悪夢症候群

緋色刹那

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悪夢薔薇色 第四話『漂白したい過去』

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 池田が夢花に片想いし、フラれたことはマイもフミも知っていた。
 そのショックで昼中歩夢という作家の小説を「恋人」と慕い、狂ったように買い漁っていたことも、有名な話だった。
「今でも昼中先生の小説、買ってるの?」
「いいや、全部売ったよ。高校を卒業したあたりで、急に興味がなくなってさ。まるで洗脳が解けたみたいに、頭の中がスッキリしたよ」
 池田は夢花とばかり談笑し、マイとフミには一切話を振らない。どうやら噂は本当だったらしい。しかも、未だ彼女に恋心を抱いているようだ。
 明らかな待遇の差に、マイとフミは嫉妬した。
「何よ、あの子。高校の頃は池田君をフったくせに」
「何かないかしら? あの子の弱点」
 他の男性には目もくれず、夢花の不利になるような情報を思い出そうとする。
 当時の夢花は可愛らしいルックスや優秀な成績、控えめだが誰とでも話せる社交的な性格、幾度も絵画コンクールで入賞しているほど絵が上手い……と多才で、密かな人気者だった。
 当然、多くの男子からモテたが、三年間誰とも付き合わず、学園のアイドルを貫き通した。素行も良く、弱点らしい弱点はないかに思われた。
「……そういえば、ちょっと噂になってたことがあったわ」
 そんな中、ふとフミは夢花にまつわるある噂を思い出した。
「何? 噂って」
「確証はないし、すぐに消えた話なんだけどね?」
 フミはそう前置きし、小声でマイに話した。
「あの子、年上の彼氏と同棲してたらしいのよ。よそのクラスの子が、同じ家に入るところを見たって。その家、表札がかかってなくて怪しかったって」
「そういえば、クラスの誰もあの子の家に行ったことなかったわね。帰りも途中までだったらしいし」
「これはいい弱点になるんじゃない?」
 マイとフミは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「ねぇ、池田君。夜宵さんが年上の彼氏と援助交際してたって話、知ってる?」
 二人はさっそく話を少し盛って、池田に告げ口した。
「援助交際?」
 それまで夢花との会話に夢中だった池田は、初めてマイとフミに視線を向けた。半信半疑ながら、二人の話が気になっているらしい。
 夢花も黙って、二人の様子を観察している。彼女が何も反論しないのを良いことに、マイとフミはあることないこと池田に吹き込んだ。
「毎日、放課後に男の家にかよってたらしいわ。今も繋がってるんじゃない?」
「そんな女が合コンに来るなんて、ほんと場違いよねぇ。もしかしてお金に困って、新しいカモを探しに来たとかぁ?」
 他の参加者達もヒソヒソとささやき合い、夢花を訝しむ。直接の知り合いは参加していないらしく、誰も夢花を擁護しようとはしなかった。
 池田も思い当たる節があるのか、妙に青ざめていた。
「そうなのかい? 夜宵さん。やっぱりあの人は、君の恋人だったのかい?」

 
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