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クローズドアパート 第三話『悲劇のプリンセス』
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「花城さん、大丈夫ですか?」
「え?」
花城は同僚の優一に話しかけられ、ハッと正気を取り戻した。無意識のうちにパソコンをぼーっと眺めていたらしい。
視線を上げると、優一が心配そうに花城の顔を覗き込んでいた。
「顔色が優れないようですけど……目の下も赤く腫れてるし。何かあったんですか?」
「……ただの寝不足です。子供がなかなか寝付いてくれないので。夫が少しでも見てくれると助かるんですけど、"仕事が忙しい"と聞いてもらえなくて……まぁ、忙しいのはお互い様なので、文句は言えないんですけどね」
花城は皮肉めいた笑みを浮かべて、言う。夫の言う"仕事"が、自分と同じ仕事でないことを、花城は知っていた。
(こんなこと、男性の夜宵さんに言っても理解してもらえないんでしょうね。どうせ、夫のように「甘えてる」「やって当たり前」って蔑まれるんだわ)
すると優一は思いがけない提案をしてきた。
「でしたら、少し仮眠を取ってはいかがですか? ちょうど手が空いてたし、花城さんが担当されてる分は僕がやっておきますよ」
「い、いいんですか?」
花城は面を食らった様子で驚く。
冗談かと思ったが、優一は「もちろんです!」と人の良さそうな笑顔で頷いた。
「任せて下さい! こう見えて、仕事は早いので!」
「じゃ、じゃあお願いしようかしら……」
花城は仕事を優一に任せ、仮眠室で仮眠を取った。
目が覚めたのは夕方頃だった。慌ててオフィスに戻り、熟睡してしまったことを優一に謝った。
しかし優一は花城を責めるどころか、ニッコリ笑って言った。
「よく眠れましたか? 今日あった仕事は全部片付けましたよ。お疲れ様です」
その後、優一は上司に掛け合い、花城の負担を減らせるよう努めた。
また、花城の夫が優一の大学の後輩だと分かると、
「嫁さんは大事にしなきゃダメだぞ」
と、直接叱責しに行った。
花城の夫は花城が優一を連れて来たこと疎ましく思っていたが、「協力出来ないなら、お前の会社の上司に言いつける」と優一に脅されていたため、渋々花城を手伝うようになった。おかげで、花城の負担はわずかなりとも減り、十分な睡眠も取れるようになった。
花城はこの一件をキッカケに、優一に対して多大な感謝を抱くと同時に、強い好意を抱くようになっていた。
(優一さんは、私にとっての王子様で、魔法使いだったんだわ! こんな運命的な出会い、他にあって?!)
最早、夫のことは眼中になく、なんとしてでも優一の"妃"になろうと画策していた。
「え?」
花城は同僚の優一に話しかけられ、ハッと正気を取り戻した。無意識のうちにパソコンをぼーっと眺めていたらしい。
視線を上げると、優一が心配そうに花城の顔を覗き込んでいた。
「顔色が優れないようですけど……目の下も赤く腫れてるし。何かあったんですか?」
「……ただの寝不足です。子供がなかなか寝付いてくれないので。夫が少しでも見てくれると助かるんですけど、"仕事が忙しい"と聞いてもらえなくて……まぁ、忙しいのはお互い様なので、文句は言えないんですけどね」
花城は皮肉めいた笑みを浮かべて、言う。夫の言う"仕事"が、自分と同じ仕事でないことを、花城は知っていた。
(こんなこと、男性の夜宵さんに言っても理解してもらえないんでしょうね。どうせ、夫のように「甘えてる」「やって当たり前」って蔑まれるんだわ)
すると優一は思いがけない提案をしてきた。
「でしたら、少し仮眠を取ってはいかがですか? ちょうど手が空いてたし、花城さんが担当されてる分は僕がやっておきますよ」
「い、いいんですか?」
花城は面を食らった様子で驚く。
冗談かと思ったが、優一は「もちろんです!」と人の良さそうな笑顔で頷いた。
「任せて下さい! こう見えて、仕事は早いので!」
「じゃ、じゃあお願いしようかしら……」
花城は仕事を優一に任せ、仮眠室で仮眠を取った。
目が覚めたのは夕方頃だった。慌ててオフィスに戻り、熟睡してしまったことを優一に謝った。
しかし優一は花城を責めるどころか、ニッコリ笑って言った。
「よく眠れましたか? 今日あった仕事は全部片付けましたよ。お疲れ様です」
その後、優一は上司に掛け合い、花城の負担を減らせるよう努めた。
また、花城の夫が優一の大学の後輩だと分かると、
「嫁さんは大事にしなきゃダメだぞ」
と、直接叱責しに行った。
花城の夫は花城が優一を連れて来たこと疎ましく思っていたが、「協力出来ないなら、お前の会社の上司に言いつける」と優一に脅されていたため、渋々花城を手伝うようになった。おかげで、花城の負担はわずかなりとも減り、十分な睡眠も取れるようになった。
花城はこの一件をキッカケに、優一に対して多大な感謝を抱くと同時に、強い好意を抱くようになっていた。
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