美術部俺達

緋色刹那

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第一話「美術部、廃部の危機! それでも俺達はレクリエーションをやめない……」

3,勧誘はレクリエーションに

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「ねぇ、君達! 美術部に興味ない?」
 大城は廊下で談笑していた二人組の女子に声をかけた。
 女子達は突然見知らぬ太っちょな男子に声をかけられ、戸惑う。会話を中断し、二人で顔を見合わせると、「ごめんなさい」と申し訳なさそうに言った。
「私達、もう別の部活に入ってるの」
「絵にも興味ないし」
 しかし断られても、成宮達は必死で食い下がった。
「そこをなんとか!」
「兼部でも全然いいんで!」
「音楽も聴き放題だし!」
 直角に腰を曲げ、二人に向かって手を差し出す。
 しかしその想いは届かず、女子二人は成宮達が頭を下げている隙に逃げて行った。さすがに、逃げる女子を追いかけてまで入部を強要するわけにはいかず、三人は彼女達を諦めて別の生徒を探すことにした。
「また逃げられちゃったね」
「音楽に熱中できる、最高の環境だというのに」
「いい加減、勧誘にも飽きてきたな……」
 校内にはまだ生徒が大勢残っていたが、いずれも他の部活に所属している者ばかりだった。忙しいのか、話しかけても足早に去っていってしまう。
 ふと、成宮は何かひらめいたのか「そうだ」と手を打った。
「勧誘しながらゲームをすれば、飽きずに勧誘を出来るんじゃないか?」
 成宮の提案に、大城と音来は目を輝かせた。
「それ、いいね! どんなゲームにする?」
「実は、さっき思いついたゲームがあるんだ。一旦部室に戻って、道具を取りに行くぞ」
「了解」
 三人は美術室へと走って行った。

       ◯●◯●◯

「ねぇ、君達! ちょっと協力して欲しいことがあるんだけど……」
 大城は廊下でスマホを見ていた男子二人組に声をかけた。男子達はスマホから顔を上げ「何すか?」と怪訝な顔で大城を見た。
 すると成宮が二人にスケッチブックと黒のサインペンを差し出した。
「美術部の活動の一環で、絵しりとりリレーをやっているんだ。良かったら、参加してくれないか?」
「絵しりとりリレー?」
 聞いたことのない遊びに、二人は思わず聞き返した。
 予想通りの食いつきに、成宮達は内心ほくそ笑みながらも、顔には出さず、穏やかに説明した。
「なに、難しいゲームじゃない。読んで字の如く、リレー形式で絵しりとりをするゲームさ」
「他の生徒にも協力してもらってね、今のところ十枚ほど集まってるよ」
「へー、面白そうじゃん」
 二人は絵しりとりリレーに興味を持っている様子だったが、自信なさげに「でもやめとくよ」と言った。
「俺達、絵とか描けねぇし」
「むしろ、下手というか……」
 それに対し、成宮は「大丈夫」と断言し、親指を立てた。
「かえって、難解な絵の方が助かるよ。だって、前の人の答えがすぐに分かったら、面白くないだろ?」
「た、確かに……」
「それに、僕達だって美術部とは名乗っちゃいるけど、絵は全然描けないしね」
「同じく」
 大城と音来も加勢し、二人を説得する。
 下手でもいい、と励まされ、男子達は「それなら」とスケッチブックとサインペンを受け取った。
「よしっ! それじゃ、この絵の続きを描いてくれ」
「おう!」
 成宮はスケッチブックをめくり、サインペンを持った男子に一枚の絵を見せた。もう一人の男子は彼が何を描いているのか分からないよう、後ろを向き、音来の予備のヘッドホンでヘビメタを聴かされている。
 それは石の部分が黒く塗られた指輪の絵だった。宝石のつもりなのか、指輪のまわりに星のマークが書いてあった。
「これ……結婚指輪か? でも、結婚指輪ってダイヤモンドが多いよな? ってことは、別の宝石か? 前の絵は何だったんだろう?」
 男子はスケッチブックをめくり、指輪の前の絵を見た。
 次の絵は、箱を積み上げたようなロボットの絵だった。手足が線で描いてはあるものの、全体像から辛うじてロボットだと分かった。
 しかし、ロボットの次に何故指輪が描かれているのか分からず、男子は硬直した。
「ト……? トが最初につく宝石って何だ?」
「トパーズとかトルコ石とかトルマリンとかかな」
 意外にも、この中で一番宝石に興味なさそうな大城がスラスラと宝石の名前を答えた。
「何でそんなに宝石に詳しいんだ?」
 成宮が聞くと、大城は自慢げに答えた。
「ふっふっふ……最近ハマってるスマホゲームに登場するキャラクターが、みんな宝石の名前なんだよ。おかげで、大体の宝石の名前は覚えちゃった」
「ちなみに、どんな性質の宝石なのかは知ってるのか?」
 大城は首を振った。
「それは知らない。ゲームに出てくるのは名前と色だけだから」
「意味あるのか? その知識」
 男子は大城から教えてもらった名前を参考に、指輪をトパーズだと予想し、次のページに絵を描いた。
 迷いのない手つきで、十秒も経たない内に完成させた。
「出来たぞ」
「どれどれ……」
 成宮と大城は絵を見て、固まった。
 

「……これは何の絵なんだ?」
 男子はサインペンのキャップを閉じ、真顔で答えた。
「頭痛」
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