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悪夢極彩色 第二話『悪化するラブレター』
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異変が起きたのは、歩夢が夢花とディナーへ行った一ヶ月後だった。
またしても夢巫女からファンレターが届いたのだ。
「次は水族館のチケットがいいなー」
夢花はワクワクしながら封筒を開く。
入っていたのはファンレターと婚姻届だった。婚姻届は途中まで記入済みで、あとは歩夢の個人情報を書くだけだった。
「はァァ?! この女、お兄さんと結婚する気?! 付き合ってすらいないのに!」
怒りに任せ、婚姻届を破く。
一方の歩夢も、ファンレターに目を通して眉をしかめていた。
「どうも、前に来たファンレターで指定してあった日時と映画館に行かなかったから、僕が浮気したと思い込んでいるらしい。付き合ってすらいないのにね」
「だったら、さっさとお兄さんから手を引きなさいよ!」
「ところが、僕との子供を身籠もっているから別れたくないそうだ。もう親にも紹介してあるから、婚姻届を提出して結婚しろと言っている。結婚してくれないなら、このことを公表するそうだよ。困ったなぁ」
「お兄さん、もういいでしょ! この女、キツめに矯正しちゃおう!」
「……待った。まだ続きがある」
歩夢は手紙を最後まで読み、顔色が変わった。
「"ずっと黙ってたけど、実は私、歩夢先生の作品で登場する悪夢使いと同じ力を持っているんです。この力を使って、浮気相手を殺し、歩夢先生を迎えに行きます"」
「それも思い込みでしょ? 歩夢お兄さんの小説を読んで自分も能力者だと思い込む、典型的な厨二病。大人のくせに、幼稚くさっ」
夢花はなおも小馬鹿にした態度を取る。
歩夢は「そうとも限らないかもね」と封筒の中を覗き込んだ。
「僕らが出来ることは限られている。現代の科学を用いれば、能力なんていらない」
手を受け皿に、封筒を振る。
すると中から指でつまめるほどの、黒きて小さなチップが出てきた。
「何これ、ゴミ?」
「おそらくGPSつきの発信機だよ。僕の家を特定するために仕掛けられていたらしい」
その時、インターホンが鳴った。
カメラを確認すると、見知らぬ女子学生が家の前に立っていた。制服を着た内気そうな女子で、肩掛けの大きな旅行鞄とキャリーバックを持っていた。
「私と歳、変わらないじゃん! やっぱ、あの写真は偽物だったのね!」
「夢花ちゃん、動かないで」
歩夢は玄関へ向かおうとする夢花を制し、カメラで女子学生の様子を観察する。
女子学生はしびれを切らしたのか、玄関のドアを激しくノックし始めた。
「歩夢せんせぇ。いらっしゃるのは分かってるんですよぉ。早く中に入れてくださぁい。ちょっと顔を見せて下さるだけでいいですからぁ」
猫なで声で歩夢を呼ぶ。開けたら最後、死ぬまで永住するだろう。否、死んでも悪霊となって歩夢に付き纏い続けるかもしれない。
仮に悪夢で矯正したとしても、家の場所を知られたままでは安全とは言えなかった。
「どうする? お兄さん」
「夢花ちゃんはどうしたい?」
夢花は即答した。
「今すぐ殺してやりたい」
「だよね」
それを聞いて、歩夢はクスクスと笑う。この状況に対し、全く動じていなかった。
「でも殺すのはダメ。もっといい方法があるんだ」
歩夢は女子学生に聞こえないよう、小声で夢花に耳打ちした。
またしても夢巫女からファンレターが届いたのだ。
「次は水族館のチケットがいいなー」
夢花はワクワクしながら封筒を開く。
入っていたのはファンレターと婚姻届だった。婚姻届は途中まで記入済みで、あとは歩夢の個人情報を書くだけだった。
「はァァ?! この女、お兄さんと結婚する気?! 付き合ってすらいないのに!」
怒りに任せ、婚姻届を破く。
一方の歩夢も、ファンレターに目を通して眉をしかめていた。
「どうも、前に来たファンレターで指定してあった日時と映画館に行かなかったから、僕が浮気したと思い込んでいるらしい。付き合ってすらいないのにね」
「だったら、さっさとお兄さんから手を引きなさいよ!」
「ところが、僕との子供を身籠もっているから別れたくないそうだ。もう親にも紹介してあるから、婚姻届を提出して結婚しろと言っている。結婚してくれないなら、このことを公表するそうだよ。困ったなぁ」
「お兄さん、もういいでしょ! この女、キツめに矯正しちゃおう!」
「……待った。まだ続きがある」
歩夢は手紙を最後まで読み、顔色が変わった。
「"ずっと黙ってたけど、実は私、歩夢先生の作品で登場する悪夢使いと同じ力を持っているんです。この力を使って、浮気相手を殺し、歩夢先生を迎えに行きます"」
「それも思い込みでしょ? 歩夢お兄さんの小説を読んで自分も能力者だと思い込む、典型的な厨二病。大人のくせに、幼稚くさっ」
夢花はなおも小馬鹿にした態度を取る。
歩夢は「そうとも限らないかもね」と封筒の中を覗き込んだ。
「僕らが出来ることは限られている。現代の科学を用いれば、能力なんていらない」
手を受け皿に、封筒を振る。
すると中から指でつまめるほどの、黒きて小さなチップが出てきた。
「何これ、ゴミ?」
「おそらくGPSつきの発信機だよ。僕の家を特定するために仕掛けられていたらしい」
その時、インターホンが鳴った。
カメラを確認すると、見知らぬ女子学生が家の前に立っていた。制服を着た内気そうな女子で、肩掛けの大きな旅行鞄とキャリーバックを持っていた。
「私と歳、変わらないじゃん! やっぱ、あの写真は偽物だったのね!」
「夢花ちゃん、動かないで」
歩夢は玄関へ向かおうとする夢花を制し、カメラで女子学生の様子を観察する。
女子学生はしびれを切らしたのか、玄関のドアを激しくノックし始めた。
「歩夢せんせぇ。いらっしゃるのは分かってるんですよぉ。早く中に入れてくださぁい。ちょっと顔を見せて下さるだけでいいですからぁ」
猫なで声で歩夢を呼ぶ。開けたら最後、死ぬまで永住するだろう。否、死んでも悪霊となって歩夢に付き纏い続けるかもしれない。
仮に悪夢で矯正したとしても、家の場所を知られたままでは安全とは言えなかった。
「どうする? お兄さん」
「夢花ちゃんはどうしたい?」
夢花は即答した。
「今すぐ殺してやりたい」
「だよね」
それを聞いて、歩夢はクスクスと笑う。この状況に対し、全く動じていなかった。
「でも殺すのはダメ。もっといい方法があるんだ」
歩夢は女子学生に聞こえないよう、小声で夢花に耳打ちした。
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