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クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』
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「駄目だ、夢花ちゃんッ!」
夢花が悪夢の中で操江を殺す寸前、現実の夜宵家のリビングに歩夢が駆け込み、夢花を抱きしめた。
「ふぇッ?! お、お兄さん?!」
夢花は頬を赤らめ、硬直する。抱きしめられたことにより、夢花の操江に対する殺意が一瞬、消えた。
と同時に、操江に襲いかかろうとしていた鏡の破片達がピタリと動きを止め、消えた。悪夢は徐々にボヤけていき、やがて操江は目を覚ました。
悪夢から脱したとは言え、洗脳が解けた訳ではなく、
「私は犯罪者……私は犯罪者……」
と操江は床に倒れたまま、一人で呟き続けていた。
歩夢は夢花に操江の姿を見せないよう、抱きしめたまま説得した。
「……ここであの女を殺したって、意味はないよ。シキミさんの死の真実は明らかにならないし、世間の連中があいつの悪行を知ることもない。夢花ちゃんはそれで本当にいいの?」
「……」
「僕は嫌だな。悪夢の中で一思いに殺すより、現実に戻して、死ぬまで苦しませたい。こいつが今まで騙し、嘲笑ってきた人数以上の人間達に、こいつを騙し、嘲笑って欲しい。そして、夢花ちゃんを騙し、シキミさんを殺したことを、死ぬまで後悔して欲しい。その方が胸がスッとすると思わない?」
「……そんなに長い時間、待てないよ。今すぐこいつを殺させて。じゃないと私、お兄さんを悪夢で殺すよ」
「いいよ。出来るものならね」
歩夢は幼い子供をあやすように、夢花の頭を優しく撫でた。既に、夢花が本気で自分を殺すつもりはないと察していた。
夢花はそれが悔しくて、歩夢を悪夢へ落とそうと頑張った。
殺す必要はない。歩夢が遊園地で夢花に見せた悪夢のように、ほんの少し殺意を抱き、操江を殺す時間を稼げれば良かった。
しかし歩夢の手が頭に触れるたびに殺意は削がれ、代わりにずっと耐えていたシキミを失った悲しみが込み上げてきた。
「う、うぁぁぁ……ッ!」
夢花は警察が来るまでの間中、歩夢に抱きつき、泣きじゃくった。
本来、夢花を説得すべき立場にある優一はシキミを失ったショックで放心し、呆然と座り込んでいた。その様子を歩夢は横目で一瞥し、ニヤリと笑った。
その後、操江は警察へ連行され、間もなく逮捕された。
操江は取り調べ中も、
「私は犯罪者……私は犯罪者……」
とボーッとしながら呟いていた。
しかしひとたび鏡や窓に反射した自分の顔を見ると正気に戻り、堰を切ったように捲し立てた。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 私がやりました! 私があの女を殺しました! "お前はてるてる坊主だから、首を吊らなきゃいけない"って命じて、てるてる坊主になる悪夢を見せて、殺したの! だってあの女、優一さんを横取りしたんだもの! 私が先に目をつけていたのに! 会社で一番優一さんに尽くしていたのは、私だったのに! でも一番邪魔だったのは、あの小娘! 優一さんのお気に入りだし、優一さんとシキミを繋ぐ唯一の接点だったから、殺せなかった! おかげで私はこのザマよ! 世間からは"今世紀最悪の悪女"と罵られるし、莫大な慰謝料や裁判費用を払わないといけないし、食事は不味いし、服はダサいし、寒いし、暗いし、何もかも最悪! これであと何十年も生きろって言うの?! 満足に外へ出ることも出来ないまま?! 脱走しようにも、何故か"力"は消えてるし! もういっそ、殺して頂戴よ! みんな私が憎いなら、死刑にすればいいじゃない!」
操江は悲鳴に似た叫び声を上げ、泣き喚く。
収まった頃には、元の無気力な彼女に戻り、「私は犯罪者……私は犯罪者……」と呟いていた。
幸い、警察は操江が言う「悪夢を見せる力」が存在しているとは信じず、「単なる妄想だ」として処理した。
クローズドアパート第五話「閉鎖悪夢〈人形館〉」終わり
夢花が悪夢の中で操江を殺す寸前、現実の夜宵家のリビングに歩夢が駆け込み、夢花を抱きしめた。
「ふぇッ?! お、お兄さん?!」
夢花は頬を赤らめ、硬直する。抱きしめられたことにより、夢花の操江に対する殺意が一瞬、消えた。
と同時に、操江に襲いかかろうとしていた鏡の破片達がピタリと動きを止め、消えた。悪夢は徐々にボヤけていき、やがて操江は目を覚ました。
悪夢から脱したとは言え、洗脳が解けた訳ではなく、
「私は犯罪者……私は犯罪者……」
と操江は床に倒れたまま、一人で呟き続けていた。
歩夢は夢花に操江の姿を見せないよう、抱きしめたまま説得した。
「……ここであの女を殺したって、意味はないよ。シキミさんの死の真実は明らかにならないし、世間の連中があいつの悪行を知ることもない。夢花ちゃんはそれで本当にいいの?」
「……」
「僕は嫌だな。悪夢の中で一思いに殺すより、現実に戻して、死ぬまで苦しませたい。こいつが今まで騙し、嘲笑ってきた人数以上の人間達に、こいつを騙し、嘲笑って欲しい。そして、夢花ちゃんを騙し、シキミさんを殺したことを、死ぬまで後悔して欲しい。その方が胸がスッとすると思わない?」
「……そんなに長い時間、待てないよ。今すぐこいつを殺させて。じゃないと私、お兄さんを悪夢で殺すよ」
「いいよ。出来るものならね」
歩夢は幼い子供をあやすように、夢花の頭を優しく撫でた。既に、夢花が本気で自分を殺すつもりはないと察していた。
夢花はそれが悔しくて、歩夢を悪夢へ落とそうと頑張った。
殺す必要はない。歩夢が遊園地で夢花に見せた悪夢のように、ほんの少し殺意を抱き、操江を殺す時間を稼げれば良かった。
しかし歩夢の手が頭に触れるたびに殺意は削がれ、代わりにずっと耐えていたシキミを失った悲しみが込み上げてきた。
「う、うぁぁぁ……ッ!」
夢花は警察が来るまでの間中、歩夢に抱きつき、泣きじゃくった。
本来、夢花を説得すべき立場にある優一はシキミを失ったショックで放心し、呆然と座り込んでいた。その様子を歩夢は横目で一瞥し、ニヤリと笑った。
その後、操江は警察へ連行され、間もなく逮捕された。
操江は取り調べ中も、
「私は犯罪者……私は犯罪者……」
とボーッとしながら呟いていた。
しかしひとたび鏡や窓に反射した自分の顔を見ると正気に戻り、堰を切ったように捲し立てた。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 私がやりました! 私があの女を殺しました! "お前はてるてる坊主だから、首を吊らなきゃいけない"って命じて、てるてる坊主になる悪夢を見せて、殺したの! だってあの女、優一さんを横取りしたんだもの! 私が先に目をつけていたのに! 会社で一番優一さんに尽くしていたのは、私だったのに! でも一番邪魔だったのは、あの小娘! 優一さんのお気に入りだし、優一さんとシキミを繋ぐ唯一の接点だったから、殺せなかった! おかげで私はこのザマよ! 世間からは"今世紀最悪の悪女"と罵られるし、莫大な慰謝料や裁判費用を払わないといけないし、食事は不味いし、服はダサいし、寒いし、暗いし、何もかも最悪! これであと何十年も生きろって言うの?! 満足に外へ出ることも出来ないまま?! 脱走しようにも、何故か"力"は消えてるし! もういっそ、殺して頂戴よ! みんな私が憎いなら、死刑にすればいいじゃない!」
操江は悲鳴に似た叫び声を上げ、泣き喚く。
収まった頃には、元の無気力な彼女に戻り、「私は犯罪者……私は犯罪者……」と呟いていた。
幸い、警察は操江が言う「悪夢を見せる力」が存在しているとは信じず、「単なる妄想だ」として処理した。
クローズドアパート第五話「閉鎖悪夢〈人形館〉」終わり
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