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悪夢曇天色 第五話『薔薇色の悪魔』
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野々原は自らののどにハサミを向け……振り下ろすことなく、力なく下げた。
「出来ない……私には、出来ない」
不甲斐ない自分を責め、泣き崩れる。
野々原は分かっていた。どんなに自分を責めようとも、自ら命を絶つほどの勇気はないということを。そんな勇気があったら、とっくに今の自分が置かれている現状をなんとかしている。
赤いドレスの女もそれを知っていたのか、野々原を止めようともせず、ただ静かに見下ろしていた。
「……そう、今の貴方には出来ない。殺意も私と一緒に追い出してしまったもの」
「何のことですか? 貴方、野薔薇さんじゃないんですか?」
「違う。私は、貴方が生み出した悪魔」
「あく、ま?」
野々原は目を白黒させる。女はツノも翼も尻尾も生えていない。ただの人間の美女にしか見えなかった。
だが、女は大真面目だった。「そう」と頷き、自らについて明かした。
「私は悪魔。貴方が不要とみなした、殺意や憎悪、怒り、不満、理想、欲望……その他もろもろが固まってできた存在。貴方が殺したいほど憎む相手を、理想通り殺した。さっき飛び出して行った女も、その一人」
「美崎先輩のこと? 美崎先輩に何をしたの?」
女はニヤリと口角を吊り上げ、笑った。
目は冷たく野々原を見下ろしたままで、笑っていなかった。
「貴方が望んだ通り、目を光で焼いて、視力を奪ってやった。あれなら美容師は続けられない。そのうち辞める。あの女さえいなくなれば、快適に仕事が出来る。そう、貴方は望んだ。だからやった」
「そんなはずない! 確かに先輩のことは苦手だけど、お店を辞めさせるために視力を奪うなんて、そんな残酷なこと考えるわけない!」
「いいえ、貴方は考えた。だから私が動いた。あの女だけじゃない……今日貴方が担当した客達も、全員始末した」
「出来ない……私には、出来ない」
不甲斐ない自分を責め、泣き崩れる。
野々原は分かっていた。どんなに自分を責めようとも、自ら命を絶つほどの勇気はないということを。そんな勇気があったら、とっくに今の自分が置かれている現状をなんとかしている。
赤いドレスの女もそれを知っていたのか、野々原を止めようともせず、ただ静かに見下ろしていた。
「……そう、今の貴方には出来ない。殺意も私と一緒に追い出してしまったもの」
「何のことですか? 貴方、野薔薇さんじゃないんですか?」
「違う。私は、貴方が生み出した悪魔」
「あく、ま?」
野々原は目を白黒させる。女はツノも翼も尻尾も生えていない。ただの人間の美女にしか見えなかった。
だが、女は大真面目だった。「そう」と頷き、自らについて明かした。
「私は悪魔。貴方が不要とみなした、殺意や憎悪、怒り、不満、理想、欲望……その他もろもろが固まってできた存在。貴方が殺したいほど憎む相手を、理想通り殺した。さっき飛び出して行った女も、その一人」
「美崎先輩のこと? 美崎先輩に何をしたの?」
女はニヤリと口角を吊り上げ、笑った。
目は冷たく野々原を見下ろしたままで、笑っていなかった。
「貴方が望んだ通り、目を光で焼いて、視力を奪ってやった。あれなら美容師は続けられない。そのうち辞める。あの女さえいなくなれば、快適に仕事が出来る。そう、貴方は望んだ。だからやった」
「そんなはずない! 確かに先輩のことは苦手だけど、お店を辞めさせるために視力を奪うなんて、そんな残酷なこと考えるわけない!」
「いいえ、貴方は考えた。だから私が動いた。あの女だけじゃない……今日貴方が担当した客達も、全員始末した」
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