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ミッドデイアパート 第四話『不屈の盗撮魔』
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やがて夢見荘が見えてきた。
頼みの綱の歩夢は既にアパートへ戻ったようで、ゴミ捨て場にはいなかった。
「お兄さん、助けてぇッ! こいつ、思ってたよりしぶとい!」
夢花は自室にいる歩夢に聞こえるよう、声を張り上げる。この際、助けてくれるなら歩夢じゃなくても良かった。
しかし無情にも助けは来ず、徐々に目崎は距離を詰めてくる。遂には、手を伸ばせば夢花に触れられるまでの距離に達した。
「つーかまえたー」
目崎もそれが分かっていたのか、鼻をひくつかせながら夢花の袖へ手を伸ばした。
が、目崎の指が夢花の袖口に触れる寸前、彼の腕は本来の可動域とは逆方向に折れ曲がった。そのまま力無く垂れ下がり、動かせなくなった。
「んあ?」
目崎は折れた腕を見下ろし、首を傾げる。目が見えない彼には自分の腕がどのような状態になっているのか確認出来ず、「急に動かなくなった」としか認識出来ていなかった。
続けて車椅子を動かしていた腕も折れ、使い物にならなくなった。目崎は車椅子を漕ぐことが出来なくなり、車椅子はやがて停車した。
「バンッ」
「うっ」
さらに、動きが止まった目崎の鼻が風船のように破裂し、消えた。
夢花が夢見荘の方を見ると、アパートの廊下の窓からこちらに手を振る歩夢が見えた。
「お兄さん!」
夢花は歩夢がエレベーターでエントランスへ降りてくると、彼に抱きついた。余程怖かったのか演技なのか、目には涙を浮かべていた。
歩夢にもその真偽は定かではなかったが、夢花を優しく抱きとめ、彼女の頭を撫でた。
「良かった、間に合って。ニュースであいつが警察病院から脱走したって知って、心配だったんだ」
「すっごく気持ち悪かった! あいつ、目も耳も機能してないのに追っかけてきたの! お兄さん、あいつの鼻を消してたけど……まさか、臭いで私を追ってきてたんじゃないよね?」
「いや……たぶん、そうだろうね。嗅覚を消したら追って来なくなったし」
「ひぃぃ、キモい! キモ過ぎる! 私、今日はもうアパートから一歩も出たくない!」
「じゃあ、一緒に部屋で映画でも観ようか」
歩夢はスマホで警察に通報しながら、エレベーターのボタンを押した。
頼みの綱の歩夢は既にアパートへ戻ったようで、ゴミ捨て場にはいなかった。
「お兄さん、助けてぇッ! こいつ、思ってたよりしぶとい!」
夢花は自室にいる歩夢に聞こえるよう、声を張り上げる。この際、助けてくれるなら歩夢じゃなくても良かった。
しかし無情にも助けは来ず、徐々に目崎は距離を詰めてくる。遂には、手を伸ばせば夢花に触れられるまでの距離に達した。
「つーかまえたー」
目崎もそれが分かっていたのか、鼻をひくつかせながら夢花の袖へ手を伸ばした。
が、目崎の指が夢花の袖口に触れる寸前、彼の腕は本来の可動域とは逆方向に折れ曲がった。そのまま力無く垂れ下がり、動かせなくなった。
「んあ?」
目崎は折れた腕を見下ろし、首を傾げる。目が見えない彼には自分の腕がどのような状態になっているのか確認出来ず、「急に動かなくなった」としか認識出来ていなかった。
続けて車椅子を動かしていた腕も折れ、使い物にならなくなった。目崎は車椅子を漕ぐことが出来なくなり、車椅子はやがて停車した。
「バンッ」
「うっ」
さらに、動きが止まった目崎の鼻が風船のように破裂し、消えた。
夢花が夢見荘の方を見ると、アパートの廊下の窓からこちらに手を振る歩夢が見えた。
「お兄さん!」
夢花は歩夢がエレベーターでエントランスへ降りてくると、彼に抱きついた。余程怖かったのか演技なのか、目には涙を浮かべていた。
歩夢にもその真偽は定かではなかったが、夢花を優しく抱きとめ、彼女の頭を撫でた。
「良かった、間に合って。ニュースであいつが警察病院から脱走したって知って、心配だったんだ」
「すっごく気持ち悪かった! あいつ、目も耳も機能してないのに追っかけてきたの! お兄さん、あいつの鼻を消してたけど……まさか、臭いで私を追ってきてたんじゃないよね?」
「いや……たぶん、そうだろうね。嗅覚を消したら追って来なくなったし」
「ひぃぃ、キモい! キモ過ぎる! 私、今日はもうアパートから一歩も出たくない!」
「じゃあ、一緒に部屋で映画でも観ようか」
歩夢はスマホで警察に通報しながら、エレベーターのボタンを押した。
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