悪夢症候群

緋色刹那

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第1部 第2章「深夜悪夢」

第4話『いすとりげぇむ』⑷

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「すごい、すごい! やっぱりインパクトって大事だよねー!」
 ユメカは嬉しそうに拍手する。椅子がその手に反応し、リオ達を床へ落とした。
 残ったのはたった三人だけ。椅子は一つ減らされ、二脚になった。
「やっと人数が減ってきたし、次からは特殊ルールを入れるね?」
「特殊ルール?」
 ユメカは教卓の下からドッジボールを取り出し、リオの足元へ放った。いつも体育の授業で使っている、普通のドッジボールだ。
「暴力じゃ限界があるし、次からはそのドッジボールで攻撃してもいいよ。みんな、ドッジボール大会で優勝したんでしょ? 私は補欠にされてたから出られなかったけど。校内ナンバーワン同士の戦いなんて、きっとすっごく面白いんだろうなぁ」
 リオは起き上がり、ドッジボールを拾う。
 残っているクラスメイトは全員、リオよりも運動神経が良い。もちろん、ドッジボールも得意だった。
「リオちゃん、パス!」
「ダメだよ、僕にボール頂戴!」
「君には絶対当てないから渡して!」
 三人はリオからボールをもらおうと、説得してくる。
 もし、リオがボールを投げたとしても、簡単に受け止められる自信があるのだろう。リオはボールを手に、三人を見回した。



 その時、スピーカーから爆音で曲が流れた。とうとう機械がイカれたらしい。
「うるさっ!」
「なんだよ、急に!」
「耳がおかしくなる!」
 三人は手で耳をふさぐ。
 その隙に、リオはボールを投げた。
「ガッ……!」
 まず、一番リオの近くにいた男子の腹へボールをぶつけた。男子は腹を押さえ、うずくまる。ボールは男子の腹で跳ね返り、吸い寄せられるようにリオの手に戻ってきた。
 続けて、二番目に近くにいた女子の顔面へボールをぶつけた。女子は鼻血を出しながら倒れた。
 最後に残った男子は次々に倒れていくクラスメイトを見て、リオがドッジボールの実力を隠していたことに気づいた。両手で耳を押さえたまま、リオにタックルを仕掛ける。
 リオは向かってきた男子の足へ、容赦なくボールをぶつけた。彼の足は不自然に折れ曲がり、使い物にならなくなった。
「あぁぁッ!」
 男子は折れ曲がった足を両手で押さえ、のたうち回る。もう二度と、彼がドッジボールで活躍することはない。
 リオは三人を倒すと、悠々と椅子に腰かけた。やがて床が波打ち、サメのせびれが浮上してきた。一匹、また一匹と、どんどん増えてくる。
 サメ達はパニック映画さながらに、倒れている三人に近づくと、素早く食らいつき、床の中へ引きずり込んだ。
「……びっくり。まさか、一気に倒しちゃうなんて」
 予想外の幕引きに、ユメカは目を丸くする。
 リオは「座っただけですが、何か?」と言わんばかりに、穏やかに微笑んだ。
「褒めてくれてるの? ありがとう」
 笑顔のまま、持っていたボールをユメカの顔面に投げつける。ボールは真っ直ぐユメカの顔面へ飛んだものの、教卓の前で透明なバリアのようなものに阻まれた。ボールはそのままはね返り、天井の蛍光灯を破壊する。
「チッ。自分だけは安全なところにいるのね」
 諸悪の根源を倒せず、リオは忌々しそうに舌打ちした。
 そこには「優しい学級委員長のリオ」はいない。ユメカに対する嫌悪と憎しみをあらわにした、「本当のリオ」がいた。



 リオは今まで、親のために「優しい学級委員長」を演じてきた。
「みんなに優しく、従順な生徒を演じなさい。他人よりできても、平凡なフリをするのよ。凡人は嫉妬すると、何をしでかすか分からないからね」
「常にニコニコしていればバレないさ。父さんと母さんもそうして生きてきたんだ。中学受験に合格するためにもこらえてくれ」
「はい。お父様、お母様」
 本当は、幼稚なクラスメイト達を心底嫌っていた。関わり合いたくないとすら思っていた。
 ユメカに優しくしていたのも、後に彼女がいじめを暴露したとしても、優しく接していた自分だけは咎められないだろうと考えてのことだった。自分も排除されると困るので、いじめ自体を止める気はなかった。
「これで私の優勝だね。さぁ、早く家に帰してよ」
 リオは勝ち誇ったように言う。
 実際、リオは勝った。幼稚で、わめくしか能のないクラスメイト達と、リオを馬鹿げたゲームに巻き込んだユメカに。
 当然だ。リオは特別な子供なのだから。
「みんなをこらしめて、気は済んだでしょう? 私一人じゃ、椅子取りゲームは成立しないし。ユメカちゃんも、早く帰らないとお母さんが心配するよ?」
 特別らしく、凡人のユメカをたしなめる。
 今夜教室で起きたことは、リオがシラを切っていればバレない。ユメカが何を言ったところで、大人達はリオの言葉を信じるだろう。リオの都合のいいように説明すれば、さらにユメカを孤立させられるかもしれない。
 すると、ユメカは不思議そうに小首を傾げた。
「私、?」
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