悪夢症候群

緋色刹那

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クローズドアパート 第二話『画家に一目惚れ』

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 そんな絵画をこよなく愛する絵里架には、絵を観ると「こんな人が描いたに違いない」と妄想してしまうという特殊な癖があった。絵画を観て受けた印象をそのまま作者と繋ぎ合わせ、実在の作者とは全く異なる人格を作り上げていった。
 時にはその妄想の画家に恋をしてしまい、熱烈な追っかけになってしまうこともあった。いずれの恋も実際に画家を見て、本性を知ると冷めた。
 自分の妄想通りの画家など、いない。絵里架はずっと、そう諦めていた……と出会うまでは。

 企画展を出た後、絵里架は一人で一般公募の展示ブースへ入った。友人ははなから企画展にしか興味がなかったので、館内の売店で待っていてもらった。
 一般公募のブースには、近隣の小中学校や一般人から寄せられた絵画が所狭しと展示されていた。毎年、決められたテーマに沿った絵画を募集し、展示しているのだ。
 子供の作品を観に来たのか、企画展とは違って子供の客が多く、賑わっていた。
 絵里架は精巧な絵や著名な絵を観るのも好きだったが、子供や素人が描いた邪念のない絵も好きだった。時には、画廊で取り扱っている絵画よりも価値があるのではないかと思うものもあり、興味深かった。
「今年のテーマは"家族"か。子供の絵は可愛らしいものが多くて、ほっこりするわね」
 絵里架は順路に従い、絵を観ていく。年齢で作品の良し悪しを判断して欲しくないという意図から、掲示されている順番は年齢別ではなく、バラバラに飾られていた。
 すると、ある一枚の絵の前で男性が立ち止まっていた。絵里架と同い年くらいの男性で、とても穏やかな顔で絵を鑑賞している。男性の容姿が整っているのもあって、まるでドラマのワンシーンを見ているかのように思えた。
 普段は人間に興味を惹かれない絵里架も、思わず男性の横顔に釘付けになった。
(すごく穏やかな顔……この人にそこまでさせるなんて、一体どんな絵なのかしら?)
 絵里架は男性の視線をたどり、その先に飾られていた絵を目にした瞬間、ハッと息を呑んだ。
 男性が観ていたのは「私の家族」と題された水彩画だった。赤ん坊や子供、制服姿の学生など、様々な年代の娘が、穏やかに微笑む父親の両腕によって無数のカラス達から守られている。父親の腕の上には白いウェディングドレスを着た娘が立ち、「もう大丈夫よ」と言わんばかりに父親を振り返り、穏やかに微笑みかけていた。
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