悪夢症候群

緋色刹那

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悪夢薔薇色 第四話『漂白したい過去』

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「エマ?!」
「嘘?!」
 マイとフミは自分の目が信じられず、何度も夢花と免許証とを見比べる。同姓同名の別人名かとも思ったが、住所も生年月日も一致していた。
「何でアンタがここに?!」
「顔、前とまるっきり違うじゃん!」
「悪い?! 火傷の痕を誤魔化すために整形したのよ!」
 夢花、もといエマは素性を隠すのをやめ、マイとフミを恫喝した。
「みんな……私が火傷を負う前はチヤホヤしてたくせに、顔が醜くなった途端、離れていくんだもの! だったら、もう整形するしかないじゃない! ねぇ、池田君もそう思うでしょう?」
「え?」
 エマは涙を浮かべ、池田にすがりついた。
「私ね、可哀想な女なの。偶然事故に巻き込まれて、一生消えない傷を負ってしまったのよ。ねぇ、少しでも哀れに思うなら、私を引き取ってよ。池田君以外、私に振り向いてくれる人なんていないんだから」
 必死の訴えに、同情の空気が漂う。
 しかし彼女の素性をよく知るマイとフミは「騙されちゃダメ!」と池田に訴えた。
「こいつ、高校の時に私達の彼氏と三股してたのよ! 絶対、今も浮気してるに決まってるわ!」
「ほら、これが証拠!」
 バッグからくすねたエマのスマホを顔認証で開き、保存されていた写真を見せる。
 すると様々な男性と親しげに写真に写っているエマの姿がそこかしこにあった。さらにSNSには男性達との詳細なやり取りまで残っており、もはや言い逃れは出来なかった。
「やっぱ、昔と変わってないじゃない!」
「池田君、これでもエマを選ぶわけ?!」
 マイとフミは池田に詰め寄る。
 もはや勝機がなくなった状況でも、エマは「アンタ達よりは、ずっとマシよ!」と池田から離れようとはしなかった。
「ね、池田君。私を選んでくれるわよね?」
「違うわ、私よ!」
「いいえ、私!」
 三人は池田の気持ちを無視し、言い争う。
 池田は「俺は夜宵さんのことが……」とブツブツ呟いていたが、誰も耳を貸さなかった。

 そこへ赤いドレスの女が真っ赤なヒールをコツコツ響かせ、近づいてきた。両手に、正体不明の白い液体がなみなみと注がれたジョッキを持っている。不思議と、周囲の誰も女の存在に気づかなかった。
 女はマイ、フミ、エマのもとまで来ると、彼女達に向かってジョッキの中身をぶちまけた。
「ギャッ!」
「何この液体!」
「取れないんだけど!」
 液体は三人の体を白く包み、やがて存在を抹消した。
 彼女達がいた場所にはポッカリと空間ができ、合コンの参加者達の記憶からも消された。
「……あれ? 俺達、何やってたんだっけ?」
 何か壮絶な光景を見ていた気がするが、思い出せない。
 そのうち「まぁいっか」と何もなかったように合コンを再開した。
「それじゃ、簡単に自己紹介しよっか。俺はみきツカサ。今回の幹事やってます」
幸塚こうづかカズキっす。幹の同僚です。よろしく」
池田いけだ爽太そうたです。お二人の後輩で、高校ではサッカー部でした! よろしくお願いします!」
 男性陣が自己紹介を終えると、今度は女性陣が自己紹介をした。
泉谷いずみや温子です。泉谷デパートの東京支店長やってます。今日は女の子が三人も少なくてごめんなさい」
「その年で支店長?! すごいね!」
「泉谷ってことは、もしかして社長の娘?!」
「あ、はい」
 夢花の友人である温子の経歴に、男性陣は一斉に食いつく。夢花一筋であったはずの池田も、温子のほんわかした雰囲気と飾らない性格に惹かれていた。
 合コンが和やかに進む中、赤いドレスの女は「仕事を終えた」とばかりに居酒屋を後にした。街を散策し、一軒の美容院の前で足を止める。
 女の視線の先には、美容師として懸命に働く野々原の姿があった。

悪夢薔薇色 第四話『漂白したい過去』終わり
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