悪夢症候群

緋色刹那

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クローズドアパート 第二話『画家に一目惚れ』

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 絵里架えりかは美術館の展示室に並ぶ数々の絵を、うっとりとした眼差しで見つめていた。
「はぁぁ……なんて美しい絵なのかしら。きっとこの作品を描いた人も、絵の女性のように見目麗しい人なんだわ」
 他の客の邪魔にならないよう、小声で感嘆する。
 一方、絵里架の隣で一緒に絵を見ていた友人は、
「……いや、そうとは限らないでしょ。名前も男の人の名前だし、根暗そうなおっさんが描いてんじゃないの?」
 と、個人的な観点から絵里架の妄想を否定した。
 しかし絵里架は彼女の言うことには一切耳を傾けることなく、既に他の絵の前に移動していた。
「この作品は驚くほど色鮮やかね……今にも絵の中へ吸い込まれそう。きっとこの作品を描いた人は、豊かな心の持ち主なんだわ。私じゃ、この風景をこんな色鮮やかには描けないもの。一緒に過ごしたら、毎日楽しそうね」
「画家なんて、みんなそうなんじゃないの? 知らないけど」
「この絵、すっごく細かい……! 描いた人はものすごく神経質な人なんでしょうね。じゃないと、ここまで書き込もうとは思わないもの。一見、機械的な人に見えて、実は誰にも負けない絵画への情熱を宿しているんだわ」
「それは、一理ありそう。私とは合わないタイプだけど」
 そんな具合で、絵里架と友人は噛み合わない会話を続けながら、展示されている絵を見て回った。

 絵里架は絵が好きだった。
 かつては画家を志していたほどだったが、次第に「絵を描くより、見る方が好きだ」と気づき、画廊に就職した。毎日のように絵を見られるので、絵里架にとって天職だった。
 それだけでは飽き足らず、休日は方々の美術館を巡り、企画展をはじめとする多くの展示を鑑賞した。当然、既に何度も訪れている常設展の鑑賞も欠かさなかった。
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