「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界

緋色刹那

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第2章「スライム相手に、ざまぁ」

第四話

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 森の奥は昼間とは思えないほど木々が鬱蒼と茂り、薄暗かった。
 ヌシがいるという場所には鎖でグルグル巻きにされた石造りの祭壇があり、そこかしこにドラゴンの石像が置かれていた。その空気はピリつき、強大な何かが祭壇の奥に潜んでいるのが感じ取れた。

「……あの、なんかめっちゃドラゴンの石像置いてあるんですけど」
「置いてあるね」

 青ざめるヨシタケに対し、ザマァーリンは至って冷静にホウキから降り、祭壇へ歩み寄る。

「もしかして森のヌシって、ドラゴンなんじゃないですか?」
「そうだろうね」

 そして指先を切り、祭壇の盃へ血を垂らすと、祭壇の奥に向かって唱えた。

「ザマフォレストのヌシ、ダークザーマァドラゴンよ! 勇者ヨシタケの挑戦を受け入れ、姿を現せ!」
「今、ドラゴンって言った?! ねぇ、今ドラゴンって言ったよねぇ?! スライムをワンパン出来るようになったからって、いきなりドラゴンはキツくないですか?!」

 すると祭壇を中心に地響きが起こり、祭壇の奥で真っ赤な瞳がギラリと光った。

「……騒がしいぞ、小僧。我が眠りを妨げておきながら、戦いを拒むつもりか?」
「ひっ?! すっげぇ渋い、バリトンボイス!」

 次の瞬間、巨大な漆黒のドラゴンが祭壇を崩しながら現れた。全身が鋼鉄のウロコに覆われており、太陽の光を反射して黒光りしている。
 ドラゴンは真っ赤な瞳でヨシタケとザマァーリンを睥睨へいげいすると、同じくらい真っ赤な舌で盃に入れられたザマァーリンの血を舐め取った。

「フン、良い魔力だ。そこのヘタレそうな勇者と戦うより、貴様と戦った方が面白そうだな」
「悪いけど、私は隠居した身なんだ。今回は彼のバックアップに徹させてもらうよ」

 ザマァーリンは金のホウキに乗り、上昇する。
 そのままドラゴンを見下ろすほどの高度まで上がり、空中で留まった。本当に手を貸してはくれないらしい。

「さぁ、勇者ヨシタケ君。スライムで溜まり切った不満を、晴らす時だ。思う存分、戦いたまえ! 大丈夫、瀕死になったら助けてあげるから」
「瀕死になる前に助けて下さい。いっそ、俺の代わりにダークなんたらドラゴンを倒してくれませんか?」
「それは出来ない相談だね。これは言わば、君の卒業試験みたいなものなんだからさ」
「試験勉強なしで本番かよ……せめて、徹夜で傾向と対策を練らせて下さい」
「えー、どうせ勉強なんてせずに寝ちゃうくせに」
「くっ、バレたか」

 ヨシタケは観念して剣を抜き、ドラゴンと対峙した。どうにもこうにも、武者振るいが止まらない。剣を握る手も震え、上手く力が入らなかった。
 おそらく、ドラゴンに対する恐怖心からくる震えだろう。しかしそれ以上に、ヨシタケは本物のドラゴンを目の前にして興奮していた。

(やべぇ、超カッコいい……! こんなカッコいいドラゴンにざまぁ要素なんて、あるわけねぇよ!)

「あっ、だから強いのか! ざまぁ要素が見つけられないから!」
「そういうこと」

 ザマァーリンは頷いた。

「スライムのような弱小モンスターは見た目や性能が劣っているから、そこを突けば簡単に〈ザマァ〉出来る。でも、見栄えがいい上に性能も高いモンスターは、一見しただけでは弱点は分からない。敵のことをよく理解し、観察しなければね」
「どうした! 早く仕掛けて来い! それとも、今さら我に怖気づいたか、小僧! 〈ザマァ〉!」

 ドラゴンは痺れを切らし、ヨシタケに向かって氷の息吹を放つ。
 周囲の木々が凍てついていく中、ヨシタケは剣で防ぎ、なんとか耐えきった。

「くっ……」
「ほぉ、やるな。それでこそ、勇者だ。もっと我を楽しませよ! 〈ザマァ〉!」

 ドラゴンは愉快そうに笑い、地面を震わせる。森には暴風が吹き荒れ、ヨシタケは身動きが取れなくなる。
 皮肉で言っているのではないようで、ドラゴンは本当に楽しげであった。

(……こいつ、何でこんなに楽しそうなんだ? ずっとこの森に封じられてたせいか?)

 ヨシタケはここへ来る道中、ザマァーリンからヌシがこの森にいる理由を聞いていた。

「百年前、ヌシは王国を襲ったことで森の奥地へ封じられた。当時は魔王が世界中で暴れまくっていたせいで、人手が足らなくてね……ヌシを倒せる者はいなかったんだ。魔王が封じられた後は賞金稼ぎ達がこぞってヌシのもとを訪れたけれど、その姿を一目見るなり、逃げ出してしまったそうだよ」

(そうか……こいつはずっとここに閉じ込められて、寂しかったんだな。だから、戦うことすらも楽しいんだ。ラノベが好きな同僚を見つけて、テンションがハイになった俺と同じように)

 ヨシタケは前世での出来事を思い出し、ドラゴンと自分が重なって見えた。
 なお、後にその同僚はラノベにわかファンだと発覚し、疎遠になった。

(ともかく、弱点は分かった! まずはあいつの動きを封じる……!)

 ヨシタケはすぅっと息を吸い込むと、ドラゴンを睨み返し、叫んだ。

「ダークなんとかドラゴンって言う割には、氷と風ばっかだな! 見るからに闇属性って感じなのに、それでいいのか?! 本当は闇属性のザマァが使えないんじゃないのか?! 〈ザマァ〉!」
「ぐっ!」

 空が突如として曇り、ドラゴンに向かって雷が降る。雷はドラゴンの体に直撃し、痺れて動けなくさせた。
 ドラゴンが怯んだことで風はやみ、ヨシタケは解放された。

「う、うるさい! 我は貴様のために力をセーブしておるのだ! 闇のザマァなど使ったら、一撃で終わってしまうわ!」
「いいじゃん、一撃で終わらせた方が楽だろ? それとも、終わらせたくない理由でもあるのか? 例えば、一人になりたくないとか」

 ヨシタケはドラゴンに歩み寄り、語りかける。うっかりミスか、絶好のザマァポイントだというのに〈ザマァ〉と言わなかった。
 ザマァーリンは彼の行動を見て、ニヤッと笑った。

(今のざまぁなら、ドラゴンを即死させられたはず……なるほど、あれはワザと言わなかったな)

 ドラゴンもそれに気づき、訝しんだ。

「おい、貴様。何故、今ざまぁしなかった? 我に情けでもかけるつもりか?」
「ま、そんな感じだな」

 ヨシタケは剣を鞘へ戻すと、ドラゴンに向かって手を差し出した。

「お前……俺と一緒に来ないか?」
「はァ?!」
「フーン、面白くなってきたじゃない」

 ドラゴンは驚き、ザマァーリンは含みのある笑みを浮かべる。
 ヨシタケの目は真剣そのものだった。

「……冗談だろう?」
「いや? 俺さ、今一人なんだよね。だから、寂しいなら一緒について来ないかなと思って。ちょうど凄腕の魔女もいるし、封印やらなんやらはなんとかしてくれるだろ」
「他人任せだなぁ。でも、君の頼みならなんとかしよう」
「だってさ。どうする?」
「……」

 ドラゴンは暫し呆気に取られた後、ヨシタケにこうべを垂れた。

「……貴様がワザと〈ザマァ〉を言わなかった時点で、我の負けは決まっていた。好きにしろ」
「分かった。とりあえず、ダークうんたらかんたらドラゴンって名前、長いから、改名してもらっていいか?」
「我の名はそこまで長くないぞ」

 こうして森のヌシ、ダークザーマァドラゴンはヨシタケの契約モンスターとなり、共に行動することとなった。
 肝心の懸賞金はドラゴンを倒していないので手に入らないかと思ったが、ザマァーリンがドラゴンにかせを付けたおかげで安全だと認められ、ヨシタケに満額支払われた。

「よっしゃ! これで治療費を返済出来るぞ!」
「貴様、借金を返すために我に挑んだのか?! 命知らずにもほどがあるぞ!」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めておらん!」

 ヨシタケはドラゴンの背に乗り、ザマァーリンと並んで飛んで、ザマルタの待つ教会へと戻っていった。




〈第二章 戦況報告〉
▽シスターザマルタに治療してもらった!
▽ザマルタから治療費十万ザマドルを請求された!
▽スライムと戦闘!
▽魔女ザマァーリンがパーティに加わった!
▽スライムを倒した!
▽キノコ魔人を倒した!
(省略)
▽ダークザーマァドラゴンと対決した!
▽ダークザーマァドラゴンが仲間になった!
▽「サブクエスト:ダークザーマァドラゴンの鎮圧」をクリアした! 報酬、百万ザマドルを手に入れた!

To Be Continued……
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