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第1部 第2章「深夜悪夢」
第4話『いすとりげぇむ』⑶
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「第一回戦、しゅーりょー。意外と残っちゃったね」
ユメカはパンパン、と手を叩く。
すると全ての椅子がひとりでに前へ傾き、座っていた者達を床に落とした。
「キャッ?!」
「わっ!」
「うっ」
「ルールも分かったことだし、今度はちゃんと座ってくれるよね? それじゃ、第二回戦開始ー!」
再び、スピーカーから音の外れた軽快な音楽が流れてくる。
並んでいた椅子のいくつかは、机の上に移動させられていた。リオが数えてみると、残っている人数よりもひとつ、席が少なくなっていた。
「まだやるの?」
「もうやだ! こんな椅子取りゲーム、やりたくない!」
「家に帰して!」
一部のクラスメイト達は泣きながら、ユメカに懇願する。ユメカはニヤニヤするばかりで、音楽を止めようとしない。まるで被験体のマウスでも見るような眼差しで、クラスメイトを観察していた。
他のクラスメイトはユメカの説得を諦め、ゲームに集中していた。普通の椅子取りゲームのように椅子の周りを歩きこそしないものの、耳をすまし、座りたい椅子に目星をつける。
本音を言えば、今すぐ廊下かベランダに逃げ出したかった。だが、椅子から離れた瞬間に曲が止まったらと思うと、逃げたくても逃げられなかった。
リオは音楽がやむまでの間、先ほどワニが起こした惨劇について考えていた。
襲われたクラスメイト達といい、ワニの口の周りが血で真っ赤になっていたことといい、ユメカが昼間に描いていた絵と全く同じ光景だった。偶然でないとすると、ユメカはクラスメイト達がワニに襲われると知っていたことになる。
(あれは予言? それとも、計画?)
ユメカは昼休みが終わるまで、教室に戻ってこなかった。もしかすると、リオが見た絵の続きを描いていたのかもしれない。
曲が止まり、クラスメイト達は一斉に目当ての椅子に座る。リオは運良く、他の子と席が被らずに座れた。
椅子が一つ足らない以上、必ず一人はあぶれる。その候補がアイナと彼女の友人のエミだった。
「エミちゃん、アイナの親友でしょ! 早く譲ってよ! 親友のアイナが死んじゃってもいいの?!」
「よく言うよ! 本当は親友だなんて思ってないくせに! 都合よく友達ヅラしないでよね!」
二人は同じ椅子を取り合い、争っている。
どうも、先に座っていたエミをアイナが無理やり押しのけようとしているらしい。エミは両手で椅子の座面をつかみ、必死に踏ん張っていた。
「ねぇ! 誰かアイナに席譲ってよ! みんなアイナのこと好きって言ってたじゃん!」
アイナは泣きながらクラスメイト達に訴える。
クラスメイト達は心配そうにアイナに視線をやるものの、椅子を譲ろうとはしない。いくらアイナの頼みとはいえ、彼女の命よりも自分の命の方が大事だった。
「しつこい! いい加減、諦めてよ!」
エミはしびれを切らし、アイナのみぞおちを蹴りつける。アイナは「うっ」とうめき、床へ倒れた。自分の身に何が起こったのか理解できず、呆然とする。
真っ赤に泣き腫らした目で、エミ、椅子に座っているクラスメイト達、リオ、ユメカと順に見回すと、最後にエミへ視線を戻し、恨めしそうに呟いた。
「……許さない。エミちゃんも、あんた達も、ユメカちゃんも……私を見殺しにしたこと、絶対許さないから」
直後、巨大なタカが窓を突き破り、アイナに襲いかかる。
アイナは抵抗する間もなく、ワシにくわえられ、闇の彼方へ攫われていった。アイナの悲鳴は次第の遠ざかっていき、やがて完全に聞こえなくなった。
「第二回戦しゅーりょー。脱落者が一人だとつまんないねぇ。もっと増やそっと」
ユメカは再び手を叩き、椅子からクラスメイト達を落とす。今度は一気に十脚の椅子が外された。
「……ねぇ、ユメカちゃん。どうして私達にこんなことするの? 一緒に椅子取りゲームがしたかったなら、そう言えば良かったじゃない」
リオはこみ上げる怒りを抑え、ユメカに尋ねた。ケンジやアイナはともかく、いじめに加担していない自分までゲームに参加させられている理由が分からなかった。
ユメカは「うーん」と人差し指を唇に当て、あいまいに答えた。
「たぶん、みんなのことをこらしめたいんじゃない? 私にもよく分かんないや」
「よく分かんないって……」
「だって、本当は卒業式の日に呼ぶつもりだったんだもん。きっと、リオちゃんが私の絵を馬鹿にしたせいだね。思わずイラッとしちゃった」
すると、話を聞いていたエミが横から割り込んできた。
「リオちゃんのせいにしないで! 全部、あんたが悪いんでしょ?! 私達をこらしめるとか、何様のつもり?! 意味分かんないんですけど!」
「……」
一瞬、ユメカの顔から表情が消える。
思わずゾッとするような、冷たい眼差しだった。
「……私も、あなた達が理解できない。当たり前よね。自分達が何をしているのかすら、正しく理解していないんだから」
その時、スピーカーから音が鳴った。二秒ほど音楽が流れて、すぐに止まったのだ。
「今、曲鳴らなかった?!」
「鳴った鳴った!」
「早く座らないと!」
クラスメイト達は心の準備が出来ておらず、出遅れる。空いていた椅子はたちまち埋まり、座れなかった者は座っている者から椅子を奪おうと躍起になった。
リオはユメカと会話している間にも椅子に注意を払っていたため、誰とも争わず座ることが出来た。リオから椅子を奪おうと近づいてくる者には、無言で睨んで追い返した。
「椅子ちょうだい! お願いだから!」
先ほどはアイナを見捨てたエミも、今度は座れなかったらしい。金切り声を上げ、座っているクラスメイトにつかみかかっている。
しかしエミが椅子を奪う前に、廊下側の壁からカバの群れが出てきた。座っていないクラスメイト達を突き飛ばし、踏みつける。エミもカバの犠牲になった。
カバの群れは椅子に座っているリオとクラスメイト達を避け、ベランダの外へと去っていく。教室の床にはエミ達の残骸が転がっていた。
ユメカはパンパン、と手を叩く。
すると全ての椅子がひとりでに前へ傾き、座っていた者達を床に落とした。
「キャッ?!」
「わっ!」
「うっ」
「ルールも分かったことだし、今度はちゃんと座ってくれるよね? それじゃ、第二回戦開始ー!」
再び、スピーカーから音の外れた軽快な音楽が流れてくる。
並んでいた椅子のいくつかは、机の上に移動させられていた。リオが数えてみると、残っている人数よりもひとつ、席が少なくなっていた。
「まだやるの?」
「もうやだ! こんな椅子取りゲーム、やりたくない!」
「家に帰して!」
一部のクラスメイト達は泣きながら、ユメカに懇願する。ユメカはニヤニヤするばかりで、音楽を止めようとしない。まるで被験体のマウスでも見るような眼差しで、クラスメイトを観察していた。
他のクラスメイトはユメカの説得を諦め、ゲームに集中していた。普通の椅子取りゲームのように椅子の周りを歩きこそしないものの、耳をすまし、座りたい椅子に目星をつける。
本音を言えば、今すぐ廊下かベランダに逃げ出したかった。だが、椅子から離れた瞬間に曲が止まったらと思うと、逃げたくても逃げられなかった。
リオは音楽がやむまでの間、先ほどワニが起こした惨劇について考えていた。
襲われたクラスメイト達といい、ワニの口の周りが血で真っ赤になっていたことといい、ユメカが昼間に描いていた絵と全く同じ光景だった。偶然でないとすると、ユメカはクラスメイト達がワニに襲われると知っていたことになる。
(あれは予言? それとも、計画?)
ユメカは昼休みが終わるまで、教室に戻ってこなかった。もしかすると、リオが見た絵の続きを描いていたのかもしれない。
曲が止まり、クラスメイト達は一斉に目当ての椅子に座る。リオは運良く、他の子と席が被らずに座れた。
椅子が一つ足らない以上、必ず一人はあぶれる。その候補がアイナと彼女の友人のエミだった。
「エミちゃん、アイナの親友でしょ! 早く譲ってよ! 親友のアイナが死んじゃってもいいの?!」
「よく言うよ! 本当は親友だなんて思ってないくせに! 都合よく友達ヅラしないでよね!」
二人は同じ椅子を取り合い、争っている。
どうも、先に座っていたエミをアイナが無理やり押しのけようとしているらしい。エミは両手で椅子の座面をつかみ、必死に踏ん張っていた。
「ねぇ! 誰かアイナに席譲ってよ! みんなアイナのこと好きって言ってたじゃん!」
アイナは泣きながらクラスメイト達に訴える。
クラスメイト達は心配そうにアイナに視線をやるものの、椅子を譲ろうとはしない。いくらアイナの頼みとはいえ、彼女の命よりも自分の命の方が大事だった。
「しつこい! いい加減、諦めてよ!」
エミはしびれを切らし、アイナのみぞおちを蹴りつける。アイナは「うっ」とうめき、床へ倒れた。自分の身に何が起こったのか理解できず、呆然とする。
真っ赤に泣き腫らした目で、エミ、椅子に座っているクラスメイト達、リオ、ユメカと順に見回すと、最後にエミへ視線を戻し、恨めしそうに呟いた。
「……許さない。エミちゃんも、あんた達も、ユメカちゃんも……私を見殺しにしたこと、絶対許さないから」
直後、巨大なタカが窓を突き破り、アイナに襲いかかる。
アイナは抵抗する間もなく、ワシにくわえられ、闇の彼方へ攫われていった。アイナの悲鳴は次第の遠ざかっていき、やがて完全に聞こえなくなった。
「第二回戦しゅーりょー。脱落者が一人だとつまんないねぇ。もっと増やそっと」
ユメカは再び手を叩き、椅子からクラスメイト達を落とす。今度は一気に十脚の椅子が外された。
「……ねぇ、ユメカちゃん。どうして私達にこんなことするの? 一緒に椅子取りゲームがしたかったなら、そう言えば良かったじゃない」
リオはこみ上げる怒りを抑え、ユメカに尋ねた。ケンジやアイナはともかく、いじめに加担していない自分までゲームに参加させられている理由が分からなかった。
ユメカは「うーん」と人差し指を唇に当て、あいまいに答えた。
「たぶん、みんなのことをこらしめたいんじゃない? 私にもよく分かんないや」
「よく分かんないって……」
「だって、本当は卒業式の日に呼ぶつもりだったんだもん。きっと、リオちゃんが私の絵を馬鹿にしたせいだね。思わずイラッとしちゃった」
すると、話を聞いていたエミが横から割り込んできた。
「リオちゃんのせいにしないで! 全部、あんたが悪いんでしょ?! 私達をこらしめるとか、何様のつもり?! 意味分かんないんですけど!」
「……」
一瞬、ユメカの顔から表情が消える。
思わずゾッとするような、冷たい眼差しだった。
「……私も、あなた達が理解できない。当たり前よね。自分達が何をしているのかすら、正しく理解していないんだから」
その時、スピーカーから音が鳴った。二秒ほど音楽が流れて、すぐに止まったのだ。
「今、曲鳴らなかった?!」
「鳴った鳴った!」
「早く座らないと!」
クラスメイト達は心の準備が出来ておらず、出遅れる。空いていた椅子はたちまち埋まり、座れなかった者は座っている者から椅子を奪おうと躍起になった。
リオはユメカと会話している間にも椅子に注意を払っていたため、誰とも争わず座ることが出来た。リオから椅子を奪おうと近づいてくる者には、無言で睨んで追い返した。
「椅子ちょうだい! お願いだから!」
先ほどはアイナを見捨てたエミも、今度は座れなかったらしい。金切り声を上げ、座っているクラスメイトにつかみかかっている。
しかしエミが椅子を奪う前に、廊下側の壁からカバの群れが出てきた。座っていないクラスメイト達を突き飛ばし、踏みつける。エミもカバの犠牲になった。
カバの群れは椅子に座っているリオとクラスメイト達を避け、ベランダの外へと去っていく。教室の床にはエミ達の残骸が転がっていた。
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