「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界

緋色刹那

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第6章「ザマスロットと対決、ざまぁ!」

第四話

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 全ての前衛が攻撃を終え、後衛のターンになった。

「やれやれ、やっと出番か。後衛というのはどうにも暇だねぇ」
「暇ということは、こちらが善戦している証拠です。なに、次の攻撃で終わらせますよ」
「頼むね」

 ザマスロット側の後衛であるザマァーリンは倒れているメルザマァルの元へ歩み寄り、ボソボソと何やら囁いた。
 すると何を言われたのか、見るからに悪かったメルザマァルの顔色はたちまち元に、それどころか決闘を始める前よりもつややかに、張りのあるお肌になった。

「なんですって?! 本当に?!」

 立ち上がり、目と口から出ていた泡をハンカチで拭う。鼻から垂れていた泡は片方の鼻の穴を上から指で押さえ、「フンッ」と鼻息で排出した。

「ほんと、ほんと。"最近、綺麗になったよな"って言ってたぞ?」
「うwふぁwふぉっw 教えて頂き、ありがとうございます!」
「……先輩が聞いたことない声出して喜んでるな。何言われたんだろ?」

 ノストラは毒にむしばまれ、フラフラになりつつも、メルザマァルの様子を観察する。
 瀕死だったはずの彼女の毒は完全に消え失せ、体力は全回復。おまけにあらゆるステータスが倍に上がっていた。

(さすが師匠だ……解毒だけじゃなく、毒で消耗した体を完全に癒し、強化している。あれじゃ、僕がいくら毒の〈ザマァ〉を繰り出したとしても、無意味だな)

 対して、回復役を失ったノストラは微量だった毒が悪化し、立っていられなくなるほどに弱っていた。ダウンするのも時間の問題だろう。
 ザマスロットがヨシタケを見逃してまでザマルタを優先して攻撃したのは、ノストラを戦闘不能にするためでもあったのだ。

(良い判断だ。さすがは王国騎士団団長……最も最善で、効率の良い手を打ってくる。感動するよ)

「……ちょっと、休む。後は任せたよ、ヨシタケ」
「ノストラ!」

 ノストラは膝をつき、項垂れる。その目には未だ闘志が宿っていたものの、体は動いてはくれないようだった。
 ヨシタケはたった一人で剣を構え、敵と対峙した。
 ザマスロット、メルザマァル、パロザマス……そして、ザマァーリン。最悪の三人と最強の魔法使いを前に、ヨシタケはザマスロット達からざまぁされた時のことを思い出し、攻撃に踏み込めずにいた。
 ザマスロットも同じことを思ったのか、自分の攻撃でもないというのに、おもむろに口を開いた。

「……こうして対峙していると、貴様を仕留めた"あの時"を思い出すな」
「仕留めた、だと? まるで悪者扱いじゃないか」
「実際、悪者だろう? 裏では指名手配されているのだから。仲間達を見捨て、逃げ出した愚かな勇者……それが世間から見た、貴様だ」
「違うッ! それはお前達が勝手に作り出した、マヤカシだ! みんなは本当の俺を知らないだけ……俺が全部暴露すれば、非難されるのはお前らの方だぞ! 〈ザマァ〉!」

 ヨシタケはザマスロットに向かって剣を振るい、渾身の〈ザマァ〉を放つ。
 しかし剣から出てきたのは、何の攻撃力もない涼やかな風だった。ところごころ氷の粒が混じってはいたが、ザマスロットの頬に触れると溶けて消えた。

「な、何でだよ……?! 何で〈ザマァ〉って言ったのに、攻撃が出ないんだよ!」
「俺が、お前からざまぁされたと思っていないからだ。今や、国民共はお前ではなく、俺に心酔している。いくら貴様がほざいたとて、まともに話を聞く者などいやしない。打ち明けたいなら、勝手にしろ。俺にとっては何のダメージにもならん」
「そんな……!」

 ザマスロットは剣を構え、一歩近づく。
 反射的にヨシタケは一歩、後ずさった。

「貴様が勇者として再び立ち上がったのは計算外だったが、大したことはなかったな。今度こそ、完膚なきまでに叩きのめし、二度と俺達を"ざまぁ"したいなどとは思えないようにしてやる。永久に"勇者の汚点"として生きろ。そして、死ね。〈ザマァ〉」

 ザマスロットは剣を振るい、炎の斬撃を放つ。
 恐怖の氷でも、ショックの雷でも、威圧の風でもなく、怒りの炎が現れた点は褒めてやろうと、ザマスロットは思った。

「……負けない。俺は、お前らなんかに負けないぞ!」

 ヨシタケは攻撃の衝撃に備え、剣を構える。敗北が確定している場面でも、彼は諦めはしなかった。
 それどころか、不敵に笑っていた。

(何だ? 何か企んでいるのか?)

 彼の笑みにザマスロットが違和感を抱いた瞬間、ヨシタケの前に人影が現れた。

「待てーい! 儂はお前達の悪事を全て知っておるぞ! 〈ザマァ〉!」
「っ?! その声は!」

 聞き慣れた声に、ザマスロットはハッとした。
 炎の斬撃は人影の〈ザマァ〉に反応し、消え去る。そこに立っていたのは、王宮にいるはずのザーマァ王だった。

「ざ、ザーマァ王?!」
「嘘だろ?! 何でここに?!」
「画質が荒い……映像通信だわ!」

 メルザマァルとパロザマスもザーマァ王の存在に気づき、慌てて膝をつく。
 だが、既に遅かった。ザーマァ王は三人を冷たく見下ろすと、淡々と告げた。

「話は勇者ヨシタケから全て、聞いておる。にわかに信じがたい話じゃったが、お前達の態度を見て確信した! 裏切り者はお前達じゃったのだな!」
「ち、違うのです、ザーマァ王! これには深いわけが……」

 ザマスロットが弁解しようとすると、映像が王国の子供達へと切り替わった。

「言い訳なんて聞きたくない!」
「信じてたのに!」
「騎士団長様、最低!」
「勇者様が可哀想!」
「もう二度と帰って来ないで!」

 子供達はショックを受けた様子で、口々にザマスロットを非難する。
 中には泣きじゃくる子供や、こちらに向かって石を投げようとする子供もいた。

「ち、違う……君達を裏切ったわけじゃない……!」
「今さら善人ヅラするな!」

 映像が切り替わり、ウェイスタンタウンの人々が映し出される。
 ザマスロット達を笑顔で送り出した彼らは、怒りの形相で彼らを睨んでいた。

「よくも騙したな!」
「この悪党共め!」
「二度とウェスタンタウンの土を踏めないと思え!」

 その後もザマスロット達がここへ来るまでに出会ってきた人々が現れ、彼らを痛烈に非難した。
 正直、顔もろくに覚えていない人間に何を言われてもなんとも思ってはいない。しかし彼らから一言責められるごとに、今まで積み重ねてきた信用が崩れていくように感じ、ザマスロットは絶望していった。
 そして遂には、一番出会いたくなかった人が映し出されてしまった。

「……ザマスロット」
「エリザマス?! どうやって映像通信を?!」

 現れたのは魔王城に幽閉されているはずの、エリザマス姫だった。攫われた時と同じ、ピンク色のドレスに身を包んでいる。
 エリザマス姫はキッとザマスロットを睨み、皮肉混じりに言った。

「魔王様が"面白そうだから"と仰って、繋げてくださったの。えぇ、本当に面白い余興だったわ! これがお芝居だったら良かったのに!」
「信じてくれ、エリザマス! 俺は君を魔王の手から救うために、勇者になったんだ! こんなポンコツ野郎に君を救えるはずがないと思って!」
「嘘つき! 本当は国王になって、国を牛耳るために勇者になろうとしたんでしょう?! 私への愛の言葉は、全て偽りだったのね!」
「違う! 君への愛は本当だ! 俺は君を幸せにしたくて、王になろうとしたんだ!」
「……もういい。貴方なんて、いらない」

 エリザマス姫は冷めた目でザマスロットを睨むと、映像通信を観ている人々に対して問いかけた。

「皆さん! 私は今回の件を重く受け止め、ザマスロットの勇者解任及び国外永久追放を行使するべきだと考えます! この処罰に、意義のある方はいらっしゃるでしょうか?!」
「や、やめろ! 映像通信による決議など、聞いたことがないぞ!」

 うろたえるザマスロットを尻目に、国民達は次々に現れ、賛同していく。

「意義なし」
「意義なし」
「意義なし」
「意義なし」
「意義なし」
「意義なし」

 最後に現れたザーマァ王も「意義なし」と頷いた。

「もちろん、私も意義なしです。これで貴方は勇者でもなんでもなくなりましたね。どうか、罪を悔い改めて下さい?」
「そんな……こんなのは、間違いだ!今まで散々助けてやったのに、こんな仕打ち、あんまりじゃないか!」
「知りませんよ。貴方が撒いた種でしょう? もう貴方とは幼馴染でも、恋人でも、婚約者でもありません。完全に縁を切らせてもらいます。その代わりに……」

 エリザマス姫はポッと顔を赤らめ、恥ずかしそうに、しかし堂々と宣言した。

「私は魔王様と結婚します! 私達の幸せを、どうか末長く見守っていて下さい! 〈ザマァ〉!」
「な、なんだとぉぉぉッ?!?!」

 ザマスロットが今までの人生で感じたことがないほどのショックを受けた直後、
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