悪夢症候群

緋色刹那

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クローズドアパート 第二話『画家に一目惚れ』

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(なんて美しい父性愛……! この絵を描いた人の強い想いが、ひしひしと伝わってくるわ! きっと、娘さん思いのお父さんが描いたのね!)
 あまりの美しさに、絵里架は感激する。人目がなければ、滂沱の涙を流していたところだった。
(それにしてもこの男の人、絵のお父さんにそっくりだわ。もしかしたら、この人が描いたのかも)
 絵里架は隣りで「私の家族」を観ている男性に目をやる。その穏やかな笑みは、絵の中の父親と瓜二つだった。
(まさに、私が絵から感じ取った通りの人だわ……! この感動を是非、本人に伝えないと!)
「あ、あの!」
 絵里架は絵の感想を伝えるべく、男性に声をかけた。
 しかし男性は遠くから中学生くらいの少女に手招きされ、絵里架に気づくことなく、そちらへ去っていってしまった。
「あ……」
 大声で呼び止めることも出来ず、絵里架は立ち尽くす。
 男性を呼んだ中学生くらいの少女は、「私の家族」に描かれている少女とよく似ていた。

 美術館からの帰り道、絵里架の頭の中は例の男性でいっぱいだった。
 どうしても絵の感想を伝えたい、お近づきになって、どんな人なのかもっと知りたい……様々な想いが頭の中を駆け回り、胸が苦しくなった。
 とは言え、何処の誰かも分からない相手を探すのは至難の業だ。絵の下に飾られていたプレートから「夜宵夢花」という画号の人物だとは分かったが、居場所を特定出来るような手がかりは何もなかった。
「……もう、二度と会えないかもしれないな」
 絵里架は落胆し、とぼとぼと日暮れた街を歩く。
 すると、通り過ぎて行った車に、例の男性と少女が乗っているのが見えた。
「嘘っ?!」
 驚く絵里架をよそに、車は速度を下げながら横道へと入っていく。
 絵里架は画廊で日々絵画を運搬する際に鍛えられた脚力で、車を追いかけた。
(次はもう、チャンスがないかもしれない! 今度こそ言うんだ! 「貴方の作品は素晴らしい。是非、私も書いて下さい」って!)
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