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第1部 第2章「深夜悪夢」
第1話『美術館へようこそ』⑵
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その後、四人は美術館近くにある喫茶店へ移動し、夕方までお喋りを楽しんだ。今日見た絵について語り合うわけでもなく、いつも通り夫と社会に対して愚痴を言い合う。
それぞれの家に帰った後は普段通りに過ごし、夜になると寝室へ移動して眠りについた。
目が覚めると、四人は深夜美術館の展示室で倒れていた。服はパジャマではなく、昼間に着ていたものと同じだ。
展示室には四人以外、誰もいなかった。異様に静まり返っている。窓も時計もないため、今が昼なのか夜なのかすらも分からなかった。
「私達、どうしてここにいるのかしら?」
怯えた様子で、馬場が尋ねる。
「誘拐されたのかも」と千葉が深刻そうに言った。
「きっと、うちの旦那から身代金を奪うつもりなのよ。みんなは私の友人ってことで、ついでに連れて来られたんだわ」
「それは困るわぁ。うちのニャーちゃん達にご飯とお水をあげないといけないのに」
有村は自分よりも、飼っている三十匹の猫達を心配している。有村にとって、猫達は自分の子供以上に大切な存在だった。
「は、早く警察を呼びましょ!」
洞島はポケットから垢だらけのスマホを取り出し、慌てて警察に電話をかける。
が、電波が繋がっておらず、圏外だった。
「うそっ?! この美術館、どうなってるの?!」
「誘拐犯が妨害電波を発生させて、スマホを使えなくしてるんだわ。私達以外に人はいないようだし、自力で脱出するしかないわね」
千葉は冷静に今の状況を分析し、立ち上がる。他の三人もそろって立ち上がり、服についたわずかなホコリを払った。
「ひッ」
ふと、馬場は「首を探す女」に目を向け、青ざめた。
昼間は描かれていたはずのナイフを持った女性が消え、黒い背景だけになっていた。
そこへ、展示室の入口から数人の学芸員達が駆け込んできた。
「キャーッ!」
「誰よ、貴方達!」
突然現れた大勢の人間に、四人は悲鳴を上げる。首から名札を下げていたが、学芸員だとは気づかなかった。
学芸員達は乱暴に千葉を担ぎ上げると、慌ただしく展示室を出て行った。
「痛い痛い! もっと優しく持ち上げなさいよ!」
千葉は手足をバタつかせ、キーキーと文句を言う。
他の三人も「私達も連れて行かれるんじゃ」と身構えていたが、どういうわけか千葉だけが連れ去られていった。
「……今の、なんだったのかしら?」
「千葉さんを狙った誘拐犯じゃない?」
「だから私達は置いて行ったのかしら?」
学芸員達が出て行った入口の扉は強化ガラスでできており、外の玄関ホールが透けて見える。玄関ホールの窓の向こうは暗く、今は夜なのだと分かった。
展示室の外には客はおろか、一人の従業員も警備員もいない。千葉は別室へ連れて行かれたのだろう。助けが望めない以上、やはり自力で脱出するしかないようだった。
「絵の額縁をぶつければ、割れるかもしれないわ」
「やってみましょう!」
有村と洞島が手頃な絵を探しに向かおうとすると、「待って!」と馬場が二人を引き留めた。
「さっき『首を探す女』の絵を見たわ。そしたら、絵の中から女が消えていたの。もしかしたら女が絵の中から抜け出て、徘徊しているかもしれない」
「『首を探す女』って、馬場さんが不気味だって言ってたあの絵?」
馬場は怯えた様子で頷く。
しかし二人は信じてくれなかった。
「あははっ! そんなことあるわけないじゃない!」
「そうよ、見間違いよ! 似たような絵ばっか飾ってあるから、別の絵と間違えたのよ! さっ、絵を探しに行きましょう!」
有村と洞島は強化ガラスを割れそうな絵を探しに向かう。
馬場は一人になるのが怖くて、二人について行った。
それぞれの家に帰った後は普段通りに過ごし、夜になると寝室へ移動して眠りについた。
目が覚めると、四人は深夜美術館の展示室で倒れていた。服はパジャマではなく、昼間に着ていたものと同じだ。
展示室には四人以外、誰もいなかった。異様に静まり返っている。窓も時計もないため、今が昼なのか夜なのかすらも分からなかった。
「私達、どうしてここにいるのかしら?」
怯えた様子で、馬場が尋ねる。
「誘拐されたのかも」と千葉が深刻そうに言った。
「きっと、うちの旦那から身代金を奪うつもりなのよ。みんなは私の友人ってことで、ついでに連れて来られたんだわ」
「それは困るわぁ。うちのニャーちゃん達にご飯とお水をあげないといけないのに」
有村は自分よりも、飼っている三十匹の猫達を心配している。有村にとって、猫達は自分の子供以上に大切な存在だった。
「は、早く警察を呼びましょ!」
洞島はポケットから垢だらけのスマホを取り出し、慌てて警察に電話をかける。
が、電波が繋がっておらず、圏外だった。
「うそっ?! この美術館、どうなってるの?!」
「誘拐犯が妨害電波を発生させて、スマホを使えなくしてるんだわ。私達以外に人はいないようだし、自力で脱出するしかないわね」
千葉は冷静に今の状況を分析し、立ち上がる。他の三人もそろって立ち上がり、服についたわずかなホコリを払った。
「ひッ」
ふと、馬場は「首を探す女」に目を向け、青ざめた。
昼間は描かれていたはずのナイフを持った女性が消え、黒い背景だけになっていた。
そこへ、展示室の入口から数人の学芸員達が駆け込んできた。
「キャーッ!」
「誰よ、貴方達!」
突然現れた大勢の人間に、四人は悲鳴を上げる。首から名札を下げていたが、学芸員だとは気づかなかった。
学芸員達は乱暴に千葉を担ぎ上げると、慌ただしく展示室を出て行った。
「痛い痛い! もっと優しく持ち上げなさいよ!」
千葉は手足をバタつかせ、キーキーと文句を言う。
他の三人も「私達も連れて行かれるんじゃ」と身構えていたが、どういうわけか千葉だけが連れ去られていった。
「……今の、なんだったのかしら?」
「千葉さんを狙った誘拐犯じゃない?」
「だから私達は置いて行ったのかしら?」
学芸員達が出て行った入口の扉は強化ガラスでできており、外の玄関ホールが透けて見える。玄関ホールの窓の向こうは暗く、今は夜なのだと分かった。
展示室の外には客はおろか、一人の従業員も警備員もいない。千葉は別室へ連れて行かれたのだろう。助けが望めない以上、やはり自力で脱出するしかないようだった。
「絵の額縁をぶつければ、割れるかもしれないわ」
「やってみましょう!」
有村と洞島が手頃な絵を探しに向かおうとすると、「待って!」と馬場が二人を引き留めた。
「さっき『首を探す女』の絵を見たわ。そしたら、絵の中から女が消えていたの。もしかしたら女が絵の中から抜け出て、徘徊しているかもしれない」
「『首を探す女』って、馬場さんが不気味だって言ってたあの絵?」
馬場は怯えた様子で頷く。
しかし二人は信じてくれなかった。
「あははっ! そんなことあるわけないじゃない!」
「そうよ、見間違いよ! 似たような絵ばっか飾ってあるから、別の絵と間違えたのよ! さっ、絵を探しに行きましょう!」
有村と洞島は強化ガラスを割れそうな絵を探しに向かう。
馬場は一人になるのが怖くて、二人について行った。
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