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ミッドナイトアパート 第四話『毒を喰らわば、孫までも』
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「おやわり!」
「はいはい。鈴蘭、今日はよく食べるわねぇ」
義母が頭の中で計画を修正している間に、孫娘は茶碗によそわれた分のご飯も、サラダも、天ぷらも、味噌汁も、全て食べ尽くしてしまっていた。
いくら食べ盛りとはいえ、早過ぎる。その上、これだけの毒物を摂取したというのに、全く何の異常も見られなかった。
「そ、そんなに食べて平気かい?」
「あだぶー!」
義母の問いに、孫娘は大きく頷く。
シキミも「食べ盛りですから」と平然と毒飯を茶碗いっぱいに盛り、孫娘の前に出した。
「はい、鈴蘭。お代わりどうぞ」
「キャッキャッ!」
孫娘はスプーンを放り投げ、毒飯を鷲掴んで頬張る。
今度は三つかみで茶碗をカラにし、再度お代わりを催促した。
「おやわり! おやわり!」
「まぁ、キリが無いわね。もう炊飯器ごと食べちゃって」
そう言うと、シキミは台所に置かれていた炊飯器を孫娘の前に運んだ。蓋を開けると、湯気立った毒飯が露わになった。
「キャッキャッ! ごあん、ごあん!」
「そうだね、ご飯だね。熱いから、シャモジ使って食べてね」
「あーい!」
孫娘は手渡されたシャモジを素直に受け取ると、大盛りの毒飯をすくい、大口を開けて食らった。大人でも食べられない熱々の米を、孫娘は何ら苦にせず、美味そうに頬張る。
やがて毒飯を食らっていくうちに、孫娘の体はみるみるうちに膨れて巨大化し、頭が天井につくまでに成長していった。
「おやわり! おやわり!」
炊飯器をカラにしても尚、机に拳を叩きつけ、お代わりを催促する。
猿のように甲高かった声は、男のそれのようにくぐもっていた。
「あら、もうご飯食べちゃったの? じゃあ、お父さんとお母さんのあげるから、食べて」
「すごい食べっぷりだ。さすが育ち盛りだなぁ」
シキミは仕方なく、自分達の分の食事を孫娘に差し出した。巨大化した娘を前に、シキミも息子も平然としている。
義母はこの状況を受け止めきれてはいなかったものの、チャンスとばかりに自分の分のサラダをシキミに差し出した。
「わ、私の分の食事も、鈴蘭ちゃんにあげて。食べ盛りだもの、いっぱい食べさせなきゃ」
するとシキミは「あら、ご心配なく」と濁った目で笑った。
「せっかくお義母さんが苦労して採ってこられたんですもの。遠慮せず、お食べになって下さい」
「そうだぞ、母さん。長生きしてもらわないと、俺達が困るんだから」
息子も濁った目で振り返り、笑う。
「なんなら、俺が食べさせてあげようか? 母さんが鈴蘭にやったみたいにさ」
そう言うと息子は片手で義母の頬をつかみ、無理矢理サラダを口の中へねじ込んだ。
「むぐぅ……ッ!」
義母はサラダを吐き出そうとするが、シキミに両手で口を押さえられ、吐き出せない。
それでも息苦しさから飲み込まざるを得なくなり、義母は口の中に詰め込まれた大量の毒草を無理矢理飲み込んだ。案の定、喉の途中で毒草が詰まり、義母は助けを求めた。
「し、死ぬ! 早く救急車を呼んどくれぇッ!」
それに対し、息子とシキミは「大丈夫、大丈夫」と冷ややかに笑った。
「そんな大袈裟に苦しまないでよ、母さん。母さんは毒に慣れてるんだから、平気だって!」
「それに、もしお義母さんが死んでも、またお義祖母様に産んでもらえばいいんですから、安心して下さい」
義母は三人に見下ろされながら、次第に意識が遠のいていった。
「はいはい。鈴蘭、今日はよく食べるわねぇ」
義母が頭の中で計画を修正している間に、孫娘は茶碗によそわれた分のご飯も、サラダも、天ぷらも、味噌汁も、全て食べ尽くしてしまっていた。
いくら食べ盛りとはいえ、早過ぎる。その上、これだけの毒物を摂取したというのに、全く何の異常も見られなかった。
「そ、そんなに食べて平気かい?」
「あだぶー!」
義母の問いに、孫娘は大きく頷く。
シキミも「食べ盛りですから」と平然と毒飯を茶碗いっぱいに盛り、孫娘の前に出した。
「はい、鈴蘭。お代わりどうぞ」
「キャッキャッ!」
孫娘はスプーンを放り投げ、毒飯を鷲掴んで頬張る。
今度は三つかみで茶碗をカラにし、再度お代わりを催促した。
「おやわり! おやわり!」
「まぁ、キリが無いわね。もう炊飯器ごと食べちゃって」
そう言うと、シキミは台所に置かれていた炊飯器を孫娘の前に運んだ。蓋を開けると、湯気立った毒飯が露わになった。
「キャッキャッ! ごあん、ごあん!」
「そうだね、ご飯だね。熱いから、シャモジ使って食べてね」
「あーい!」
孫娘は手渡されたシャモジを素直に受け取ると、大盛りの毒飯をすくい、大口を開けて食らった。大人でも食べられない熱々の米を、孫娘は何ら苦にせず、美味そうに頬張る。
やがて毒飯を食らっていくうちに、孫娘の体はみるみるうちに膨れて巨大化し、頭が天井につくまでに成長していった。
「おやわり! おやわり!」
炊飯器をカラにしても尚、机に拳を叩きつけ、お代わりを催促する。
猿のように甲高かった声は、男のそれのようにくぐもっていた。
「あら、もうご飯食べちゃったの? じゃあ、お父さんとお母さんのあげるから、食べて」
「すごい食べっぷりだ。さすが育ち盛りだなぁ」
シキミは仕方なく、自分達の分の食事を孫娘に差し出した。巨大化した娘を前に、シキミも息子も平然としている。
義母はこの状況を受け止めきれてはいなかったものの、チャンスとばかりに自分の分のサラダをシキミに差し出した。
「わ、私の分の食事も、鈴蘭ちゃんにあげて。食べ盛りだもの、いっぱい食べさせなきゃ」
するとシキミは「あら、ご心配なく」と濁った目で笑った。
「せっかくお義母さんが苦労して採ってこられたんですもの。遠慮せず、お食べになって下さい」
「そうだぞ、母さん。長生きしてもらわないと、俺達が困るんだから」
息子も濁った目で振り返り、笑う。
「なんなら、俺が食べさせてあげようか? 母さんが鈴蘭にやったみたいにさ」
そう言うと息子は片手で義母の頬をつかみ、無理矢理サラダを口の中へねじ込んだ。
「むぐぅ……ッ!」
義母はサラダを吐き出そうとするが、シキミに両手で口を押さえられ、吐き出せない。
それでも息苦しさから飲み込まざるを得なくなり、義母は口の中に詰め込まれた大量の毒草を無理矢理飲み込んだ。案の定、喉の途中で毒草が詰まり、義母は助けを求めた。
「し、死ぬ! 早く救急車を呼んどくれぇッ!」
それに対し、息子とシキミは「大丈夫、大丈夫」と冷ややかに笑った。
「そんな大袈裟に苦しまないでよ、母さん。母さんは毒に慣れてるんだから、平気だって!」
「それに、もしお義母さんが死んでも、またお義祖母様に産んでもらえばいいんですから、安心して下さい」
義母は三人に見下ろされながら、次第に意識が遠のいていった。
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