悪夢症候群

緋色刹那

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ミッドデイアパート 第三話『金喰いレジスター』

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 女性店員が品出しをするためにバックヤードへ引っ込んだところへ、客が来た。
 恰幅のいいヨウヘイの半分、もしくは三分の一くらいの体重と思われる、体の細い青年だった。カゴを持ち、薄く笑みを浮かべながら、店内の品物を物色している。目の下に薄くクマが見えるものの、顔の整った好青年だった。
 ヨウヘイにとっては、初めて見る客だった。どんな客なのかと、カウンターから身を乗り出し、ジロジロと観察した。
 青年はペットボトルのお茶を数本と、お弁当を一つカゴに入れ、レジにやって来た。
「お願いします」
「うぇーい」
 ヨウヘイは気のない返事をし、商品をレジに読み込んでいく。
 そのまま商品を無造作にレジ袋へ入れ、「八百八十九円っす」と値段を告げた。
 すると青年は「あの」とレジ袋の中の弁当を指差した。
「これ、温めてもらえますか?」
「は?」
 ヨウヘイは自分が聞くのを忘れていたことを棚に上げ、青年を睨んだ。
「そういうのは袋に入れる前に言ってくれませんかねー? 他の客の迷惑になるんで」
「でも、今は他にお客さんはいませんよね? 急がないので、温めてもらえませんか?」
「はー? 客がいなければ何でもアリって、モラル無さすぎじゃね? 面倒いんで、自分であっためて下さーい」
「……」
 すると、青年の顔から笑みが消えた。ヨウヘイを冷たく見据え、静かに睨んでいる。
 一方、ヨウヘイは青年が黙り込んだので「モラルのないガキを論破してやった」と内心、喜んでいた。
「ほら帰った、帰った! もしかして、家に電子レンジがないとか? だったら、直火であっためればぁ? これだから頭の弱い凡人とは話が通じねぇんだよなぁ」
 ヨウヘイは相手が客だと認識しないまま、ペラペラと饒舌に青年を馬鹿にする。
 普通なら逆上してもおかしくなかったが、青年は黙ってその場に立ったまま、動こうとはしなかった。
「おいおい、もしかしてビビっちゃったのかぁ? 言っとくが、カスタマーセンターに連絡したって意味ないからな! ここのオーナーは俺の親父で、店長は親父の奴隷だからな!」
 ヨウヘイは気分が良くなり、ガハハと笑う。
 直後、ヨウヘイの膨れた腹にレジスターが噛みついた。
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