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第二話「ネコを放さないで!」
第二話「ネコを放さないで!」⑸
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頭の中が真っ白になる。怖かったけど、推理の続きに耳を傾けた。
「そのスタッフの手と爪を見てください。土と砂で汚れています。他のスタッフの方々が琴美ちゃんを探していた間、あなたは砂遊びでもしていたんですか?」
「こ、転んだ拍子に手をついたんだ! だいたい、私がそんな穴を掘って埋めているところを、誰か見たのか?!」
田中さんは周りのスタッフを見回す。
スタッフは首を振った。
「見てないです」
「うん。琴美ちゃんを探すのに夢中で、それどころじゃなかった」
「さすがに穴を掘ってたら気づくと思うよ」
田中さんの顔に笑みが浮かぶ。
だけど、白日野下さんは「チッチッ」と指を振った。
「掘る必要はありません。前日に掘って、穴にフタをしておけばいいのですから」
「フタ?」
「同じく、埋める必要もありません。琴美ちゃんを穴へ隠した後、フタをすればいいのです」
「ボク達は前日にロケハンしているんだよ? そんなフタがあったら気づくと思うけど。穴を埋め直したら、そこだけ土の色が違うだろうし」
「気づいても、違和感は持たないと思いますよ。だって皆さん、とっくに穴のことをご存知なんですから」
白日野下さんは指差す……ドッキリに使われる予定の、落とし穴を。
◯
ズボォッ!
「琴美ちゃん、だいじょぶー?」
「ウニャーン!」
「ぎゃぁぁぁ! ネコと鰤っ子が土まみれで降ってきたー! だから、ネコを放さないでって言ったのに!」
良かった! 琴美ちゃん、生きてる!
ものすごく怒ってるけど!
「どうです? これを見ても、まだ認めませんか?」
「……」
田中さんはガクッとうなだれる。やっと観念したらしい。
白日野下さんの推理どおり、穴の上には土や砂利を付着したシートが被っていた。四つのコーンは、シートが風で飛ぶのを防ぐための重しだったんだ。
ボクたちは白日野下さんの推理のあと、急いで落とし穴へ向かった。
誤算だったのは、田中さんがより地面っぽく見えるよう、シートの上からさらに土や砂を被せていたこと。そして、プロが作った落とし穴を前に、野呂とポチャムズがハイになってしまったこと。
「いっちばんのりぃー!」
「ぶにゃにゃにゃーん!」
「待てぇーッ!」
二人(一人と一匹?)はボクらが止める間もなく、穴へダイブしてしまった。
二人の姿は土の下へと消え、琴美ちゃんの怒鳴り声が響いた。
「あんたらのせいで衣装が土だらけになっちゃったじゃない! どうしてくれんのよ?!」
琴美ちゃんは土だらけで戻ってきた。スタッフさんたちも頭を抱えている。せっかく琴美ちゃんを見つけたのに……。
野呂とポチャムズは照れくさそうに上がってくる。ほめてないぞ!
「すみません! クリーニングして返しますから!」
平謝りするボクに、監督は「いいよ、いいよ!」と笑った。
「むしろ、臨場感が出てる! 琴美ちゃんはキレイ好きだから、ああいう汚れさせてもらえないんだよー。脚本を変える! 怪人百面相の一人、土川《つちかわ》土右衛門《つちえもん》のワナにはまったことにしよう!」
それと、と監督は田中さんをチラッと見た。
「二ノ宮ニコを呼んでくれ。ミコミコを助ける友人役として出演させる」
「い、いいんですか?!」
「良いも悪いも、もともと登場させる予定だったんだよ。ミコミコを救う、美少女探偵二号としてね。予定より早いが、まぁいいだろう」
田中さんは驚き、涙ぐむ。
「ありがとう、ございます……!」
田中さんは二ノ宮ニコちゃんのお父さんだった。二ノ宮ニコは芸名で、本名は田中クニ子っていうらしい。田中さんとニコちゃんのお母さんが離婚したから、今は田中でもないそうだけど。
田中さんは離れ離れになったニコちゃんに、どうにか親らしいことがしてあげたかった。それで、ミコミコ役をプレゼントしようとしたんだって。
だけど、ミコミコ役は琴美ちゃんに奪われてしまった。田中さんはニコちゃんにミコミコの代役をさせるために、琴美ちゃんを落とし穴に閉じ込めたんだ。紅茶に入っていた薬も、琴美ちゃんをさらうために仕込んだものだった。
「ニコが喜ぶと思って、やってしまった」
と言う田中さんに、白日野下さんは冷たく言い放った。
「それはエゴだよ。親がそんな手段を取って、本当に子供が喜ぶと思うかい? ニコちゃんはそんな悪どい子じゃないだろう? 喜ぶどころか、嫌われるよ」
「……」
「ニコちゃんが本当に喜ぶことは何か、きちんと考えたまえ。分からないなら、奥さんでも、ニコちゃん本人でもいいから、直接ききに行けばいい」
田中さんはうなずき、ニコちゃんが撮影所に着く前に、警察へ連れて行かれた。
「そのスタッフの手と爪を見てください。土と砂で汚れています。他のスタッフの方々が琴美ちゃんを探していた間、あなたは砂遊びでもしていたんですか?」
「こ、転んだ拍子に手をついたんだ! だいたい、私がそんな穴を掘って埋めているところを、誰か見たのか?!」
田中さんは周りのスタッフを見回す。
スタッフは首を振った。
「見てないです」
「うん。琴美ちゃんを探すのに夢中で、それどころじゃなかった」
「さすがに穴を掘ってたら気づくと思うよ」
田中さんの顔に笑みが浮かぶ。
だけど、白日野下さんは「チッチッ」と指を振った。
「掘る必要はありません。前日に掘って、穴にフタをしておけばいいのですから」
「フタ?」
「同じく、埋める必要もありません。琴美ちゃんを穴へ隠した後、フタをすればいいのです」
「ボク達は前日にロケハンしているんだよ? そんなフタがあったら気づくと思うけど。穴を埋め直したら、そこだけ土の色が違うだろうし」
「気づいても、違和感は持たないと思いますよ。だって皆さん、とっくに穴のことをご存知なんですから」
白日野下さんは指差す……ドッキリに使われる予定の、落とし穴を。
◯
ズボォッ!
「琴美ちゃん、だいじょぶー?」
「ウニャーン!」
「ぎゃぁぁぁ! ネコと鰤っ子が土まみれで降ってきたー! だから、ネコを放さないでって言ったのに!」
良かった! 琴美ちゃん、生きてる!
ものすごく怒ってるけど!
「どうです? これを見ても、まだ認めませんか?」
「……」
田中さんはガクッとうなだれる。やっと観念したらしい。
白日野下さんの推理どおり、穴の上には土や砂利を付着したシートが被っていた。四つのコーンは、シートが風で飛ぶのを防ぐための重しだったんだ。
ボクたちは白日野下さんの推理のあと、急いで落とし穴へ向かった。
誤算だったのは、田中さんがより地面っぽく見えるよう、シートの上からさらに土や砂を被せていたこと。そして、プロが作った落とし穴を前に、野呂とポチャムズがハイになってしまったこと。
「いっちばんのりぃー!」
「ぶにゃにゃにゃーん!」
「待てぇーッ!」
二人(一人と一匹?)はボクらが止める間もなく、穴へダイブしてしまった。
二人の姿は土の下へと消え、琴美ちゃんの怒鳴り声が響いた。
「あんたらのせいで衣装が土だらけになっちゃったじゃない! どうしてくれんのよ?!」
琴美ちゃんは土だらけで戻ってきた。スタッフさんたちも頭を抱えている。せっかく琴美ちゃんを見つけたのに……。
野呂とポチャムズは照れくさそうに上がってくる。ほめてないぞ!
「すみません! クリーニングして返しますから!」
平謝りするボクに、監督は「いいよ、いいよ!」と笑った。
「むしろ、臨場感が出てる! 琴美ちゃんはキレイ好きだから、ああいう汚れさせてもらえないんだよー。脚本を変える! 怪人百面相の一人、土川《つちかわ》土右衛門《つちえもん》のワナにはまったことにしよう!」
それと、と監督は田中さんをチラッと見た。
「二ノ宮ニコを呼んでくれ。ミコミコを助ける友人役として出演させる」
「い、いいんですか?!」
「良いも悪いも、もともと登場させる予定だったんだよ。ミコミコを救う、美少女探偵二号としてね。予定より早いが、まぁいいだろう」
田中さんは驚き、涙ぐむ。
「ありがとう、ございます……!」
田中さんは二ノ宮ニコちゃんのお父さんだった。二ノ宮ニコは芸名で、本名は田中クニ子っていうらしい。田中さんとニコちゃんのお母さんが離婚したから、今は田中でもないそうだけど。
田中さんは離れ離れになったニコちゃんに、どうにか親らしいことがしてあげたかった。それで、ミコミコ役をプレゼントしようとしたんだって。
だけど、ミコミコ役は琴美ちゃんに奪われてしまった。田中さんはニコちゃんにミコミコの代役をさせるために、琴美ちゃんを落とし穴に閉じ込めたんだ。紅茶に入っていた薬も、琴美ちゃんをさらうために仕込んだものだった。
「ニコが喜ぶと思って、やってしまった」
と言う田中さんに、白日野下さんは冷たく言い放った。
「それはエゴだよ。親がそんな手段を取って、本当に子供が喜ぶと思うかい? ニコちゃんはそんな悪どい子じゃないだろう? 喜ぶどころか、嫌われるよ」
「……」
「ニコちゃんが本当に喜ぶことは何か、きちんと考えたまえ。分からないなら、奥さんでも、ニコちゃん本人でもいいから、直接ききに行けばいい」
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