悪夢症候群

緋色刹那

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悪夢曇天色 第二話『足蹴舞踏会』

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「あっ」
 次の瞬間、野々原は床にこぼれていたジュースか何かに足を滑らせた。
 支えてくれる相手はおらず、そのまま転倒する。
「……」
 途端に、音楽が止んだ。
 客達の動きも止まる。
「痛た……」
 野々原は起き上がろうとして、誰かに頭を踏みつけられた。
「痛いっ!」
 視界の端に、こちらへ一斉に走ってくる客達の姿が見える。
 客達は野々原へ駆け寄ると、次々に彼女の体を踏みつけ出した。
「痛い痛い痛い! やめて! やめて下さい!」
 野々原の懇願も虚しく、客達は失態を犯した異端者を踏みつける。頭を、髪を、手を、指先を、腕を、体を、脚を、つま先を、体の隅々まで、容赦なく……。
 踏みつけられた皮膚はあざになり、裂けて血が滲む。骨は砕け、動かそうとすると激痛が走った。
「次はちゃんと踊るから! 滑ったりなんかしないから! だから……私にも踊らせてよ! せっかくここにいるのに、仲間外れにしないで!」
 野々原の中で、舞踏会のホールと学校の教室が重なる。夢でも現実でも野々原は無視され、出過ぎたことをすれば足蹴にされていた。
 客達はささやかな野々原の主張を無視し、なおも踏みつけ続ける。その中には野々原を無視したクラスメイトの女子達もいた。
 満面の笑みで野々原を見下ろし、日頃の憂さ晴らしとばかりに、人一倍力強く踏みつける。彼女達が履いているヒールは針のごとく鋭く、野々原の体を貫いた。
「どうしてそこまで私を嫌うの……? 私は何も悪いことなんてしてないのに……」
 体は動かず、逃げる隙もない。いくら主張しても、野々原のか細い声は彼らの足音によってかき消される。遂には喉を踏み潰され、声すら出せなくなった。
 やがて野々原は抵抗を諦め、静かに涙を流しつつ、いつ終わるとも分からぬ地獄を耐え続けた。

 その様子を、仮面を取った夢花と歩夢が遠巻きに眺めていた。
「助けないのかい? 彼女は君のクラスメイトなんだろう?」
「助けるよ。あの子の気が済んだら、ね」
 夢花は黒山の人だかりの渦中にいるであろう野々原に憐れみの眼差しを向け、呆れた様子で深く息を吐いた。
「馬鹿な子。間違ったの使い方をするから、傷つくのに」

悪夢曇天色 第二話『足蹴舞踏会』終わり
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