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第8章「魔王城へ、ざまぁ!」
第一話
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ザマァーリンと別れた後、ヨシタケ達は彼女の勧めで王国へ戻ることにした。
「エクスザマリバーを見せれば、ザーマァ王も君が真の勇者だと納得するはずさ。魔王と戦うには、何かと入り用だろう? 武器も防具も初期装備のままだし、正式に勇者として認めてもらって、援助を受けた方がいい」
「そう簡単に行くかな? あの王様、ザマスロット達の言いなりだったんだろ?」
しかしヨシタケの心配とは裏腹に、ザーマァ王は王国へ戻ってきたヨシタケを見るなり「おぉ! 本当に生きておったのか!」と号泣し、力強くヨシタケを抱きしめた。
「そなたがザマスロット達を置いて逃げたと聞いた時から、ずっと疑っておったのじゃ! 今まで何の支援もしてやれなくて、すまんかったのぉ……」
「こちらこそずっと連絡せず、すみませんでした。風の噂で勇者パーティから脱退させられたと聞いていたので、もう用済みかと思っていました」
「あんなものは、取り消しじゃ! 聖剣エクスザマリバーを手にしたそなたこそが、選ばれし勇者なのじゃからな! 元勇者ザマスロット、メルザマァル、パロザマスは、勇者反逆罪および殺人未遂および詐欺罪で指名手配する!」
ザーマァ王の鶴の一声により、ヨシタケは再び勇者に任命された。同時に、ヨシタケの仲間であるザマルタ、ダザドラ、ザマビリー、ノストラも正式に勇者パーティの一員として認められ、勇者と同等の社会的地位を与えられた。
これらの発表はザマスロット一味の指名手配も含め、映像通信で全国民に向けて大々的に発表された。突然の発表に国民達は驚きつつも、真の勇者の誕生に沸き立った。各所でお祭り騒ぎが起こり、特に王宮の城下町では既にザマンを討伐したかのような盛り上がりを見せていた。
「人、多っ?! ここは渋谷のハロウィンか、同人誌即売会か?!」
「プロフィポリスもすごかったが、比べものにならんな! 一体、どこから湧いてきた?!」
「外からじゃない? 今まで散々ヨシタケを馬鹿にしておいて、いい気なもんだよね」
魔王の城へ発つ前夜、ヨシタケ達もこっそり群衆に混じり、城下町の宴へ参加した。人が多いおかげか、ヨシタケがモブ顔だからか、誰も彼らが勇者パーティだとは気づかなかった。
広場で踊る男女、酒を酌み交わす男達、軽食やゲームの出店を楽しむ子供……いつ、ザマンに国を滅ぼされるかも分からない状況にあるとは思えないほど、城下町に集まった彼らは生き生きとした顔をしていた。
「皆さん、ヨシタケさんが聖剣を抜いたと知って嬉しいんですよ。これでやっと、ザマンの恐怖から解放されるって……」
「ま、勝てるかどうかなんて、まだ分かんねぇけどなー。これが最後の夜になるかもしれねぇし」
ヨシタケは重くため息をつく。宴を楽しみたい気持ちはあったが、明日にはザマンを倒しに行かなければならないと思うと憂鬱だった。
するとザマビリーがヨシタケの肩を組み、ニッと笑った。
「だったら、とことん楽しむっきゃねぇな! 射的やろうぜ、射的!」
「ザマビリー……」
「ほどほどにして下さいよ? 私達、射撃は素人なんですから。ちなみに、私は精霊のショーが観たいです」
ザマルタもザマビリーをたしなめつつ、自分の行きたい出店を提案する。
こういう場が苦手そうなダザドラとノストラも挙手し、希望を言った。
「我はステーキ大食い大会に参加したいぞ」
「僕は自称予言者を粛正しに行きたいかな。あと、インチキ魔法道具の冷やかしも」
「お前ら……」
(……ナイーブになってる場合じゃないな)
ヨシタケは不安な気持ちを取っ払い、拳を突き上げた。
「じゃあ、全部回るか! 今夜はノンストップパーリィナイトだぜぇー!」
「イェーイ!」
ヨシタケ達が城下町の宴へ繰り出している頃、ザマスロットは魔王城からほど近い荒野で目を覚ました。どこまでも黒い岩場が広がっており、空には暗雲が立ち込め、絶えず稲光が轟いている。遠目には、魔王城と思われる黒い城が見えた。
不思議なことに、かなりの距離を吹っ飛ばされたというのに、ザマスロットは無傷だった。
「俺は、生きているのか……?」
「気がついたようね?」
起き上がると、どこからともなく黒衣の女性が現れた。複雑に編み込まれた黒髪、闇を映したような黒い瞳、透き通った白い肌、真っ赤な口紅の美女で、大きくスリットの入った扇情的なドレスをまとい、色とりどりの宝石が散りばめられた黒い杖を手にしていた。
「貴方は?」
「私はザモーガン・ル・フェイ。しがない魔法使いよ。たまたま空から飛んできた貴方を助けて、介抱していたの。暇つぶしに記憶を覗かせてもらったけど、ずいぶん酷い目にあったのね」
「酷い目……」
ザマスロットは湖での出来事を思い出し、慌ててザモーガンを問い詰めた。
「あの後、どうなった?! エクスザマリバーの使い手は決まったのか?!」
「えぇ。前勇者のヨシタケ=ハザマが抜いたわ。おかげで、彼は勇者に復帰。王国はどこもお祭り騒ぎみたいよ?」
「そんな……!」
恐れていた事態が現実になり、ザマスロットは愕然とした。あのヨシタケに負けたと信じたくはなかった。
「……記憶を覗いたということは、俺の素性も知っているんだろう?」
「もちろんですわ、王立騎士団長ザマスロット様。このような辺境でお会いでき、感激の限りでございます」
ザモーガンは芝居がかった物言いでドレスのすそを摘み、恭しく礼をする。
ザマスロットは「世辞はいい」と鬱陶しそうに睨みつつ、尋ねた。
「それより、俺達の処遇はどうなったんだ? メルザマァルとパロザマスは、今どこにいる?」
「お仲間の居場所は分からないわ。勇者反逆罪やら詐欺罪やらで、貴方もお仲間も王国から指名手配されているから、きっと逃げ回ってるんじゃないかしら?」
「くそッ! 今まで散々働かせてきたくせに、手の裏返しやがって……!」
ザマスロットは拳で地面を叩き、怒りを露わにした。今まで演じてきた高潔な勇者の仮面は、既に捨て去っていた。
感情を剥き出しにする彼を前に、ザモーガンはニヤリと笑みを浮かべた。
「復讐したいと思わない? 貴方を裏切った王国や、貴方を出し抜いたヨシタケ達に」
「復讐したいに決まっている! このままザマンが倒されれば、俺が手に入れるはずだったものは全て、あいつに奪われてしまうんだぞ?! そんなの、許せるはずがない!」
「そうでしょう、そうでしょう」
ザモーガンは魔王城を指差し、言った。
「エリザマス姫も貴方と同じことをおっしゃっていたわ。会ったこともない勇者に助けられたくない、ザマスロットと結ばれたいって」
「それは本当か?! エリザマスと会ったことがあるのか?!」
「えぇ。私もザマンに城へ連れ去られて、無理矢理働かされていたもの。ここへは巡回で来たのよ。本当はこのまま逃げてしまおうと思っていたのだけれど、貴方がどうしてもエリザマス姫に会いたいと望むのなら、案内してあげてもいいわよ?」
その瞬間、ザマスロットはザモーガンの正体を思い出した。
ザモーガン・ル・フェイ……王国を裏切り、魔王の側近として付き従っている魔女。魔王同様、何のためらいもなく闇の〈ザマァ〉を使い、何人もの人々を苦しませてきた大罪人……。
ザマスロットが今も勇者であったなら、彼女の言葉など即座に切り捨てていただろう。だが、今の彼は何の地位もない、同類だった。
「……頼む。俺を魔王城へ連れて行ってくれ」
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「そう簡単に行くかな? あの王様、ザマスロット達の言いなりだったんだろ?」
しかしヨシタケの心配とは裏腹に、ザーマァ王は王国へ戻ってきたヨシタケを見るなり「おぉ! 本当に生きておったのか!」と号泣し、力強くヨシタケを抱きしめた。
「そなたがザマスロット達を置いて逃げたと聞いた時から、ずっと疑っておったのじゃ! 今まで何の支援もしてやれなくて、すまんかったのぉ……」
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「あんなものは、取り消しじゃ! 聖剣エクスザマリバーを手にしたそなたこそが、選ばれし勇者なのじゃからな! 元勇者ザマスロット、メルザマァル、パロザマスは、勇者反逆罪および殺人未遂および詐欺罪で指名手配する!」
ザーマァ王の鶴の一声により、ヨシタケは再び勇者に任命された。同時に、ヨシタケの仲間であるザマルタ、ダザドラ、ザマビリー、ノストラも正式に勇者パーティの一員として認められ、勇者と同等の社会的地位を与えられた。
これらの発表はザマスロット一味の指名手配も含め、映像通信で全国民に向けて大々的に発表された。突然の発表に国民達は驚きつつも、真の勇者の誕生に沸き立った。各所でお祭り騒ぎが起こり、特に王宮の城下町では既にザマンを討伐したかのような盛り上がりを見せていた。
「人、多っ?! ここは渋谷のハロウィンか、同人誌即売会か?!」
「プロフィポリスもすごかったが、比べものにならんな! 一体、どこから湧いてきた?!」
「外からじゃない? 今まで散々ヨシタケを馬鹿にしておいて、いい気なもんだよね」
魔王の城へ発つ前夜、ヨシタケ達もこっそり群衆に混じり、城下町の宴へ参加した。人が多いおかげか、ヨシタケがモブ顔だからか、誰も彼らが勇者パーティだとは気づかなかった。
広場で踊る男女、酒を酌み交わす男達、軽食やゲームの出店を楽しむ子供……いつ、ザマンに国を滅ぼされるかも分からない状況にあるとは思えないほど、城下町に集まった彼らは生き生きとした顔をしていた。
「皆さん、ヨシタケさんが聖剣を抜いたと知って嬉しいんですよ。これでやっと、ザマンの恐怖から解放されるって……」
「ま、勝てるかどうかなんて、まだ分かんねぇけどなー。これが最後の夜になるかもしれねぇし」
ヨシタケは重くため息をつく。宴を楽しみたい気持ちはあったが、明日にはザマンを倒しに行かなければならないと思うと憂鬱だった。
するとザマビリーがヨシタケの肩を組み、ニッと笑った。
「だったら、とことん楽しむっきゃねぇな! 射的やろうぜ、射的!」
「ザマビリー……」
「ほどほどにして下さいよ? 私達、射撃は素人なんですから。ちなみに、私は精霊のショーが観たいです」
ザマルタもザマビリーをたしなめつつ、自分の行きたい出店を提案する。
こういう場が苦手そうなダザドラとノストラも挙手し、希望を言った。
「我はステーキ大食い大会に参加したいぞ」
「僕は自称予言者を粛正しに行きたいかな。あと、インチキ魔法道具の冷やかしも」
「お前ら……」
(……ナイーブになってる場合じゃないな)
ヨシタケは不安な気持ちを取っ払い、拳を突き上げた。
「じゃあ、全部回るか! 今夜はノンストップパーリィナイトだぜぇー!」
「イェーイ!」
ヨシタケ達が城下町の宴へ繰り出している頃、ザマスロットは魔王城からほど近い荒野で目を覚ました。どこまでも黒い岩場が広がっており、空には暗雲が立ち込め、絶えず稲光が轟いている。遠目には、魔王城と思われる黒い城が見えた。
不思議なことに、かなりの距離を吹っ飛ばされたというのに、ザマスロットは無傷だった。
「俺は、生きているのか……?」
「気がついたようね?」
起き上がると、どこからともなく黒衣の女性が現れた。複雑に編み込まれた黒髪、闇を映したような黒い瞳、透き通った白い肌、真っ赤な口紅の美女で、大きくスリットの入った扇情的なドレスをまとい、色とりどりの宝石が散りばめられた黒い杖を手にしていた。
「貴方は?」
「私はザモーガン・ル・フェイ。しがない魔法使いよ。たまたま空から飛んできた貴方を助けて、介抱していたの。暇つぶしに記憶を覗かせてもらったけど、ずいぶん酷い目にあったのね」
「酷い目……」
ザマスロットは湖での出来事を思い出し、慌ててザモーガンを問い詰めた。
「あの後、どうなった?! エクスザマリバーの使い手は決まったのか?!」
「えぇ。前勇者のヨシタケ=ハザマが抜いたわ。おかげで、彼は勇者に復帰。王国はどこもお祭り騒ぎみたいよ?」
「そんな……!」
恐れていた事態が現実になり、ザマスロットは愕然とした。あのヨシタケに負けたと信じたくはなかった。
「……記憶を覗いたということは、俺の素性も知っているんだろう?」
「もちろんですわ、王立騎士団長ザマスロット様。このような辺境でお会いでき、感激の限りでございます」
ザモーガンは芝居がかった物言いでドレスのすそを摘み、恭しく礼をする。
ザマスロットは「世辞はいい」と鬱陶しそうに睨みつつ、尋ねた。
「それより、俺達の処遇はどうなったんだ? メルザマァルとパロザマスは、今どこにいる?」
「お仲間の居場所は分からないわ。勇者反逆罪やら詐欺罪やらで、貴方もお仲間も王国から指名手配されているから、きっと逃げ回ってるんじゃないかしら?」
「くそッ! 今まで散々働かせてきたくせに、手の裏返しやがって……!」
ザマスロットは拳で地面を叩き、怒りを露わにした。今まで演じてきた高潔な勇者の仮面は、既に捨て去っていた。
感情を剥き出しにする彼を前に、ザモーガンはニヤリと笑みを浮かべた。
「復讐したいと思わない? 貴方を裏切った王国や、貴方を出し抜いたヨシタケ達に」
「復讐したいに決まっている! このままザマンが倒されれば、俺が手に入れるはずだったものは全て、あいつに奪われてしまうんだぞ?! そんなの、許せるはずがない!」
「そうでしょう、そうでしょう」
ザモーガンは魔王城を指差し、言った。
「エリザマス姫も貴方と同じことをおっしゃっていたわ。会ったこともない勇者に助けられたくない、ザマスロットと結ばれたいって」
「それは本当か?! エリザマスと会ったことがあるのか?!」
「えぇ。私もザマンに城へ連れ去られて、無理矢理働かされていたもの。ここへは巡回で来たのよ。本当はこのまま逃げてしまおうと思っていたのだけれど、貴方がどうしてもエリザマス姫に会いたいと望むのなら、案内してあげてもいいわよ?」
その瞬間、ザマスロットはザモーガンの正体を思い出した。
ザモーガン・ル・フェイ……王国を裏切り、魔王の側近として付き従っている魔女。魔王同様、何のためらいもなく闇の〈ザマァ〉を使い、何人もの人々を苦しませてきた大罪人……。
ザマスロットが今も勇者であったなら、彼女の言葉など即座に切り捨てていただろう。だが、今の彼は何の地位もない、同類だった。
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