142 / 227
悪夢極彩色 第二話『悪化するラブレター』
3
しおりを挟む
異変が起きたのは、歩夢が夢花とディナーへ行った一ヶ月後だった。
またしても夢巫女からファンレターが届いたのだ。
「次は水族館のチケットがいいなー」
夢花はワクワクしながら封筒を開く。
入っていたのはファンレターと婚姻届だった。婚姻届は途中まで記入済みで、あとは歩夢の個人情報を書くだけだった。
「はァァ?! この女、お兄さんと結婚する気?! 付き合ってすらいないのに!」
怒りに任せ、婚姻届を破く。
一方の歩夢も、ファンレターに目を通して眉をしかめていた。
「どうも、前に来たファンレターで指定してあった日時と映画館に行かなかったから、僕が浮気したと思い込んでいるらしい。付き合ってすらいないのにね」
「だったら、さっさとお兄さんから手を引きなさいよ!」
「ところが、僕との子供を身籠もっているから別れたくないそうだ。もう親にも紹介してあるから、婚姻届を提出して結婚しろと言っている。結婚してくれないなら、このことを公表するそうだよ。困ったなぁ」
「お兄さん、もういいでしょ! この女、キツめに矯正しちゃおう!」
「……待った。まだ続きがある」
歩夢は手紙を最後まで読み、顔色が変わった。
「"ずっと黙ってたけど、実は私、歩夢先生の作品で登場する悪夢使いと同じ力を持っているんです。この力を使って、浮気相手を殺し、歩夢先生を迎えに行きます"」
「それも思い込みでしょ? 歩夢お兄さんの小説を読んで自分も能力者だと思い込む、典型的な厨二病。大人のくせに、幼稚くさっ」
夢花はなおも小馬鹿にした態度を取る。
歩夢は「そうとも限らないかもね」と封筒の中を覗き込んだ。
「僕らが出来ることは限られている。現代の科学を用いれば、能力なんていらない」
手を受け皿に、封筒を振る。
すると中から指でつまめるほどの、黒きて小さなチップが出てきた。
「何これ、ゴミ?」
「おそらくGPSつきの発信機だよ。僕の家を特定するために仕掛けられていたらしい」
その時、インターホンが鳴った。
カメラを確認すると、見知らぬ女子学生が家の前に立っていた。制服を着た内気そうな女子で、肩掛けの大きな旅行鞄とキャリーバックを持っていた。
「私と歳、変わらないじゃん! やっぱ、あの写真は偽物だったのね!」
「夢花ちゃん、動かないで」
歩夢は玄関へ向かおうとする夢花を制し、カメラで女子学生の様子を観察する。
女子学生はしびれを切らしたのか、玄関のドアを激しくノックし始めた。
「歩夢せんせぇ。いらっしゃるのは分かってるんですよぉ。早く中に入れてくださぁい。ちょっと顔を見せて下さるだけでいいですからぁ」
猫なで声で歩夢を呼ぶ。開けたら最後、死ぬまで永住するだろう。否、死んでも悪霊となって歩夢に付き纏い続けるかもしれない。
仮に悪夢で矯正したとしても、家の場所を知られたままでは安全とは言えなかった。
「どうする? お兄さん」
「夢花ちゃんはどうしたい?」
夢花は即答した。
「今すぐ殺してやりたい」
「だよね」
それを聞いて、歩夢はクスクスと笑う。この状況に対し、全く動じていなかった。
「でも殺すのはダメ。もっといい方法があるんだ」
歩夢は女子学生に聞こえないよう、小声で夢花に耳打ちした。
またしても夢巫女からファンレターが届いたのだ。
「次は水族館のチケットがいいなー」
夢花はワクワクしながら封筒を開く。
入っていたのはファンレターと婚姻届だった。婚姻届は途中まで記入済みで、あとは歩夢の個人情報を書くだけだった。
「はァァ?! この女、お兄さんと結婚する気?! 付き合ってすらいないのに!」
怒りに任せ、婚姻届を破く。
一方の歩夢も、ファンレターに目を通して眉をしかめていた。
「どうも、前に来たファンレターで指定してあった日時と映画館に行かなかったから、僕が浮気したと思い込んでいるらしい。付き合ってすらいないのにね」
「だったら、さっさとお兄さんから手を引きなさいよ!」
「ところが、僕との子供を身籠もっているから別れたくないそうだ。もう親にも紹介してあるから、婚姻届を提出して結婚しろと言っている。結婚してくれないなら、このことを公表するそうだよ。困ったなぁ」
「お兄さん、もういいでしょ! この女、キツめに矯正しちゃおう!」
「……待った。まだ続きがある」
歩夢は手紙を最後まで読み、顔色が変わった。
「"ずっと黙ってたけど、実は私、歩夢先生の作品で登場する悪夢使いと同じ力を持っているんです。この力を使って、浮気相手を殺し、歩夢先生を迎えに行きます"」
「それも思い込みでしょ? 歩夢お兄さんの小説を読んで自分も能力者だと思い込む、典型的な厨二病。大人のくせに、幼稚くさっ」
夢花はなおも小馬鹿にした態度を取る。
歩夢は「そうとも限らないかもね」と封筒の中を覗き込んだ。
「僕らが出来ることは限られている。現代の科学を用いれば、能力なんていらない」
手を受け皿に、封筒を振る。
すると中から指でつまめるほどの、黒きて小さなチップが出てきた。
「何これ、ゴミ?」
「おそらくGPSつきの発信機だよ。僕の家を特定するために仕掛けられていたらしい」
その時、インターホンが鳴った。
カメラを確認すると、見知らぬ女子学生が家の前に立っていた。制服を着た内気そうな女子で、肩掛けの大きな旅行鞄とキャリーバックを持っていた。
「私と歳、変わらないじゃん! やっぱ、あの写真は偽物だったのね!」
「夢花ちゃん、動かないで」
歩夢は玄関へ向かおうとする夢花を制し、カメラで女子学生の様子を観察する。
女子学生はしびれを切らしたのか、玄関のドアを激しくノックし始めた。
「歩夢せんせぇ。いらっしゃるのは分かってるんですよぉ。早く中に入れてくださぁい。ちょっと顔を見せて下さるだけでいいですからぁ」
猫なで声で歩夢を呼ぶ。開けたら最後、死ぬまで永住するだろう。否、死んでも悪霊となって歩夢に付き纏い続けるかもしれない。
仮に悪夢で矯正したとしても、家の場所を知られたままでは安全とは言えなかった。
「どうする? お兄さん」
「夢花ちゃんはどうしたい?」
夢花は即答した。
「今すぐ殺してやりたい」
「だよね」
それを聞いて、歩夢はクスクスと笑う。この状況に対し、全く動じていなかった。
「でも殺すのはダメ。もっといい方法があるんだ」
歩夢は女子学生に聞こえないよう、小声で夢花に耳打ちした。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集
ねぎ(ポン酢)
ホラー
短編で書いたものの中で、怪談・不思議・ホラー系のものをまとめました。基本的にはゾッとする様なホラーではなく、不思議系の話です。(たまに増えます)※怖いかなと思うものには「※」をつけてあります
(『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~
潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
ホラー
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞
第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる