184 / 227
第4部 第1章「天使ちゃんと悪夢ちゃん」
第1話『悪夢、代行シマス』前編
しおりを挟む都市伝説専門雑誌「奇奇怪怪」記者・間宮可夢偉は、近頃子供達の間で囁かれているとあるウワサを探るよう、上司から命じられていた。
「そろそろ仕事しろ! じゃないと、クビにするぞ!」
「へいへい。分かりましたよっと」
渋々腰を上げ、オフィスを後にする。
間宮はとにかく仕事に対して、やる気がなかった。元々IT系情報誌志望で、都市伝説やオカルトの類いは「うさんくさい」「非科学的だ」と毛嫌いしていた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「コーヒー。ブラックで」
「かしこまりました。お好きなお席へどうぞ」
カウンターで注文を済ませ、定位置の壁際奥の席へ移動する。
間宮は雑誌社の近くにある、コーヒーチェーン店を仕事場にしていた。コーヒーの味はそこそこだが、二杯目以降は半額で、長時間居座っていても注意されないのが魅力的だった。
仕事用のノートパソコンを開き、会社のホームページとSNSで例のウワサについて、読者にアンケートを取った。
〈貴方は"天使様と悪魔様"を知っていますか?〉
間宮には理解できないことだが、こういったウワサに執着している者は一定数いる。そして、誰かに話したくてしょうがない。
案の定、一時間も経たないうちに百件以上の情報が寄せられた。
明らかな嘘を除き、情報を統合したところ、
①「天使様と悪魔様」にお願いすると、悪夢を代行してくれる。
②天使様は「幸せな悪夢」を、悪魔様は「不幸な悪夢」を見せてくれる。どちらの悪夢を誰に見せるかは、依頼人が決める。
③大人は法外な依頼料を請求されるが、子供は割引してもらえる。
④悪夢の内容は現実にも影響する。悪夢の中で命を落とすと、現実でも死ぬ。
⑤天使様と悪魔様は双子らしい。
という具合に、「天使様と悪魔様」が何者なのか、ざっくり理解できた。
「悪夢の代行、ねぇ? 夢ってのは、寝てる間に脳が記憶を整理してる最中に見るもんであって、他人から見せられるもんじゃねぇはずなんだがなぁ」
間宮は顔をしかめる。
どんなにうさんくさいウワサでも、記事にできるなら問題ない。重要なのは「事実」ではなく、読者が読みたくなるような「エンターテイメント性」なのだ。情報がイマイチなら、脚色すればいい。
そこへ、新たに二件の情報が届いた。
投稿者はどちらも小学生で、「天使様と悪夢様に悪夢を見せられた」という。興味深いことに、二つの悪夢はよく似ていて、今までの投稿にはない「新たな情報」が混じっていた。
一件目「仮名:A子(女・小学生)の体験談」
私は「天使様と悪魔様」のおかげで、また学校にかよえるようになりました。
前は、同じクラスの子達からいじめを受けていて、学校に行けていませんでした。家に引きこもっている間もいじめを受ける夢を毎日見ていて、とても苦しかったです。
ある日、「天使様と悪魔様」からチラシが届きました。
私はまた学校に行けるようになりたくて、チラシに書いてあった番号に電話をかけました。
すると、小学校低学年くらいの女の子が電話に出ました。チラシには大人の神父様とシスター様の絵が描いてあったので、子供が出てびっくりしました。
私はイタズラかもしれないと思いながらも、
「私をいじめている人達をこらしめて欲しい」
と、女の子に頼みました。
女の子は
「分かった」
「ついでに、貴方にはサービスで幸せな悪夢を見せてあげる」
と言いました。お代として窓辺にお菓子を置くように言われたので、その通りにしました。
その夜、不思議な夢を見ました。私はいじめられる前のように、仲のいい友達と教室で楽しくおしゃべりしていました。夢の中のことなのに、嬉しくて涙が出そうでした。
とても幸せな夢ではあったのですが、外からは絶えず悲鳴が聞こえていました。
気になって見ると、私をいじめていたクラスの人達が、運動場で泣きながら走り回っていました。その人達の頭には先に火がついたヒモが伸びていて、立ち止まると火が勢いよく燃え上がりました。
やがて完全にヒモが焼き切れると、その人は爆発しました。体は散り散りで、地面には黒いこげ痕だけが残っていました。
私は自分の悲鳴で目を覚ましました。寝る前に窓辺に置いたお菓子は消えていました。
私はいじめていた人達が心配で、久しぶりに学校へ行きました。友達は「よく来てくれたね」と喜んでくれました。
爆発したいじめっ子達は、花火で危ない遊びをしたせいで亡くなっていました。爆発していなかった人達も、顔や体にヤケドをしていて、包帯を巻いていました。
無事だったいじめっ子達は私を見るなり、
「何で助けてくれなかったんだ」
と怒りました。
あぁ、またいじめられるんだなと思っていると、今までは見て見ぬフリをしていた友達やクラスメイトが、私を助けてくれました。
その日のことがキッカケで、私はいじめられなくなりました。
絶対、天使様と悪魔様のおかげです。チラシの番号にかけても繋がらなかったので、もし会えたら、お礼が言いたいです。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
近辺オカルト調査隊
麻耶麻弥
ホラー
ある夏の夜、幼なじみの健人、彩、凛は
ちょっとした肝試しのつもりで近辺で噂の幽霊屋敷に向かった。
そこでは、冒涜的、超自然的な生物が徘徊していた。
3人の運命は_______________
>この作品はクトゥルフ神話TRPGのシナリオを元に作ったものです。
この作品を見てクトゥルフ神話TRPGに興味を持った人はルールブックを買って友達と遊んでみてください。(布教)
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる