「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界

緋色刹那

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第9章「真・魔王城へ、ざまぁ!」

第一話

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 古都、ノースフィールド。
 かつてノースキャッスルと呼ばれていた魔王城の城下町で、魔王に城を奪われるまでは第二の首都と称される、活気あふれた街だった。
 魔王の支配下に置かれた現在、城下町は廃墟と化し、一切の生物も住まぬ不毛の地となっている。復旧の目処は立たず、今も街のいたるところに住人の骨や氷漬けにされた遺体が転がっていた。

「さっきも言ったけど、ヨシタケが見たのはザマァーリンからの予言……もとい、警告だ。このまま魔王城へ突入したら、夢は現実になる。作戦を立て直した方がいい」
「警告するくらいなら、自分で救っちまえばいいのにな」
「ザマァーリンは世界の観測者だ。世界を揺るがす災いがもたらされた時、勇者を選定し、その災いを鎮める責務を負わされてる。ただ、自力でその問題を解決しちゃいけないんだ。観測者は中立でなくちゃならないからね」

 ヨシタケ達は真っ直ぐ魔王城へは向かわず、ノースフィールドで作戦を練り直すことにした。建物としてかろうじて原型を保っていた食堂へ忍び込み、椅子を囲む。
 改めてヨシタケが夢で見た未来を話し、その未来を変えるための課題をノストラがまとめた。

「……僕達がやることは四つ。一つ、ザマスロットを何が何でも生かす。ザマスロットが命を落とせば、エリザマス姫は暴走……果ては、この世界が壊滅してしまう。倒せないなら、攻撃を耐えるしかない。それと、ザモーガンからザマスロットを守るのも忘れないように」
「ったく、世話のかかる騎士団長様だぜ」
「二つ目に、エリザマス姫が闇堕ちする前に救出する。姫はザモーガンにだまされていただけで、話せば分かってくださるお人だ。真実を知れば、ザマスロットを止める手助けをしてくださるだろう。姫様を無事に助け出すためにも、ザモーガンはエントランスに引きつけておく必要がある。これが三つ目」

 そして、とノストラは最後の課題を口にした。

「四つ目、魔王を倒す。ザマァロンダイトがザマスロットの手にある、今がチャンスだ。ザマスロットとザモーガンが魔王から離れている隙に、魔王の居場所を特定して、全てを終わらせる!」

 ノストラの力強いひと言を最後に、酒場は静まり返る。
 ヨシタケ達の顔は渋かった。

「いやぁ……」
「まぁ……」
「うん……」
「……無理だろ」

 ノストラも「だよね」と、あっさり頷く。
 今のヨシタケ達には全ての課題をクリアできるほどの力はない。現に、夢の中ではザマスロット含め、全滅していた。

「最強の剣を持ってるってのに、これ以上何が必要なんだろうな?」
「エクスザマリバーはあくまで攻撃手段……守備には向いていないのかもしれません」

「ノストラの占いで、パパーッと姫様の居場所を探し当てられねぇのかよ?」
「できなくはないけど、城の周りに索敵避けの結界が張られてるから、僕一人じゃ時間がかかるよ。僕が姫様と魔王を見つけるより先に、僕らが向こうに見つかっちゃうだろうね」

「エリザマスだけでも救出したいところだが、見ず知らずの我々を簡単に信用するとも思えんしな」
「シスターと僕はともかく、ヨシタケは自称勇者、ダザドラは魔王の手先感強めのドラゴン、ザマビリーはお手本みたいな荒くれ者だからなぁ……」
「誰が自称勇者だ!」
「我は魔王の手先ではない!」
「俺は荒くれ者……だな! うん!」

「いっそ、エクスザマリバーで外から真っ二つにするか? こう……魔王とザモーガンが直線に並んだタイミングで」
「魔王城が崩壊したら、ザマスロットもエリザマス姫もペシャンコになっちゃいますよ?」
「だよなぁー」

 案を出し合うが、どれも決定打とはならない。
 ヨシタケは頭を抱え、ぼやいた。

「あーあ、なんかいい方法ねぇかなぁー。人でも道具でも、なんでもいいから使えそうなのくれ」





 そこへ、

「なんでもいいなら、俺達を仲間にしちゃくれねぇか?」
「道具もあるわ。私達のじゃないけど」

「パロザマス?!」
「メルザマァル先輩まで!」

 パロザマスとメルザマァルは薄汚れたローブのフードを取り、顔を見せる。指名手配中のお尋ね者であるため、旅人に扮して行動していたらしい。
 二人は何食わぬ顔で、堂々と酒場へ入ってきた。

「何しに来た?! まさか、ザマスロットの味方になる気じゃないだろうな?!」
「あいつなら魔王の手先になったぞー。お前らもあっち側に行くなら、ここで始末するけど?」

 ヨシタケ達はそれぞれ武器を構え、二人を警戒する。
 パロザマスとメルザマァルはザマスロットが生きていて、しかも魔王の軍門に降ったと聞かされても、全く驚かなかった。

「……知ってる。全部、ザマァーリン様から聞いたから」
「え」
「ザマァーリンから?」
「お前らが魔王城で敗北した未来も見せてもらったぞ。惨敗だったな」
「うるせぇ!」
「ははッ! 現実のお前らは活きが良くていいなぁ……安心したぜ」

 二人も予言を見て、思うところがあったらしい。
 元気なヨシタケ達を前にし、安堵していた。

「それと、ザマヴィアンから届け物だ」
「届け物?」

 パロザマスは自身の武器とは別に背負っていた、長細い包みをヨシタケに渡した。

「重っ?!」
「落とすなよ? 俺がザマヴィアンに叱られる」

 ヨシタケは包みを机の上へ運び、開ける。
 中から現れたのは、金色に輝くさやだった。

「すっげー! ピッカピカだ!」
「これ……もしかして、エクスザマリバーの鞘じゃない? あらゆる障害から持ち主を守る、可変の鞘!」
「可変?」

 首を傾げる一同に、ノストラは嬉々として解説した。

「つまり、イメージ通りに作り変えられるってこと! 盾にもなるし、鎧にもなる! エクスザマリバーと同じ光の力を宿っているから、持っているだけで傷は癒えるし、闇の〈ザマァ〉はことごとく跳ね返す! エクスザマリバーが最強の矛だとしたら、鞘は最強の盾だね!」
「すっげぇ! ただの剣の入れ物かと思ったら、そんな強ぇのか?!」

 気になるのは、なぜそんな大事な鞘をザマヴィアンが二人に託したのかだった。
 二人はザマスロットに協力し、森の掟を破ったばかりか、エクスザマリバーを手に入れたヨシタケにすり寄った。エクスザマリバーの守り手であるザマヴィアンにとって、最も関わりたくない相手のはずだ。

「ザマヴィアン様、そのような貴重な代物をよく貴方がたに託されましたね」
「本当は盗んできたんじゃないのか?」
「だとしたら、お前らのとこになんか持ってこねぇよ」
「売って、そのお金で魔王にザマスロットとエリザマス姫を引き渡してもらうから」
「……それもそっか」

 パロザマスとメルザマァルは言った。

「俺達は今も、お前らを勇者パーティだと認めちゃいねぇ。けど、お前らが勇者パーティじゃねぇと、ザマスロットも姫様も助からないんだろ? だったら、勇者パーティになんのは諦める。ザマスロットと姫様を助け出すために、協力させてくれ」
「私も。実は、今まで外で話を聞かせてもらっていたわ。いろいろ課題があるみたいだけど、私達とエクスザマリバーの鞘がそろえば、なんとかなるんじゃない?」
「……」

 二人は森でヨシタケにすり寄ってきた時とは違う、力強い真っ直ぐな目をしていた。断っても、ついて来そうだ。

(どうせついて来るなら、連携した方がいい……か)

 ヨシタケは「分かった」と頷いた。

「ちょうど、捜索班とエリザマス姫の顔見知り班の手が足りなかったんだ。協力したいっつーなら、させてやるよ。もし裏切ったら、魔王とザモーガンと一緒に真っ二つにしてやる。みんなもそれでいいか?」

 他のメンバーも「異議なーし!」とパロザマスとメルザマァルを受け入れた。
 無謀としか思えなかった「魔王討伐およびエリザマス姫救出(ついでにザマスロットも)計画」は、新たな武具と仲間が加わったことで現実味を帯びてきた。
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