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クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』
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遊園地から帰った後、夢花はシキミが夕飯を作るので手が離せないのを見計らい、「散歩してくる」と家を出た。歩夢の言葉を完全に信じたわけではないが、シキミが以前住んでいた家がどうなっているのかだけでも確認しておきたかった。
シキミが以前住んでいた夢見荘の向かいにある家は、シキミが夜宵家と同居する際に売り払ったことになっている。その記憶通り、シキミの家の庭は荒れ、部屋のカーテンは何処も閉めきられていた。
が、何故か家の前に「売物件」の看板は出ていなかった。既に買い手がついたというわけでもなく、表札はシキミの旧姓のままだった。
「……」
夢花は言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながらも、以前シキミの鍵をくすねて作った合鍵を使い、家の中へ入っていった。
家の中は埃っぽかった。指で床をなぞると、痕がついた。
「シキミさん、いる……?」
夢花は靴下の裏にホコリがつかないようスリッパを履き、ゆっくりと家の中へ進みながら小声で呼びかける。
応答はない。誰も住んでいないのは本当らしく、妙に静まり返っていた。
やがて一番玄関に近い、居間へと続くドアの前まで来た。
この部屋は、シキミの実の娘と義理の母親が死んだ部屋だ。夢花は幽霊の類を信じてはいないが、「何かいたらどうしよう」と不安でドアを開くのをためらった。
外はじきに日が暮れる。夜になれば、夢花に怖いものは何もない。
「……大丈夫。何かいても、アパートに逃げ込めばいい」
夢花は意を決し、ドアを開いた。
最初、夢花は本当に幽霊が出たのだと思った。居間の中央に、宙に浮かぶ白い人影がいたのだ。
しかしよく見るとそれは、頭から白いシーツを被り、シーツの上から首に縄を巻いて、天井の照明で首を吊っている人間だった。ちゃんと足もある。
問題は……その足が履いていたスリッパが、シキミの物であったことだった。
「ッ……!」
夢花はスリッパに気づき、目を見開いた。悲鳴を上げぬよう、両手で口を塞ぎ、立ち尽くす。
顔が見えないのだから、シキミではないのかもしれない。そう思おうとしたが、体は動いてはくれなかった。
なんとかスカートのポケットからスマホを取り出すと、警察へ電話をかけた。
「あの……人の死体を見つけたんですけど……」
声を震わせながらも、なんとか状況を伝える。自宅に別のシキミがいることや、シキミの家が売却されていると思っていたことなど、常人には理解してもらえないようなことは、全て伏せた。
通話を終えた頃には夢花の動揺は鎮まり、シキミを殺した誰かへの怒りと憎悪で煮えたぎっていた。今すぐにでも殺したかったが、「真実を聞き出すのが先だ」と自分に言い聞かせ、どうにか抑えた。
「……死体がシキミさんかどうか確認するのが先よ。もしかしたら、空き家なのをいいことに自殺しに来た赤の他人かもしれないし」
夢花はなんとか否定しようとしたが、死体を見れば見るほどシルエットがシキミに似ているような気がしてならなかった。
シキミが以前住んでいた夢見荘の向かいにある家は、シキミが夜宵家と同居する際に売り払ったことになっている。その記憶通り、シキミの家の庭は荒れ、部屋のカーテンは何処も閉めきられていた。
が、何故か家の前に「売物件」の看板は出ていなかった。既に買い手がついたというわけでもなく、表札はシキミの旧姓のままだった。
「……」
夢花は言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながらも、以前シキミの鍵をくすねて作った合鍵を使い、家の中へ入っていった。
家の中は埃っぽかった。指で床をなぞると、痕がついた。
「シキミさん、いる……?」
夢花は靴下の裏にホコリがつかないようスリッパを履き、ゆっくりと家の中へ進みながら小声で呼びかける。
応答はない。誰も住んでいないのは本当らしく、妙に静まり返っていた。
やがて一番玄関に近い、居間へと続くドアの前まで来た。
この部屋は、シキミの実の娘と義理の母親が死んだ部屋だ。夢花は幽霊の類を信じてはいないが、「何かいたらどうしよう」と不安でドアを開くのをためらった。
外はじきに日が暮れる。夜になれば、夢花に怖いものは何もない。
「……大丈夫。何かいても、アパートに逃げ込めばいい」
夢花は意を決し、ドアを開いた。
最初、夢花は本当に幽霊が出たのだと思った。居間の中央に、宙に浮かぶ白い人影がいたのだ。
しかしよく見るとそれは、頭から白いシーツを被り、シーツの上から首に縄を巻いて、天井の照明で首を吊っている人間だった。ちゃんと足もある。
問題は……その足が履いていたスリッパが、シキミの物であったことだった。
「ッ……!」
夢花はスリッパに気づき、目を見開いた。悲鳴を上げぬよう、両手で口を塞ぎ、立ち尽くす。
顔が見えないのだから、シキミではないのかもしれない。そう思おうとしたが、体は動いてはくれなかった。
なんとかスカートのポケットからスマホを取り出すと、警察へ電話をかけた。
「あの……人の死体を見つけたんですけど……」
声を震わせながらも、なんとか状況を伝える。自宅に別のシキミがいることや、シキミの家が売却されていると思っていたことなど、常人には理解してもらえないようなことは、全て伏せた。
通話を終えた頃には夢花の動揺は鎮まり、シキミを殺した誰かへの怒りと憎悪で煮えたぎっていた。今すぐにでも殺したかったが、「真実を聞き出すのが先だ」と自分に言い聞かせ、どうにか抑えた。
「……死体がシキミさんかどうか確認するのが先よ。もしかしたら、空き家なのをいいことに自殺しに来た赤の他人かもしれないし」
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