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第4部 第2章「天使くんと悪魔くん」
第4話『閉鎖悪夢〈人形邸〉』⑸
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聖夜と遊魔が校長室を出てから数分後、二人は邸女王のもとへ戻ってきた。
「上手くスカウトできた?」
兄弟は「はい」と口角を上げた。
「女王の中の女王だと、邸女王様を称賛しておりました。さっそく、邸女王様の特集記事に取り掛かるそうです」
「近日中に取材と写真撮影を予定しております。お衣装とスタッフを手配しておきますね」
「エクセレント! さすが我が校の特別風紀委員長だわ! この調子で日本……いいえ、世界を手に入れましょう!」
邸女王は褒美として、聖夜と遊魔の頬にキスをした。敬愛する邸女王に褒められ、兄弟は照れくさそうだった。
その後、邸女王は放課後になると校門の前に立ち、下校する生徒達を見送った。優しく微笑み、優雅に手を振る。
生徒達は黄色い悲鳴を上げながら校門を通り、名残惜しそうに帰っていった。中には校門の前に留まり、邸女王に熱い視線を向ける者もいた。
「女王様だ!」
「ホント、女王様よ!」
「女王様、こっち向いてー!」
「女王様!」「女王様!」
「女王様!」「女王様!」「女王様!」
声援を浴び、邸はご満悦だった。
(そう、私は女王……貴方達は私を永遠に美しく生かすための、しもべでしかないのよ)
邸の高笑いが、学校中に響き渡った。
『そう、私は女王……貴方達は私を永遠に美しく生かすための、しもべでしかないのよ』
高笑いする館を最後に、映像はフェードアウトしていく。
アニメが終わり、画面の端から見守っていた聖と魅魔が元のサイズに戻った。
「今夜の悪夢、"邸女王物語"はどうだったかな? 久々の配信だったけど、楽しんでもらえたかな?」
コメントは賛否両論だった。
「楽しかったー! 邸ざまぁ」と肯定的なものもあれば、「また有名人かよ。つまらん」と否定的なものもある。
聖と魅魔はそれら全てに目を通し、リアクションしていった。
「うんうん、分かるよ? 邸アヤコもとい、館操江はあのアクムツカイ殺人事件の真犯人だからねぇ。時の人ってかんじぃ?」
「ですが、今回は人気のために標的を選んだのではありません。彼女は私達が長年探し続けていた宿敵でした。遅かれ早かれ、ターゲットになる運命だったのです。それが叶った今……我々がこの世界に居続ける理由はもうありません」
引退とも取れる発言に、コメント欄はざわつく。
聖と魅魔は多くは語らず、晴れやかに笑った。
「それでは皆様、ごきげんよう」
「バイバーイ!」
画面から二人の姿が消える。二人の信者もアンチも動揺を隠せなかった。
こうして、聖と魅魔はバーチャルアイドルを「卒業」した。
無事最後の配信を終え、聖夜と遊魔は机に突っ伏した。
「あ゛ーッ! 緊張したぁー!」
「意外とあっけなく終わっちゃったねぇ」
館操江は逮捕された。
容疑は自殺教唆に殺人教唆、経歴詐称などなど、容疑がかかっている犯罪でビンゴカードが作れそうなほどだった。
間宮のおかげで館の悪夢から覚めた後、日野兄弟はその場で館に殺意を向け、悪夢へ閉じ込めた。二度と悪夢から目覚めないよう、「館の目論みどおりに事が進んだ世界」の悪夢を選んだ。
かつて兄弟の両親は、館に死よりも辛い悪夢を見せ、苦しめた。そのような悪夢を見せたのは、館がこれまで犯してきた罪を認めさせるためで、実際狙いどおりに自供は成功した。
しかし辛すぎたがゆえに、館は悪夢から目覚めてしまった。「これは現実じゃない」「今すぐ目を覚ましたい」という意識が働いたせいだろう。
だから……逆にした。目を覚ますのが嫌になるくらい幸せな悪夢なら、邸も悪夢から出ようとはしないだろう。現実でも「女王様」と呼べば何でも答えてくれたので、警察の事情聴取もスムーズだったらしい。
日野兄弟は復讐の集大成として、館を悪夢へ閉じ込めるまでのストーリーをアニメ化し、「天使様と悪魔様」チャンネルで生配信した。今回限りでバーチャルアイドルを辞めると決めたのは、館に悪夢を見せる直前だった。
「僕、やっぱり邸先生のことが好きだよ。整形した館操江だって分かってはいるけど、僕にとって邸先生は邸先生だから。今後いっさい力を使わないって誓えるくらいの覚悟じゃないと、僕はあの人に殺意を向けられない」
「……分かった。お前がいなきゃ、俺も悪夢を見せられないしな。『天使様と悪魔様』は今回限りでお終いだ」
兄弟が特別風紀委員長として実行した「粛清」は全て解除した。
無意識に加減していたのか、現実で命を落とした者はひとりもおらず、学校は何事もなく本来の平穏を取り戻した。唯一、校長だけは校内を四つん這いで徘徊するクセがついてしまった。
「でも、どうする? 僕達が休んでた間の依頼」
「大丈夫だろ。俺達には頼れないって分かったんだ、別のバーチャルアイドルだか芸能ゴシップ記者気取りだかに相談してると思うぜ」
季節は秋へ移り変わろうとしている。
二人の少年が志した復讐は、夏と共に終わりを告げた。
(第2章「天使くんと悪魔くん」終わり)
(第3章「天使神様と悪魔神様」へ続く)
「上手くスカウトできた?」
兄弟は「はい」と口角を上げた。
「女王の中の女王だと、邸女王様を称賛しておりました。さっそく、邸女王様の特集記事に取り掛かるそうです」
「近日中に取材と写真撮影を予定しております。お衣装とスタッフを手配しておきますね」
「エクセレント! さすが我が校の特別風紀委員長だわ! この調子で日本……いいえ、世界を手に入れましょう!」
邸女王は褒美として、聖夜と遊魔の頬にキスをした。敬愛する邸女王に褒められ、兄弟は照れくさそうだった。
その後、邸女王は放課後になると校門の前に立ち、下校する生徒達を見送った。優しく微笑み、優雅に手を振る。
生徒達は黄色い悲鳴を上げながら校門を通り、名残惜しそうに帰っていった。中には校門の前に留まり、邸女王に熱い視線を向ける者もいた。
「女王様だ!」
「ホント、女王様よ!」
「女王様、こっち向いてー!」
「女王様!」「女王様!」
「女王様!」「女王様!」「女王様!」
声援を浴び、邸はご満悦だった。
(そう、私は女王……貴方達は私を永遠に美しく生かすための、しもべでしかないのよ)
邸の高笑いが、学校中に響き渡った。
『そう、私は女王……貴方達は私を永遠に美しく生かすための、しもべでしかないのよ』
高笑いする館を最後に、映像はフェードアウトしていく。
アニメが終わり、画面の端から見守っていた聖と魅魔が元のサイズに戻った。
「今夜の悪夢、"邸女王物語"はどうだったかな? 久々の配信だったけど、楽しんでもらえたかな?」
コメントは賛否両論だった。
「楽しかったー! 邸ざまぁ」と肯定的なものもあれば、「また有名人かよ。つまらん」と否定的なものもある。
聖と魅魔はそれら全てに目を通し、リアクションしていった。
「うんうん、分かるよ? 邸アヤコもとい、館操江はあのアクムツカイ殺人事件の真犯人だからねぇ。時の人ってかんじぃ?」
「ですが、今回は人気のために標的を選んだのではありません。彼女は私達が長年探し続けていた宿敵でした。遅かれ早かれ、ターゲットになる運命だったのです。それが叶った今……我々がこの世界に居続ける理由はもうありません」
引退とも取れる発言に、コメント欄はざわつく。
聖と魅魔は多くは語らず、晴れやかに笑った。
「それでは皆様、ごきげんよう」
「バイバーイ!」
画面から二人の姿が消える。二人の信者もアンチも動揺を隠せなかった。
こうして、聖と魅魔はバーチャルアイドルを「卒業」した。
無事最後の配信を終え、聖夜と遊魔は机に突っ伏した。
「あ゛ーッ! 緊張したぁー!」
「意外とあっけなく終わっちゃったねぇ」
館操江は逮捕された。
容疑は自殺教唆に殺人教唆、経歴詐称などなど、容疑がかかっている犯罪でビンゴカードが作れそうなほどだった。
間宮のおかげで館の悪夢から覚めた後、日野兄弟はその場で館に殺意を向け、悪夢へ閉じ込めた。二度と悪夢から目覚めないよう、「館の目論みどおりに事が進んだ世界」の悪夢を選んだ。
かつて兄弟の両親は、館に死よりも辛い悪夢を見せ、苦しめた。そのような悪夢を見せたのは、館がこれまで犯してきた罪を認めさせるためで、実際狙いどおりに自供は成功した。
しかし辛すぎたがゆえに、館は悪夢から目覚めてしまった。「これは現実じゃない」「今すぐ目を覚ましたい」という意識が働いたせいだろう。
だから……逆にした。目を覚ますのが嫌になるくらい幸せな悪夢なら、邸も悪夢から出ようとはしないだろう。現実でも「女王様」と呼べば何でも答えてくれたので、警察の事情聴取もスムーズだったらしい。
日野兄弟は復讐の集大成として、館を悪夢へ閉じ込めるまでのストーリーをアニメ化し、「天使様と悪魔様」チャンネルで生配信した。今回限りでバーチャルアイドルを辞めると決めたのは、館に悪夢を見せる直前だった。
「僕、やっぱり邸先生のことが好きだよ。整形した館操江だって分かってはいるけど、僕にとって邸先生は邸先生だから。今後いっさい力を使わないって誓えるくらいの覚悟じゃないと、僕はあの人に殺意を向けられない」
「……分かった。お前がいなきゃ、俺も悪夢を見せられないしな。『天使様と悪魔様』は今回限りでお終いだ」
兄弟が特別風紀委員長として実行した「粛清」は全て解除した。
無意識に加減していたのか、現実で命を落とした者はひとりもおらず、学校は何事もなく本来の平穏を取り戻した。唯一、校長だけは校内を四つん這いで徘徊するクセがついてしまった。
「でも、どうする? 僕達が休んでた間の依頼」
「大丈夫だろ。俺達には頼れないって分かったんだ、別のバーチャルアイドルだか芸能ゴシップ記者気取りだかに相談してると思うぜ」
季節は秋へ移り変わろうとしている。
二人の少年が志した復讐は、夏と共に終わりを告げた。
(第2章「天使くんと悪魔くん」終わり)
(第3章「天使神様と悪魔神様」へ続く)
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