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ミッドナイトアパート 第五話『一生の償い』
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「夢花ちゃん、第一志望合格おめでとう!」
高校の合格発表日の翌日。夢花が教室に入ってくると、温子が涙ながらに夢花へ抱きつき、熱烈に祝福した。
夢花はさりげなく温子を押し返しつつ、「あ、ありがとう」と礼を言った。
「温子ちゃんも第一志望、受かったんでしょ? 良かったね」
「うん! 夢花ちゃんが勉強見てくれたおかげだよぉ、ありがとう!」
ふと、温子は「そういえば」とハンカチで涙を拭いながら言った。
「高岡さん、釈放されたらしいよ。ご両親が保釈金を払ったんだって」
「うそぉ。相手に怪我させておいて、よく釈放出来たね」
夢花はわざとらしく驚き、利緒の両親の神経を疑った。
利緒は高校の入試会場で突如暴れ、他の受験生に全治四ヶ月の怪我を負わせた。相手は顔の骨にヒビが入り、歯を何本か折られたらしい。
利緒は最後まで「夢花にハメられた」と主張したが、聞き入れる者は誰もいなかった。
「受験のプレッシャーで精神的におかしくなっちゃったんだって。ご両親が勤めてる病院に入院して、治療するみたいよ。早く良くなるといいわね」
「そうだね」
(まぁ……良くなっても、元の人生には戻れないだろうけど)
夢花は本音を押し殺し、微笑んだ。
夢見荘へ帰ってくると、夢花は真っ先に歩夢の部屋を訪れた。
「お兄さん、ただいまー!」
「おかえり、夢花ちゃん」
現れた歩夢は憑き物が落ちたようにスッキリとした顔をしていた。公募に投稿した小説が見事受賞し、作家デビューが決定したのだ。
歩夢は夢花を居間へ案内すると、早速尋ねた。
「どうなった? 僕が悪夢を見せた子は」
「上手く行ったよ! 暫くは外には出て来られなそう。ありがとう、お兄さん!」
「いいんだよ、お礼なんて。僕もその子が気に食わなかったからさ」
利緒の入試の日。歩夢は夢花から頼まれ、彼女に悪夢を見せた。
歩夢の悪夢は徐々に利緒の現実を侵食していき、遂には他の受験者が夢花だと思わせ、殴らせるまでに至った。
「私の心と時間を傷つけた分、あの女にはそれ以上の傷を負ってもらわないとね。一生かかっても治らない……深い深い人生の傷を、ね」
ミッドナイトアパート第五話「一生の償い」終わり
高校の合格発表日の翌日。夢花が教室に入ってくると、温子が涙ながらに夢花へ抱きつき、熱烈に祝福した。
夢花はさりげなく温子を押し返しつつ、「あ、ありがとう」と礼を言った。
「温子ちゃんも第一志望、受かったんでしょ? 良かったね」
「うん! 夢花ちゃんが勉強見てくれたおかげだよぉ、ありがとう!」
ふと、温子は「そういえば」とハンカチで涙を拭いながら言った。
「高岡さん、釈放されたらしいよ。ご両親が保釈金を払ったんだって」
「うそぉ。相手に怪我させておいて、よく釈放出来たね」
夢花はわざとらしく驚き、利緒の両親の神経を疑った。
利緒は高校の入試会場で突如暴れ、他の受験生に全治四ヶ月の怪我を負わせた。相手は顔の骨にヒビが入り、歯を何本か折られたらしい。
利緒は最後まで「夢花にハメられた」と主張したが、聞き入れる者は誰もいなかった。
「受験のプレッシャーで精神的におかしくなっちゃったんだって。ご両親が勤めてる病院に入院して、治療するみたいよ。早く良くなるといいわね」
「そうだね」
(まぁ……良くなっても、元の人生には戻れないだろうけど)
夢花は本音を押し殺し、微笑んだ。
夢見荘へ帰ってくると、夢花は真っ先に歩夢の部屋を訪れた。
「お兄さん、ただいまー!」
「おかえり、夢花ちゃん」
現れた歩夢は憑き物が落ちたようにスッキリとした顔をしていた。公募に投稿した小説が見事受賞し、作家デビューが決定したのだ。
歩夢は夢花を居間へ案内すると、早速尋ねた。
「どうなった? 僕が悪夢を見せた子は」
「上手く行ったよ! 暫くは外には出て来られなそう。ありがとう、お兄さん!」
「いいんだよ、お礼なんて。僕もその子が気に食わなかったからさ」
利緒の入試の日。歩夢は夢花から頼まれ、彼女に悪夢を見せた。
歩夢の悪夢は徐々に利緒の現実を侵食していき、遂には他の受験者が夢花だと思わせ、殴らせるまでに至った。
「私の心と時間を傷つけた分、あの女にはそれ以上の傷を負ってもらわないとね。一生かかっても治らない……深い深い人生の傷を、ね」
ミッドナイトアパート第五話「一生の償い」終わり
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