先生でしょう? ……って、まさか!」
女子生徒は先程のゴリラを思い出し、ハッとした。
大城も「そのまさかだよ」と頷いた。
「三番目の人は、このゴリラの絵を剛田先生だと思っちゃったんだよ。まぁ実際、剛田先生は驚くと、こういう顔になっちゃうんだけどね」
「それでイルカになったのね」
「うん。でも、勘違いはこれだけじゃ終わらなかったんだ……」
大城は次の絵を見せた。
四枚目はシカの絵だった。ツノが線で描かれており、木の枝のようにも見える。
「この人も僕達と同じように、イルカを魚だと思ったんだ。何の魚かまでは分からなかったから、二枚目の絵を確認してイワシだって考えたみたい」
「……最初が"イ"ってことは、またゴリラを剛田先生だと思われてるじゃない」
女子生徒は「びっくりしているゴリラ=剛田先生」という認識が生徒共通だという事実に呆れた。
「でもこれならシカだって分かるから、大丈夫ね」
しかし成宮と大城は「いやいや」と首を振った。
「ここからが本当の恐怖の始まりだよ」
「ともかく、次に絵を見てくれ」
五枚目の絵を見て、女子生徒は状況が理解出来ず、ポカンとした。
「これは石よね?」
成宮と大城は黙って頷く。
「でも……さっきの絵はシカだったわよね?」
「この絵を描いたやつは盆栽だと思ってたけどな」
「ぼっ?!」
女子生徒は再度、シカの絵を確認した。ツノこそ貧弱だが、どう見ても可愛らしいシカにしか見えない。
「何処が盆栽なのよ?! 大体、盆栽に顔なんてついてないでしょ?!」
「これ描いたの、盆栽部の人だったんだよ」
「"枝がついているから、盆栽だ!"って言ってたな」
「どんな理論よ。でも、これなら石だって分かりやすいわね」
六枚目の絵が出てきた途端、女子生徒の眉と眉の間のシワが深くなった。
「何処から出てきたの、このチーズは?」
「六枚目のやつは五枚目の絵だけを見て判断したんだが、あらゆる物が食べ物に見える変わり者でな、"点がたくさんついている楕円形のものと言えば、みかんだ! でもみかんじゃ終わるから、柑橘系のどれかだ!"と言って、その時一番食べたかったすだちを選んだ。結果、すだちの"ち"から始まるチーズになったというわけだ」
「お願いだから、他の絵も見て欲しかった……」
七枚目の絵は女子生徒にも分からなかった。険しい眼差しでジッと目を凝らすが、絵がシンプル過ぎて、分かりにくいようだった。
しばし考え込んでいたが、やがて諦め、成宮と大城に尋ねた。
「ごめんなさい、分からないわ。答えは?」
その時、吹奏楽部の演奏が階下から聞こえてきた。成宮はちょうどトランペットのソロパートになったところで床を指差し、答えた。
「ラッパ」
「シンプル過ぎる」
「でも昔のラッパってこんな感じじゃない?」
「それはそうだけど……で、どうしてチーズからラッパに?」
成宮と大城は当時のことを思い出し「この時は大変だったよ」と肩をすくめた。
「この絵を描いた子にチーズの絵を見せたら、悲鳴上げられちゃってさー。たまたま通りかかった剛田先生に見つかって、すごい剣幕で怒られちゃった」
「もう剛田先生はいいわよ。それにしても、どうしてその人はチーズの絵を見て、悲鳴を上げたのかしら?」
すると成宮はチーズの絵を開き、女子生徒の目の前に突き出した。女子生徒は思わず、身を引く。
「この絵……ジッと見ていると、ムズムズしてこないか?」
女子生徒は成宮に言われるまま、チーズの絵を見つめようとした。しかしだんだんと体がゾワゾワとする感覚に襲われ、視線を背けた。
「ウッ……なるほど、集合体恐怖症だったのね、その子」
「そう。俗に言う、ハスコラというやつだ。俺達は剛田先生になんとか企画を説明し、相手の生徒にも続きの絵を描いてもらった。彼女はチーズの絵をまともに見ることが出来ず"穴だらけの絵は全部ハスコラよ! この絵を描いた馬鹿をしばいてくる!"と言って、ハスコラの"ラ"から始まるラッパを描いて、チーズの絵を描いた生徒をしばきに去っていった」
「チーズの絵を描いてしばかれるなんて、不条理だわ……ご愁傷様」
女子生徒はチーズに絵を描いた誰かを憂い、紙をめくった。
(後編に続く)
「そういえば、絵しりとりリレーってどんな感じになったの?」
と尋ねられ、あの日のスケッチブックを見せることになった。
「なかなかシュールだぞ」
「興味深い結果になったよね」
「俺のヘッドホンが、色んな知らない奴に使われた……」
「ありがとね、音来くん。このゲームが成り立ったのは、君のヘッドホンのおかげだよ」
女子生徒はしりとりの絵を最初から最後まで通して確認し、首を傾げた。
「これ、しりとりになってるの?」
「いや?」
「なってないね」
描いた生徒から答えを聞いていた成宮達も首を振る。
「黒のサインペンしか用意してなかったせいか、みんな勘違いしちゃったみたい」
「まぁ、これぞ絵しりとりの醍醐味だけどな」
成宮は女子生徒からスケッチブックを引き受け、大城と共にそれぞれの絵について説明した。
「まず、最初の絵だ」
成宮が表紙をめくると、りんごの絵が現れた。
「俺達は最初のお題をしりとりの"り"から始まる絵にしてもらった」
「これはりんごよね。分かりやすいわ」
「ただ……問題は次だ」
そう言うと成宮は紙をめくり、二枚目の絵を開いた。
「……何なの、これは?」
「ゴリラだそうだ」
「ゴリラ?!」
女子生徒は絵をマジマジと観察し、ゴリラの要素を探す。
「確かに、鼻はゴリラっぽいけど……全体的見ると、びっくりしてる人間みたいに見えるわね」
彼女の言葉に、大城も「そうなんだよね」と頷いた。
「このゴリラよりも人間寄りなゴリラの絵によって、次の絵が生まれてしまうんだよ」
大城は紙をめくり、三枚目の絵を見せた。
「……さっきの絵って、ゴリラだったはずよね?」
女子生徒は動揺を隠せず、大城に確認した。
「そうだね」
成宮も大城も女子生徒の気持ちがよく分かるらしく、複雑そうな表情を浮かべる。
「でも……これは魚よね?」
三枚目の紙に描かれていたのは、魚にしか見えないほど細身のイルカだった。
「魚だね」
「本当はイルカだけどな」
成宮と大城も頷き、同意する。
「……どうしてゴリラからイルカが?」
すると大城はポケットからスマホを取り出し、一枚の写真を女子生徒に見せた。そこには黒板の前に立ち、授業を行なっているジャージ姿の大柄な男が映っていた。
「この人、誰か知ってる?」
「体育教師の剛田先生でしょう? ……って、まさか!」
女子生徒は先程のゴリラを思い出し、ハッとした。
大城も「そのまさかだよ」と頷いた。
「三番目の人は、このゴリラの絵を剛田先生だと思っちゃったんだよ。まぁ実際、剛田先生は驚くと、こういう顔になっちゃうんだけどね」
「それでイルカになったのね」
「うん。でも、勘違いはこれだけじゃ終わらなかったんだ……」
大城は次の絵を見せた。
四枚目はシカの絵だった。ツノが線で描かれており、木の枝のようにも見える。
「この人も僕達と同じように、イルカを魚だと思ったんだ。何の魚かまでは分からなかったから、二枚目の絵を確認してイワシだって考えたみたい」
「……最初が"イ"ってことは、またゴリラを剛田先生だと思われてるじゃない」
女子生徒は「びっくりしているゴリラ=剛田先生」という認識が生徒共通だという事実に呆れた。
「でもこれならシカだって分かるから、大丈夫ね」
しかし成宮と大城は「いやいや」と首を振った。
「ここからが本当の恐怖の始まりだよ」
「ともかく、次に絵を見てくれ」
五枚目の絵を見て、女子生徒は状況が理解出来ず、ポカンとした。
「これは石よね?」
成宮と大城は黙って頷く。
「でも……さっきの絵はシカだったわよね?」
「この絵を描いたやつは盆栽だと思ってたけどな」
「ぼっ?!」
女子生徒は再度、シカの絵を確認した。ツノこそ貧弱だが、どう見ても可愛らしいシカにしか見えない。
「何処が盆栽なのよ?! 大体、盆栽に顔なんてついてないでしょ?!」
「これ描いたの、盆栽部の人だったんだよ」
「"枝がついているから、盆栽だ!"って言ってたな」
「どんな理論よ。でも、これなら石だって分かりやすいわね」
六枚目の絵が出てきた途端、女子生徒の眉と眉の間のシワが深くなった。
「何処から出てきたの、このチーズは?」
「六枚目のやつは五枚目の絵だけを見て判断したんだが、あらゆる物が食べ物に見える変わり者でな、"点がたくさんついている楕円形のものと言えば、みかんだ! でもみかんじゃ終わるから、柑橘系のどれかだ!"と言って、その時一番食べたかったすだちを選んだ。結果、すだちの"ち"から始まるチーズになったというわけだ」
「お願いだから、他の絵も見て欲しかった……」
七枚目の絵は女子生徒にも分からなかった。険しい眼差しでジッと目を凝らすが、絵がシンプル過ぎて、分かりにくいようだった。
しばし考え込んでいたが、やがて諦め、成宮と大城に尋ねた。
「ごめんなさい、分からないわ。答えは?」
その時、吹奏楽部の演奏が階下から聞こえてきた。成宮はちょうどトランペットのソロパートになったところで床を指差し、答えた。
「ラッパ」
「シンプル過ぎる」
「でも昔のラッパってこんな感じじゃない?」
「それはそうだけど……で、どうしてチーズからラッパに?」
成宮と大城は当時のことを思い出し「この時は大変だったよ」と肩をすくめた。
「この絵を描いた子にチーズの絵を見せたら、悲鳴上げられちゃってさー。たまたま通りかかった剛田先生に見つかって、すごい剣幕で怒られちゃった」
「もう剛田先生はいいわよ。それにしても、どうしてその人はチーズの絵を見て、悲鳴を上げたのかしら?」
すると成宮はチーズの絵を開き、女子生徒の目の前に突き出した。女子生徒は思わず、身を引く。
「この絵……ジッと見ていると、ムズムズしてこないか?」
女子生徒は成宮に言われるまま、チーズの絵を見つめようとした。しかしだんだんと体がゾワゾワとする感覚に襲われ、視線を背けた。
「ウッ……なるほど、集合体恐怖症だったのね、その子」
「そう。俗に言う、ハスコラというやつだ。俺達は剛田先生になんとか企画を説明し、相手の生徒にも続きの絵を描いてもらった。彼女はチーズの絵をまともに見ることが出来ず"穴だらけの絵は全部ハスコラよ! この絵を描いた馬鹿をしばいてくる!"と言って、ハスコラの"ラ"から始まるラッパを描いて、チーズの絵を描いた生徒をしばきに去っていった」
「チーズの絵を描いてしばかれるなんて、不条理だわ……ご愁傷様」
女子生徒はチーズに絵を描いた誰かを憂い、紙をめくった。
(後編に続く)
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
彼女に思いを伝えるまで
猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー
人物紹介 イラスト/三つ木雛 様
内容更新 2024.11.14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる