悪夢症候群

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
100 / 227
クローズドアパート 第三話『悲劇のプリンセス』

しおりを挟む
「花城さん、大丈夫ですか?」
「え?」
 花城は同僚の優一に話しかけられ、ハッと正気を取り戻した。無意識のうちにパソコンをぼーっと眺めていたらしい。
 視線を上げると、優一が心配そうに花城の顔を覗き込んでいた。
「顔色が優れないようですけど……目の下も赤く腫れてるし。何かあったんですか?」
「……ただの寝不足です。子供がなかなか寝付いてくれないので。夫が少しでも見てくれると助かるんですけど、"仕事が忙しい"と聞いてもらえなくて……まぁ、忙しいのはお互い様なので、文句は言えないんですけどね」
 花城は皮肉めいた笑みを浮かべて、言う。夫の言う"仕事"が、自分と同じ仕事でないことを、花城は知っていた。
(こんなこと、男性の夜宵さんに言っても理解してもらえないんでしょうね。どうせ、夫のように「甘えてる」「やって当たり前」って蔑まれるんだわ)
 すると優一は思いがけない提案をしてきた。
「でしたら、少し仮眠を取ってはいかがですか? ちょうど手が空いてたし、花城さんが担当されてる分は僕がやっておきますよ」
「い、いいんですか?」
 花城は面を食らった様子で驚く。
 冗談かと思ったが、優一は「もちろんです!」と人の良さそうな笑顔で頷いた。
「任せて下さい! こう見えて、仕事は早いので!」
「じゃ、じゃあお願いしようかしら……」

 花城は仕事を優一に任せ、仮眠室で仮眠を取った。
 目が覚めたのは夕方頃だった。慌ててオフィスに戻り、熟睡してしまったことを優一に謝った。
 しかし優一は花城を責めるどころか、ニッコリ笑って言った。
「よく眠れましたか? 今日あった仕事は全部片付けましたよ。お疲れ様です」
 その後、優一は上司に掛け合い、花城の負担を減らせるよう努めた。
 また、花城の夫が優一の大学の後輩だと分かると、
「嫁さんは大事にしなきゃダメだぞ」
 と、直接叱責しに行った。
 花城の夫は花城が優一を連れて来たこと疎ましく思っていたが、「協力出来ないなら、お前の会社の上司に言いつける」と優一に脅されていたため、渋々花城を手伝うようになった。おかげで、花城の負担はわずかなりとも減り、十分な睡眠も取れるようになった。

 花城はこの一件をキッカケに、優一に対して多大な感謝を抱くと同時に、強い好意を抱くようになっていた。
(優一さんは、私にとっての王子様で、魔法使いだったんだわ! こんな運命的な出会い、他にあって?!)
 最早、夫のことは眼中になく、なんとしてでも優一の"妃"になろうと画策していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

繭玉

玉響なつめ
ホラー
とあるジムのロッカールームで出た噂話。 それを耳にした麻友は、その店名に聞き覚えがあった。 たまたま持っていたその店のカードに記載されている電話番号に、縋るように電話した麻友。 人が変わったように美しくなると言うリラクゼーションサロン『コクーン』の話。 ※カクヨム・小説家になろうにも載せています

感染

saijya
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

怪談実話 その3

紫苑
ホラー
ほんとにあった怖い話…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

傍若無人な皇太子は、その言動で周りを振り回してきた

歩芽川ゆい
ホラー
 頭は良いが、性格が破綻している王子、ブルスカメンテ。  その権力も用いて自分の思い通りにならないことなどこの世にはない、と思っているが、婚約者候補の一人、フェロチータ公爵令嬢アフリットだけは面会に来いと命令しても、病弱を理由に一度も来ない。  とうとうしびれをきらしたブルスカメンテは、フェロチータ公爵家に乗り込んでいった。  架空の国のお話です。  ホラーです。  子供に対しての残酷な描写も出てきます。人も死にます。苦手な方は避けてくださいませ。

廃墟の小学校

怪奇 ひろし
ホラー
ホラーショート小説  「廃墟の学校」

処理中です...