97 / 227
クローズドアパート 第二話『画家に一目惚れ』
4
しおりを挟む
幸い、横道は一本道で、二人を乗せた車がアパートの駐車場へ入っていくのが遠目に見えた。
絵里架がアパートにたどり着くと同時に男性は少女と共にアパートへと帰って行った。エントランスの自動ドアは鍵が閉まっており、住人でなければ中へ入れなかった。
「いきなり家に来たら、怪しまれちゃうかな。でも、これが最後のチャンスかもしれないし……」
絵里架は意を決し、当てずっぽうで403号室のインターホンを押した。
すると「はい」と少女の声が聞こえた。
「どちら様ですか?」
「突然すみません。こちらは夜宵夢花さんのお宅でしょうか? 私、○○画廊の高田絵里架と申します。実は今日、夢見美術館で貴方の作品を拝見しまして……是非、お話をと思いまして」
絵里架は画廊で培った営業トークを駆使し、男性を呼び出そうとした。
少女は暫し考え、「分かりました」と承諾した。
「今からそちらへ向かいますので、お待ちになっていて下さい」
「は、はい! ありがとうございます!」
絵里架は緊張した面持ちで、インターホンのカメラに向かって何度も頭を下げた。彼の娘が理解ある人で、本当に良かった。
スピーカーからは母親らしき女の声は聞こえてこなかったので、今は不在なのかもしれない。
(まぁ……その方が色々と都合は良いけど)
絵里架は男性との再会を今か今かと待ち侘びた。
それから、十分後。
完全に日が暮れ、辺りが薄暗くなった頃に、娘は一人でエントランスへ下り、絵里架の前に姿を現した。
絵里架を警戒しているのか、アパートから出て来て早々、頭の先から足の先までじっくりと観察してきた。絵里架は怪しまれないよう、ニッコリ微笑んでみたが、娘は訝しげに顔をしかめたままだった。
「で? おばさん、本当は何の用?」
「本当は、って?」
(ちょっと! 私、まだ三十代なんですけど!)
おばさん呼ばわりされ、内心カチンと来つつも、絵里架は笑顔を崩さず尋ねた。
「とぼけないでよ。本当は私じゃなくて、私のお父さんに興味があるんでしょ? 私、美術館で見てたんだからね。アンタが私のお父さんに色目使ってるとこ。家までついてくるなんて、完全にストーカーじゃん」
「ち、違うわ! たまたま貴方達が乗っている車を見かけただけよ! 私は本当にただ、あの絵の感想が伝えたかっただけなのよ!」
「……じゃあ、試してみる?」
そう言うと娘は、絵里架を殺意のこもった眼差しで睨みつけた。
絵里架がアパートにたどり着くと同時に男性は少女と共にアパートへと帰って行った。エントランスの自動ドアは鍵が閉まっており、住人でなければ中へ入れなかった。
「いきなり家に来たら、怪しまれちゃうかな。でも、これが最後のチャンスかもしれないし……」
絵里架は意を決し、当てずっぽうで403号室のインターホンを押した。
すると「はい」と少女の声が聞こえた。
「どちら様ですか?」
「突然すみません。こちらは夜宵夢花さんのお宅でしょうか? 私、○○画廊の高田絵里架と申します。実は今日、夢見美術館で貴方の作品を拝見しまして……是非、お話をと思いまして」
絵里架は画廊で培った営業トークを駆使し、男性を呼び出そうとした。
少女は暫し考え、「分かりました」と承諾した。
「今からそちらへ向かいますので、お待ちになっていて下さい」
「は、はい! ありがとうございます!」
絵里架は緊張した面持ちで、インターホンのカメラに向かって何度も頭を下げた。彼の娘が理解ある人で、本当に良かった。
スピーカーからは母親らしき女の声は聞こえてこなかったので、今は不在なのかもしれない。
(まぁ……その方が色々と都合は良いけど)
絵里架は男性との再会を今か今かと待ち侘びた。
それから、十分後。
完全に日が暮れ、辺りが薄暗くなった頃に、娘は一人でエントランスへ下り、絵里架の前に姿を現した。
絵里架を警戒しているのか、アパートから出て来て早々、頭の先から足の先までじっくりと観察してきた。絵里架は怪しまれないよう、ニッコリ微笑んでみたが、娘は訝しげに顔をしかめたままだった。
「で? おばさん、本当は何の用?」
「本当は、って?」
(ちょっと! 私、まだ三十代なんですけど!)
おばさん呼ばわりされ、内心カチンと来つつも、絵里架は笑顔を崩さず尋ねた。
「とぼけないでよ。本当は私じゃなくて、私のお父さんに興味があるんでしょ? 私、美術館で見てたんだからね。アンタが私のお父さんに色目使ってるとこ。家までついてくるなんて、完全にストーカーじゃん」
「ち、違うわ! たまたま貴方達が乗っている車を見かけただけよ! 私は本当にただ、あの絵の感想が伝えたかっただけなのよ!」
「……じゃあ、試してみる?」
そう言うと娘は、絵里架を殺意のこもった眼差しで睨みつけた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
近辺オカルト調査隊
麻耶麻弥
ホラー
ある夏の夜、幼なじみの健人、彩、凛は
ちょっとした肝試しのつもりで近辺で噂の幽霊屋敷に向かった。
そこでは、冒涜的、超自然的な生物が徘徊していた。
3人の運命は_______________
>この作品はクトゥルフ神話TRPGのシナリオを元に作ったものです。
この作品を見てクトゥルフ神話TRPGに興味を持った人はルールブックを買って友達と遊んでみてください。(布教)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる