48 / 227
第2部 ナイトメアアパート『序』
プロローグ
しおりを挟む
「ほら、夢花。ここが今日から住む家だよ」
「わぁ! おっきいね!」
継父に連れられ、夢花はこの春から住む新居のアパートへとやって来た。
継父は無邪気にはしゃぐ夢花を微笑ましそうに見下ろし、「全部じゃないよ」と優しく教えた。
「四階にある一部屋が僕らの家なんだ。このアパートには、他にも沢山の人が住んでるんだよ。後で挨拶に行かないとね」
「ふーん、そうなんだぁ」
継父は夢花が勘違いしていると思い、丁寧に説明する。
夢花は既に承知していたが、継父に嫌われないよう、精一杯「可愛らしい子供」を演じた。中学生になっても、それは変わらないつもりだった。
アパート「夢見荘」
住宅地のど真ん中にある、五階建てマンションだ。近くにはこの春から夢花がかよう私立中学校があり、徒歩圏内だった。
部屋は2LDK。洋間と和室が一つづつ。トイレ、浴室つき。ベランダは南向き。
1フロアにつき五部屋あり、夢花と継父が入居したのは四階のちょうど真ん中にある403号室だった。
エレベーターで四階まで上がると、隣の404号室でも引っ越し作業が行われていた。
「おや、お隣さんも今日引っ越してきたらしい。挨拶して来ようか」
「うん!」
継父は夢花と手を繋ぎ、404号室へと出向く。
「どんな人がお隣さんになったんだろうね?」
「きっと良い人だと思うよ」
継父の問いに、夢花は断言した。継父には悪いが、夢花は誰が隣に越してきたのか、事前に知っていた。
二人が404号室に着いたところで、部屋の中から住人らしき青年が出て来た。
二十代前半くらいの優男で、ガタイのいい継父よりも一回り小さい。ベージュのセーターに空色のシャツ、コゲ茶色のチノパンという出で立ちから、大学に通う文学青年のような印象を受けた。
青年は継父に連れられた夢花に気づくと、彼女に微笑みかけた。夢花も継父に怪しまれないよう、らしくない満面の笑みを見せた。
青年は夢花と無言の挨拶を交わすと、継父に視線を向け、ついでに声をかけた。
「こんにちは。お隣に引っ越して来た方ですか?」
「えぇ、夜宵と申します。私は優一、この子は夢花。どうか、今後ともよろしくお願い致します」
継父は青年と夢花の仲を訝しむことなく、手土産に持ってきた菓子を手渡した。
青年も薄く微笑み、両手で菓子を受け取った。
「ご丁寧にありがとうございます。僕は日野歩夢と申します。こちらこそ、何卒よろしくお願いします」
白昼に悪夢を見せる能力者、日野歩夢。
深夜に悪夢を見せる能力者、夜宵夢花。
かつて、ある能力者を苦しめた二人の悪夢使いは、こうして同じアパートに住むことになったのだった……。
そして、新たな悪夢が始まる。
「わぁ! おっきいね!」
継父に連れられ、夢花はこの春から住む新居のアパートへとやって来た。
継父は無邪気にはしゃぐ夢花を微笑ましそうに見下ろし、「全部じゃないよ」と優しく教えた。
「四階にある一部屋が僕らの家なんだ。このアパートには、他にも沢山の人が住んでるんだよ。後で挨拶に行かないとね」
「ふーん、そうなんだぁ」
継父は夢花が勘違いしていると思い、丁寧に説明する。
夢花は既に承知していたが、継父に嫌われないよう、精一杯「可愛らしい子供」を演じた。中学生になっても、それは変わらないつもりだった。
アパート「夢見荘」
住宅地のど真ん中にある、五階建てマンションだ。近くにはこの春から夢花がかよう私立中学校があり、徒歩圏内だった。
部屋は2LDK。洋間と和室が一つづつ。トイレ、浴室つき。ベランダは南向き。
1フロアにつき五部屋あり、夢花と継父が入居したのは四階のちょうど真ん中にある403号室だった。
エレベーターで四階まで上がると、隣の404号室でも引っ越し作業が行われていた。
「おや、お隣さんも今日引っ越してきたらしい。挨拶して来ようか」
「うん!」
継父は夢花と手を繋ぎ、404号室へと出向く。
「どんな人がお隣さんになったんだろうね?」
「きっと良い人だと思うよ」
継父の問いに、夢花は断言した。継父には悪いが、夢花は誰が隣に越してきたのか、事前に知っていた。
二人が404号室に着いたところで、部屋の中から住人らしき青年が出て来た。
二十代前半くらいの優男で、ガタイのいい継父よりも一回り小さい。ベージュのセーターに空色のシャツ、コゲ茶色のチノパンという出で立ちから、大学に通う文学青年のような印象を受けた。
青年は継父に連れられた夢花に気づくと、彼女に微笑みかけた。夢花も継父に怪しまれないよう、らしくない満面の笑みを見せた。
青年は夢花と無言の挨拶を交わすと、継父に視線を向け、ついでに声をかけた。
「こんにちは。お隣に引っ越して来た方ですか?」
「えぇ、夜宵と申します。私は優一、この子は夢花。どうか、今後ともよろしくお願い致します」
継父は青年と夢花の仲を訝しむことなく、手土産に持ってきた菓子を手渡した。
青年も薄く微笑み、両手で菓子を受け取った。
「ご丁寧にありがとうございます。僕は日野歩夢と申します。こちらこそ、何卒よろしくお願いします」
白昼に悪夢を見せる能力者、日野歩夢。
深夜に悪夢を見せる能力者、夜宵夢花。
かつて、ある能力者を苦しめた二人の悪夢使いは、こうして同じアパートに住むことになったのだった……。
そして、新たな悪夢が始まる。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
旧校舎のユウコさん
ユーレカ書房
ホラー
おれ、辰彦。昔からレイカンってやつがあって、生きてる人と同じように〈生きてないヒト〉も見えてしまうんだ。
夏休みのある日、親友の勝たちにダマされて旧校舎で幽霊探しをすることになってしまったおれは、記憶喪失のユーレイ、ユウコさんと出会った――。
【登場人物】
辰彦………「おれ」。どこにでもいる平凡な十二歳とおもいきや、母譲りの霊感があり幽霊が見える。お人好しで、やや巻き込まれ体質。
勝…………辰彦の親友。スポーツが得意なガキ大将。足の速さといざというときの瞬発力はピカイチ。態度はデカいがビビり。
大夢………辰彦の親友。勉強が得意な大人しい少年。オカルトが三度の飯より好きで、幽霊探しの言い出しっぺ。
ユウコさん…「旧校舎のユーレイ」。辰彦たちより年上らしい少女。記憶喪失になっており、自分の名前もどうして死んだかも、生きていた頃何をしていたかも忘れてしまった。どうやら戦時中に亡くなったらしい。
トモちゃん…ユウコさんの一番下の弟。ユウコさんによると、いつもお腹を空かせて泣いていた。ユウコさんは自分のことを忘れてもなお「トモちゃん」が心配で成仏できずにいた。
モトチョー…辰彦たちの通う小学校の先代校長。「元校長先生」を略して「モトチョー」と呼ばれている。
ひいじいちゃん…辰彦のひいじいちゃん。戦時中兵隊に取られ、南の島で餓死した。幽霊になって戻ってきたとき、自分の妻と娘に霊感があることに初めて気がついた。お盆になると帰ってくる。
橋の少年……辰彦が夏祭りから帰る途中、橋のたもとで出会った少年。実は川に落ちたことで亡くなっており、両親に気づいてもらえない寂しさから声をかけてくれた辰彦を道連れにしようとした。
二番目の弱者
目黒サイファ
ホラー
いつも学校でいじめられているニシハラ君とボクは同じクラスメイトだ。ニシハラ君へのいじめは習慣化されていて、誰も止める人はいなかった。ボクも傍観者の一人である。深夜、ボクが町を徘徊していると、不気味な格好をしてニシハラ君を発見してしまった。そこから、ボクの日常が崩れていく。日常に潜む恐怖が顕現するショートショート集。※感想をお待ちしています。
アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について
黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m
続・骸行進(裏怪談)
メカ
ホラー
本作で語る話は、前作「骸行進」の中で
訳あって語るのを先送りにしたり、語られずに終わった話の数々である。
前作に引き続き、私の経験談や知り合い談をお話しましょう・・・。
また、前作では語られなかった「仲間たち」の話も・・・是非お楽しみください。
グループディスカッション
cheeery
ホラー
20XX年に発令された『クリエイティブ社会向上法』
これは、労働力よりも創造的、独創的なアイデアを持つ人達を重要視し、社会的な向上を図るための制度であるが、それは表向きの法令だった。
実際は、クリエイティブ性の無いもの排除。
全国の大学4年生を集めて、生死をかけた戦いが始まる。
審査は複数で討論を行うグループディスカッション。
それぞれグループになり指定された討論について話し合う。話し合いの内容、発言、行動を見て平等に点数を付けていく。
0点を取ったら待っているものは死ーー。
仕切るか、奪うか、裏切るか、ひっくり返すか
それぞれの方法で点数を稼げ。
~さあ、話し合え~
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
近くて便利!スプーキーリサイクル
中靍 水雲
ホラー
スプーキーリサイクル
そこはいらないものを買い取ってくれるお店。
何を買い取っているのかって?
それは、人の恐怖———!
おそろしい恐怖体験と、それにまつわる物。
それを買取り、お金に変えてくれるのだ。
今日もまた、スプーキーリサイクルに来客があった。
ひとりは、トウヤという恐怖体験をした少年だ。
そして、もうひとり。
おびえるトウヤに「ついてきてくれ」と言われ、仕方なく来店した少年、サクマだ。
いよいよ、買い取り査定がはじまる。
ぽつぽつとトウヤが恐怖体験を語り出す。
(話を盛ってもムダ。店主は気づいてしまうよ。何しろ、店主はただの店主ではないからね)
トウヤの話が終わった、そのときだった。
突然トウヤは、謎の人物によって神隠しされてしまう。
戸惑うサクマに、スプーキーリサイクルの店主が言った。
「いっしょにトウヤを助けよう。そのためには、もっともっと、たくさんの恐怖を買い取らないといけないけれどね——」
そう、鬼の店主・ルドンは言った。
表紙イラスト:ノーコピーライトガールさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる