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第1部 第3章「蓄積悪夢」
第5話『待合室』⑷
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ツネトキはメールの着信音で目が覚めた。会社からの業務連絡だった。
『本日、重要書類を提出して頂く必要がありますので、必ず出社して下さい』
首を傾げる。こんな急で曖昧な連絡、今まで届いたことがない。
妙に思いながらも、渋々出社した。
会社は相変わらず、どこも活気にあふれている。とても一ヶ月前に社員が飛び降り自殺したとは思えない。
(アイツら、よく笑えるな。人の死をブームかなにかだと思っているんじゃないか?)
席につき、パソコンを確認する。
事務から『職務能力テスト』なるアンケートが届いていた。今日中に回答し、提出して欲しいそうだ。
「職務能力テスト……? 確か、昨日の夢に出てきたクソ職場のクソ上司が受けたっていうアンケートじゃないか? 本当にあったんだな」
ツネトキは左遷された当時、上司の落合からひどい扱いを受けていた。
そこで辞める前に殺意を向けた。すると、落合はアメリカへ出向。しばらくして粗大ゴミとして捨てられた。
その原因となったのが、「職務能力テスト」だった。落合はアンケートで見栄を張ったせいで、アメリカで無能とバレ、捨てられたのだ。
落合と、落合の会社で起こった奇妙な出来事は話題となり、連日ニュースで報道された。ツネトキもテレビのニュースで落合の末路を知り、腹を抱えて笑ったものだ。
その『職務能力テスト』が今、ツネトキの目の前にある。
(……白紙で出そう。何を書いても、裏目に出そうだ)
ツネトキは落合と同じ過ちは繰り返すまい、と名前だけ打ち込み、事務に返信した。
数分後、上司が屈強そうな警備員を二人引き連れ、やって来た。物々しい雰囲気に、ツネトキは固まった。
「ぶ、部長? その人達はなんなんです? 何か事件でも起きたんですか?」
「……ある意味、事件かもしれないね」
上司はため息をつき、ツネトキに告げた。
「ツネトキマサユメ君。君はクビだ」
「……は?」
頭の中が真っ白になった。
オフィスにいた同僚達も「クビ」の二文字に、顔が強張る。
上司は「は? じゃない!」と声を荒げた。
「君は職務能力テストを白紙で出した! つまり、働く意志が無いということだ! そんな社員はうちにはいらない! よって、君を廃棄する!」
「は、廃棄って……まさか!」
ツネトキの脳裏に、落合の末路が過ぎる。
予想は的中し、ツネトキは二人の警備員に捕まり、段ボール箱の中に詰められた。警備員に抱えられ、オフィスの外へと運ばれていく。
「出せ! 出せったら! 人間を廃棄処分するなんて犯罪だろ?!」
段ボール箱の中は狭く、箱が揺れるたびに体をあちこち打った。人間が入っているのは明らかだったが、すれ違う社員は誰も助けてくれなかった。
やがて会社の外に出た。アスファルトの地面へ無造作に下ろされる。警備員達はツネトキを残し、去っていった。
(今のうちに逃げないと……!)
中から箱を開けたかったが、何度も体当たりしたせいで体力は尽きていた。
程なく、「バックします。ご注意下さい」というアナウンスと共に、生臭いゴミの臭いが近づいてきた。ゴミ収集車がツネトキを迎えに来たのだ。
ゴミ収集車から作業員が騒々しく降りてくる。ツネトキは再び箱ごと持ち上げられ、無造作に放り投げられた。ゴミ収集車の回転板に「メリメリ」と全身を押しつぶされ、悲鳴を上げた。
「ああああ痛い痛い痛いッ!」
彼の声は押し潰す機械の音でかき消され、作業員達の耳には届かなかった。
『本日、重要書類を提出して頂く必要がありますので、必ず出社して下さい』
首を傾げる。こんな急で曖昧な連絡、今まで届いたことがない。
妙に思いながらも、渋々出社した。
会社は相変わらず、どこも活気にあふれている。とても一ヶ月前に社員が飛び降り自殺したとは思えない。
(アイツら、よく笑えるな。人の死をブームかなにかだと思っているんじゃないか?)
席につき、パソコンを確認する。
事務から『職務能力テスト』なるアンケートが届いていた。今日中に回答し、提出して欲しいそうだ。
「職務能力テスト……? 確か、昨日の夢に出てきたクソ職場のクソ上司が受けたっていうアンケートじゃないか? 本当にあったんだな」
ツネトキは左遷された当時、上司の落合からひどい扱いを受けていた。
そこで辞める前に殺意を向けた。すると、落合はアメリカへ出向。しばらくして粗大ゴミとして捨てられた。
その原因となったのが、「職務能力テスト」だった。落合はアンケートで見栄を張ったせいで、アメリカで無能とバレ、捨てられたのだ。
落合と、落合の会社で起こった奇妙な出来事は話題となり、連日ニュースで報道された。ツネトキもテレビのニュースで落合の末路を知り、腹を抱えて笑ったものだ。
その『職務能力テスト』が今、ツネトキの目の前にある。
(……白紙で出そう。何を書いても、裏目に出そうだ)
ツネトキは落合と同じ過ちは繰り返すまい、と名前だけ打ち込み、事務に返信した。
数分後、上司が屈強そうな警備員を二人引き連れ、やって来た。物々しい雰囲気に、ツネトキは固まった。
「ぶ、部長? その人達はなんなんです? 何か事件でも起きたんですか?」
「……ある意味、事件かもしれないね」
上司はため息をつき、ツネトキに告げた。
「ツネトキマサユメ君。君はクビだ」
「……は?」
頭の中が真っ白になった。
オフィスにいた同僚達も「クビ」の二文字に、顔が強張る。
上司は「は? じゃない!」と声を荒げた。
「君は職務能力テストを白紙で出した! つまり、働く意志が無いということだ! そんな社員はうちにはいらない! よって、君を廃棄する!」
「は、廃棄って……まさか!」
ツネトキの脳裏に、落合の末路が過ぎる。
予想は的中し、ツネトキは二人の警備員に捕まり、段ボール箱の中に詰められた。警備員に抱えられ、オフィスの外へと運ばれていく。
「出せ! 出せったら! 人間を廃棄処分するなんて犯罪だろ?!」
段ボール箱の中は狭く、箱が揺れるたびに体をあちこち打った。人間が入っているのは明らかだったが、すれ違う社員は誰も助けてくれなかった。
やがて会社の外に出た。アスファルトの地面へ無造作に下ろされる。警備員達はツネトキを残し、去っていった。
(今のうちに逃げないと……!)
中から箱を開けたかったが、何度も体当たりしたせいで体力は尽きていた。
程なく、「バックします。ご注意下さい」というアナウンスと共に、生臭いゴミの臭いが近づいてきた。ゴミ収集車がツネトキを迎えに来たのだ。
ゴミ収集車から作業員が騒々しく降りてくる。ツネトキは再び箱ごと持ち上げられ、無造作に放り投げられた。ゴミ収集車の回転板に「メリメリ」と全身を押しつぶされ、悲鳴を上げた。
「ああああ痛い痛い痛いッ!」
彼の声は押し潰す機械の音でかき消され、作業員達の耳には届かなかった。
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