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悪夢曇天色 第四話『豪雨、時々ハサミ』
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気がつくと、野々原はいつか夢で見た荒野に立っていた。
人も建物もなく、空は果てしなく曇っている。大量の雨が野々原の体を叩きつけ、一瞬でずぶ濡れにさせた。
やがて雲間から巨大な顔が覗き込んだ。石井、美匣、青海泥、マイ、フミ……そして、先輩が、ニヤニヤと笑いながら野々原を見下ろしている。
「他の子には内緒で連絡先交換しようよ」
「よくも面白半分で仮面を取ったわね!」
「お前のせいで、この店は炎上するんだ!」
「私達、今から合コンなの!」
「ほんの十万でいいから、お金貸してくれない? 高校のよしみでさぁ」
「早く辞めてくれる? 貴方みたいな使えない子、いつまでいられると迷惑なのよ」
現実で言われた言葉と共に、口から無数のハサミを吐き出す。
ハサミは雨と一緒に野々原へ降り注ぎ、彼女の髪を、皮膚を、肉を、全身のあらゆる部位を切り裂き、そして貫いた。
「痛い……やめて……私、今までよりもっと頑張るから……水も食事も休憩もお金もいらないし、どんなに罵倒されたって構わないから……お店にだけはいさせて……!」
野々原は痛みにもだえ、苦しむ。
やがてハサミが両目を貫くと、視界が一気に暗くなり、夢から目を覚ました。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
目が熱い。全身がチクチクする。
見回すと、野々原が寝ていたのは自宅ではなく、「Wild Rose」の店内だった。隅から隅まで掃除したはずなのに、大量の黒い髪の毛が床一面に広がっている。目が熱かったのは照明、全身がチクチクしていたのは布団代わりに横たわっていた髪の毛のせいだった。
店には野々原の他に、先輩もいた。両目を押さえ、苦しそうにうめいている。
「先輩! 大丈夫ですか?!」
野々原は先輩に駆け寄った。
「野々原?! そこにいるの?!」
先輩は野々原の声を聞き、ハッと顔を上げる。
先輩の目は黒目が消え、焼き魚の目玉のように真っ白になっていた。
「せ、先輩! どうしたんですか、その目!」
「アンタのせいよ!」
先輩は声を頼りに、野々原へ詰め寄った。
「アンタが私にあの女を仕向けたんでしょ?! 今までの復讐のために!」
「あの女……?」
野々原は身に覚えがなく、困惑した。
野々原に友人はいない。専門学校でも孤立し、友達を作れなかった。
「あの女って誰ですか? 先輩はその人に何をされたんですか?」
「とぼけんじゃないわよ!」
先輩は床の髪の毛をつかみ、野々原に叩きつけようとした。
しかし野々原の背後を見て「ヒッ」と悲鳴を上げた。失明したはずの彼女の目には、まだ何かが見えているらしい。
「ち、違うの! 私、貴方のことを言ったんじゃない!」
先輩は奇声を上げながら走り去り、裏口から外へ出て行った。
直後、先輩が去っていった方から、何やら鈍い音が聞こえた。続いて車のブレーキ音が鳴り響く。
野々原は恐る恐る裏口のドアを開き、隙間から外を覗く。すると先輩が頭から血を流し、アスファルトの地面に倒れていた。どうやら車にはねられたらしく、乗っていた運転手は動揺を隠せない様子だった。
「この馬鹿女! 急に飛び出してきやがって!」
野々原は関わらないよう、ソッとドアを閉じた。
人も建物もなく、空は果てしなく曇っている。大量の雨が野々原の体を叩きつけ、一瞬でずぶ濡れにさせた。
やがて雲間から巨大な顔が覗き込んだ。石井、美匣、青海泥、マイ、フミ……そして、先輩が、ニヤニヤと笑いながら野々原を見下ろしている。
「他の子には内緒で連絡先交換しようよ」
「よくも面白半分で仮面を取ったわね!」
「お前のせいで、この店は炎上するんだ!」
「私達、今から合コンなの!」
「ほんの十万でいいから、お金貸してくれない? 高校のよしみでさぁ」
「早く辞めてくれる? 貴方みたいな使えない子、いつまでいられると迷惑なのよ」
現実で言われた言葉と共に、口から無数のハサミを吐き出す。
ハサミは雨と一緒に野々原へ降り注ぎ、彼女の髪を、皮膚を、肉を、全身のあらゆる部位を切り裂き、そして貫いた。
「痛い……やめて……私、今までよりもっと頑張るから……水も食事も休憩もお金もいらないし、どんなに罵倒されたって構わないから……お店にだけはいさせて……!」
野々原は痛みにもだえ、苦しむ。
やがてハサミが両目を貫くと、視界が一気に暗くなり、夢から目を覚ました。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
目が熱い。全身がチクチクする。
見回すと、野々原が寝ていたのは自宅ではなく、「Wild Rose」の店内だった。隅から隅まで掃除したはずなのに、大量の黒い髪の毛が床一面に広がっている。目が熱かったのは照明、全身がチクチクしていたのは布団代わりに横たわっていた髪の毛のせいだった。
店には野々原の他に、先輩もいた。両目を押さえ、苦しそうにうめいている。
「先輩! 大丈夫ですか?!」
野々原は先輩に駆け寄った。
「野々原?! そこにいるの?!」
先輩は野々原の声を聞き、ハッと顔を上げる。
先輩の目は黒目が消え、焼き魚の目玉のように真っ白になっていた。
「せ、先輩! どうしたんですか、その目!」
「アンタのせいよ!」
先輩は声を頼りに、野々原へ詰め寄った。
「アンタが私にあの女を仕向けたんでしょ?! 今までの復讐のために!」
「あの女……?」
野々原は身に覚えがなく、困惑した。
野々原に友人はいない。専門学校でも孤立し、友達を作れなかった。
「あの女って誰ですか? 先輩はその人に何をされたんですか?」
「とぼけんじゃないわよ!」
先輩は床の髪の毛をつかみ、野々原に叩きつけようとした。
しかし野々原の背後を見て「ヒッ」と悲鳴を上げた。失明したはずの彼女の目には、まだ何かが見えているらしい。
「ち、違うの! 私、貴方のことを言ったんじゃない!」
先輩は奇声を上げながら走り去り、裏口から外へ出て行った。
直後、先輩が去っていった方から、何やら鈍い音が聞こえた。続いて車のブレーキ音が鳴り響く。
野々原は恐る恐る裏口のドアを開き、隙間から外を覗く。すると先輩が頭から血を流し、アスファルトの地面に倒れていた。どうやら車にはねられたらしく、乗っていた運転手は動揺を隠せない様子だった。
「この馬鹿女! 急に飛び出してきやがって!」
野々原は関わらないよう、ソッとドアを閉じた。
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