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クローズドアパート 第三話『悲劇のプリンセス』
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こんなはずではなかった、と花城は家の中を見回し、深くため息をついた。
落書きだらけの壁と床、部屋中に乱雑に置かれた大量の玩具、食べこぼしやヨダレ、その他もろもろが染みついたソファ、大声で泣きじゃくる赤ん坊……花城が夢見ていた結婚生活とは、まるで異なっていた。「共働きなんだから、家事は分担しようね」と夫と交わした約束は一日も経たず破られ、無かったことにされた。これでは、小汚い実家と変わらないではないか。
「あぁ……私って、なんて可哀想なんでしょう。まさに悲劇のヒロインだわ」
花城は惨めな自分を憐れみ、さめざめと泣いた。まるで被害者のような言い草だったが、金目当てに無理矢理結婚にこじつけたのは、他ならぬ花城自身であった。
花城は自分に都合の悪いことはコロっと忘れ、夫と子供を悪者のように思っていた。
「私がシンデレラなら、あの人とこの子はさしずめ、意地悪な継母とその連れ子なんでしょうね。私を救ってくれる魔法使いも王子様もいないけれど」
花城は窓から月を見上げ、祈った。
「神様……こんな惨めな私を少しでも憐れんで下さるのなら、どうか私を救ってくれる魔法使いか王子様と出会わせて下さい」
「ぎゃぁぁ、ぎゃぁぁ」
場の空気を壊さんと、背後で赤ん坊が泣きじゃくる。
花城は苛立ちを露わに、赤ん坊を睨んだ。
「あぁもう、うるさいって言ってるでしょ! 私の子供なら、もっと上品に可愛らしく泣きなさいよ! あんたがそんなだから、私だって子育てにやる気が出ないんじゃない! 全部、あんたが悪いんだからね!」
部屋に花城の怒声が響く。赤ん坊は花城の声に驚き、さらに勢いを増して泣きじゃくった。
落書きだらけの壁と床、部屋中に乱雑に置かれた大量の玩具、食べこぼしやヨダレ、その他もろもろが染みついたソファ、大声で泣きじゃくる赤ん坊……花城が夢見ていた結婚生活とは、まるで異なっていた。「共働きなんだから、家事は分担しようね」と夫と交わした約束は一日も経たず破られ、無かったことにされた。これでは、小汚い実家と変わらないではないか。
「あぁ……私って、なんて可哀想なんでしょう。まさに悲劇のヒロインだわ」
花城は惨めな自分を憐れみ、さめざめと泣いた。まるで被害者のような言い草だったが、金目当てに無理矢理結婚にこじつけたのは、他ならぬ花城自身であった。
花城は自分に都合の悪いことはコロっと忘れ、夫と子供を悪者のように思っていた。
「私がシンデレラなら、あの人とこの子はさしずめ、意地悪な継母とその連れ子なんでしょうね。私を救ってくれる魔法使いも王子様もいないけれど」
花城は窓から月を見上げ、祈った。
「神様……こんな惨めな私を少しでも憐れんで下さるのなら、どうか私を救ってくれる魔法使いか王子様と出会わせて下さい」
「ぎゃぁぁ、ぎゃぁぁ」
場の空気を壊さんと、背後で赤ん坊が泣きじゃくる。
花城は苛立ちを露わに、赤ん坊を睨んだ。
「あぁもう、うるさいって言ってるでしょ! 私の子供なら、もっと上品に可愛らしく泣きなさいよ! あんたがそんなだから、私だって子育てにやる気が出ないんじゃない! 全部、あんたが悪いんだからね!」
部屋に花城の怒声が響く。赤ん坊は花城の声に驚き、さらに勢いを増して泣きじゃくった。
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