「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
31 / 42
第8章「魔王城へ、ざまぁ!」

第二話

しおりを挟む
 魔王城は荒野の真ん中にポツンと建っていた。周囲に番兵の姿はない。
 ザマスロットとザモーガンが門の前に立つと、門がひとりでに開いた。二人が中へ入ると、勝手に閉じた。

「ザマン様、ザマスロットを連れて参りました」

 城の中は黒に染まっていた。
 エントランスの壁や床、入ってすぐ正面に伸びる大きな階段に至るまで、何もかもが真っ黒だった。あちこちに灯っている蝋燭の火すら、黒い。
 壁際には、ザマンに戦いを挑みにきたと思われる冒険者達が恐怖の形相を浮かべ、氷漬けにされている。何がしかの呪いがかけられているのか一向に溶ける様子はなく、彫刻のごとく飾られていた。

「……よくぞ参ったな、ザマスロットよ。まさかエクスザマリバーの湖からこんな辺境まで飛ばされるとは、災難であったな」

 ザマンと思われる、威厳のある男性の声が城内に響く。労られているはずなのに冷たく、威圧感を感じるような声色だった。
 ザマスロットも恐怖で背筋がゾワリとしながらも、口を開いた。

「エリザマスに会わせてくれ。彼女に聞きたいことがある」
「いいだろう。その代わり、儂の頼みも聞いてもらうぞ。よいな?」

 ザマスロットは頷いた。

「……エリザマスと会えるのなら、俺はどうなったって構わない」
「交渉成立だな。ザモーガン、姫を連れて来い」
「承知致しました」

 ザモーガンは闇に紛れ、退席する。
 やがて十秒にも満たない速さで、エリザマス姫を連れて戻ってきた。

「ザマスロット!」
「エリザマス!」

 エリザマスは涙ながらにザマスロットへ抱きついた。拐われた日と同じ、ピンク色のドレスをまとっていた。
 ザマスロットもエリザマスを強く抱き留め、しばらく離さなかった。

「怪我はないか?」
「平気。"人質として価値がある間は、生かしておく必要がある"って、何不自由のない生活を送らせてもらっていたの。城にいた頃の方が自由がなかったくらいよ」
「そうか……それなら良かった」

 ザマスロットはエリザマスの無事を確認し、ひとまず安堵した。本音を言えばこのまま連れて帰りたいくらいだったが、そうも行かない。
 仕方なく、エリザマスに例の件について確かめた。

「ザモーガンから聞いたよ。君は、会ったこともない勇者に助けられたくないと思っているそうだね。それは本当かい?」

 エリザマスは頷いた。

「本当よ。だって、私はザマスロットと結ばれたいんですもの。万が一にも勇者が魔王を倒してしまったら、どこの馬の骨とも分からない平民と結婚させられてしまうわ。そんなの、絶対に嫌!」

 さらにエリザマスはすがるような目で、ザマスロットに懇願した。

「ねぇ、ザマスロット。貴方が勇者を倒してくれない? そうすれば、この国は魔王様のものになって、今までの法律なんか全部なかったことになるわ。私達、結ばれるのよ!」

 ザマスロットにとって、願ってもない頼みだった。
 憎っくきヨシタケを倒し、無能な王から国を奪い、愛しのエリザマスを手に入れられる……一度は諦めていた野望が、今再び叶えられようとしていた。

「いいのか? 俺がエリザマスをモノにして」

 念のためザマンに確認すると、彼は「構わん」と頷いた。

「儂は人質が欲しくて、そやつを連れ去っただけだ。お前達が望むのなら、国を上げて盛大に祝福してやろう。欲しいものは何でもくれてやる。国を動かしたいと望むのなら、王の座すらも譲ろう。儂は王国に復讐できれば、それでいい」
「……言ったな? その言葉、覚えておけよ」

 ザマスロットはニヤリと笑み、ザマンに言質を取った。
 ザマンも鼻で笑い、「二言はない」と断言した。

「その前に、エリザマスに会わせた代償を払ってもらうぞ」

 その時、階段の前にある床の一角がせり上がり、一振りの剣を載せた台が現れた。
 近づいてよく見ると、柄も鞘も真っ黒で、見る者を恐れさせるような禍々しいオーラを放っていた。

「何なんだ、この剣は……?!」

 ザマスロットも剣を目にした途端、悪寒がした。
 と同時に妙な魅力を感じ、目が離せなくなった。気がつくと剣を手に取り、鞘から抜いていた。剣は刃すら黒く、鈍く光を反射していた。

「それは闇の剣、ザマァロンダイト。闇の〈ザマァ〉の威力を何倍にも膨れ上がらせる、伝説の剣だ。お前にはその剣を使って、勇者ヨシタケと戦って欲しい」
「なぜ、この剣を俺に? 貴様はヨシタケとは戦わないのか?」
「使える駒があるなら、使う。それだけだ。それに、勇者ヨシタケはエクスザマリバーを持っている……アレに対抗するには、アレよりも強い闇の力でなければ太刀打ちできまい」
「……そうか」

 ザマスロットは壁際に並んでいる氷漬けの冒険者達に向かってザマァロンダイトを振るい、「二度と帰れなくなって、〈ザマァ〉」と、闇の〈ザマァ〉を放った。
 すると刃から漆黒の斬撃が飛び、氷漬けの冒険者達を真っ二つに切り裂いた。冒険者達は悲鳴を上げることもなくバラバラに砕け、息絶えた。

「お見事!」
「ほう……もう使いこなしたか」

 見事な手さばきに、ザモーガンとザマンは驚嘆する。
 心優しい性格のはずのエリザマスも「すごいわ、ザマスロット!」と手を叩き、彼を褒め称えた。

「……良い切れ味だ。ありがたく使わせてもらおう」

 ザマスロットはすっかりザマァロンダイトを気に入った様子で、漆黒の刃に見入った。
 常に何かを攻撃せずにはいられず、他の氷漬けになった冒険者達も次々に仕留めていった。

「ははははッ! 死ねッ! 死んでしまえッ! 呆気なく氷漬けになった、愚民共め! 誰にも知られることなく、死んでいけ! 〈ザマァ〉!」
「じきに勇者達が来る。頼んだぞ、ザマスロット」

 ザマンが退席した後も、ザマスロットは暴れ続けた。全ての冒険者達を殺し終えると、その亡き骸をさらに砕き、笑っていた。
 彼は完全に闇の力に飲まれ、狂っていた。

「もうすぐだぞ、エリザマス! もうすぐ俺達は結ばれるんだ!」
「えぇ! 楽しみね、ザマスロット! ウェディングドレスは黒色にしようかしら?」

 エリザマスは既に結婚式のことで頭がいっぱいのようで、ザマスロットが狂っていくのも気づかず、うっとりとしていた。
 ザモーガンも満足の行く展開になり、ニヤニヤと笑いながらエントランスからどこかへ転移していった。



 ザモーガンが移動した先は、薄暗い独房だった。鉄格子に囲まれ、薄汚れたベッドとトイレだけが置かれている。
 その中には、エントランスにいるはずのエリザマスが閉じ込められていた。やつれてこそいるが、目には強い光が宿っている。実は彼女こそが、本物のエリザマスだった。

「姫様、ザマスロットが貴方を助けに来ましたよ」
「ザマスロットが?!」

 途端にエリザマスはハッと鉄格子に飛びつき、瞳を輝かせた。

「どこ?! どこにいらっしゃるの?!」
「エントランスですよ。貴方を解放するよう、ザマンを説得しています。ですが、間に合わないかもしれません」
「間に合わない……? どういうことです?」

 エリザマスはザモーガンの嘘をあっさり信じ、尋ねた。
 ザモーガンは最初にザマスロットに話したのと同じように、エリザマスにも「姫様と同じくザマンに拐われ、無理矢理働かされている」のだと説明し、信用を得ていたのだ。しかもエリザマスは外部からの情報を一切遮断されているため、ザマスロットが自ら起こした悪行によって勇者を解雇されたことも、ヨシタケが勇者に復帰したことも、何も知らなかった。
 それをいいことに、ザモーガンはさらに嘘を重ねた。

「凶悪な賊達がザマスロットの命を狙い、この城へ来ようとしているのです。しかもザマンは彼らの力を借り、ザマスロットを亡き者にするつもりですわ」
「何ですって?!」
 
 エリザマスはまたもザモーガンの話を信じ、賊と称されたヨシタケ達への怒りを募らせた。

「無礼者……勇者であるザマスロットを殺そうとするなんて、絶対に許せない!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

処理中です...