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第1章「異世界転生して、ざまぁ」
第四話
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城を出発してから一時間後、ヨシタケ達は森を歩いていた。
ひと気はなく、鬱蒼としている。今にもモンスターが飛び出してきそうだった。
「なぁ、エクスザマリバーがある湖まで、どれくらいかかるんだ?」
ヨシタケは本を読みながら歩くメルザマァルに尋ねた。持ち上げるのも難しそうな分厚い本を、細腕で軽々と支えている。
しかしメルザマァルはヨシタケを一瞥しただけで、答えてはくれなかった。仕方なく、代わりにザマスロットとパロザマスに聞いた。
「俺達は今、何処に向かってるんだ? この森の先に何があるんだ?」
「……」
「……」
が、二人も口を閉ざしたまま、答えてはくれなかった。
パロザマスに至っては、困っているヨシタケを見て愉快そうにニヤニヤと笑っている。
(……何なんだ? こいつら。協力して魔王を倒す気、あるのか?)
ヨシタケは三人が何を考えているのか、全く分からなかった。
それからさらに歩き、日が傾いた頃、ふいにザマスロットが口を開いた。
「……聞いたぞ。お前、転生者なんだってな」
「転生者?」
「前世の記憶を持ったまま、転生する人間のことだ。勇者に相応しい生き方をした人間かどうか、メルに調べさせたんだ」
ザマスロットはヨシタケを振り返り、ニヤッと笑う。
ヨシタケには、その笑みがランスの嘲笑と重なって見えた。
「大して努力もせず、伝説の勇者に選ばれたくらいだ。前世ではさぞ優秀な人間だったのだろうと思っていたが……存外、平凡以下の人生だったんだな。〈ザマァ〉」
「何ぃ?!」
ザマスロットに馬鹿にされ、ヨシタケは怒りで頭が真っ白になった。
直後、ヨシタケの体が炎に覆われた。
「あっつ?! 何で火がついたんだ?!」
ヨシタケは慌てて火を消そうと、地面を転がる。
するとメルザマァルがヨシタケを冷めた目で見下ろし、本で口元を隠した。
「やだ……この勇者、子供でも簡単に習得できる水系魔法を使えないの? 〈ザマァ〉」
「えっ、そうなのか?」
ヨシタケは自分の能力の低さを思い知らされ、愕然とする。
すると、今度は体が一瞬で凍りついた。寒さも相まって、全く身動きが取れない。
(さ、寒い! これが女神が言ってた"特殊な攻撃方法"か?! こいつら、俺を殺すつもりなのか?!)
「おー、綺麗に凍りついたねぇ」
パロザマスは氷漬けになったヨシタケを氷像でも見るかのように鑑賞する。
(た、助けてくれ! せっかく転生したのに、こんなすぐ死ぬなんてあんまりだ!)
「んー、何言ってるかは分かんねぇけど、俺が君を逃がすことは万に一つとしてないよ? だって俺、ザマスロットの大親友、もとい忠実な部下だから。どうしても逃がして欲しいなら、今すぐ金払ってくれる? 一兆ザマドルくらい。まぁ、ただの村人が払える額じゃないけどね。〈ザマァ〉」
一兆ザマドルがどれほどの価値の金かは知らないが、少なくとも今この場でヨシタケが払える額ではないことは確かだった。己の無力さを突きつけられ、ヨシタケは呆然とした。
直後、鋭い突風がヨシタケを襲い、氷ごと彼を貫いた。
「ガハッ……!」
反動で氷からは解放されたものの、風によるダメージは深刻で、体のあちこちに穴があき、傷口から血が流れ出ていた。
これだけの重症を負っているにも関わらず、三人はヨシタケを助けようとはしなかった。むしろ「あともう少しで仕留められる」と言わんばかりに、殺意のこもった目で彼を見下ろしていた。
「お前ら……そんなに俺が勇者になるのが不満だったのなら、王様に言えば良かったじゃないか」
「それは出来ん。勇者は女神の神託を元に決める規則となっている。勇者が死ぬか、勇者として相応しくない人間であると認められるまでは、交代させることは出来ない。だから、俺はお前を殺さねばならないのだ」
ザマスロットは腰に刺していた剣を抜き、振りかぶった。
「そういえば、知っているか? お前の前世での想い人だった女……あの後すぐ、結婚するぞ?」
「……え?」
その瞬間、ヨシタケは頭の中が真っ白になった。
(エリが、結婚する、だと?)
「しかも相手は泉谷ランスという、お前が毛嫌いしている男だ」
「え」
(あの、イケすかない、野郎、と?)
「ついでに言うと、お前の想い人だった女は、金目当てで男と結婚するらしい。男の親が資産家で、男が実家の会社を継いだら大金持ちになるからだそうだ」
「そんな……」
(嘘だ……あのエリが、金目当てで結婚するなんて)
ヨシタケはまだあどけなかった頃のエリを思い浮かべ、愕然とする。彼の頭の中のエリは、純粋な小学生のままだった。
ザマスロットは充分過ぎるほどのショックをヨシタケに与えると、渾身の力をもって剣を振り下ろした。
「平民のお前には、最初からチャンスなんて無かったんだよ! 〈ザマァァァァ〉!」
剣はザマスロットの声に応えるように、薄く紫がかった雷を放った。
雷は呆然と立ち尽くしていたヨシタケに直撃した。
「ギャァァァッ!」
ヨシタケは雷の衝撃に絶叫しながら、失神した。体に電流が走り、ピクピクと痙攣している。
エリのその後を知ったショックと同じくらい、すさまじい威力の攻撃だった。
「これで良し。帰るぞ」
ザマスロットはヨシタケを放置し、来た道を戻った。
メルザマァルとパロザマスも後に続く。
「"哀れ! 勇者ヨシタケ、モンスターを目前に逃亡! 次期勇者は王立騎士団団長、ザマスロットか?!"……明日の朝刊の見出しは決まったな」
「一切抵抗出来ないなんて、あの勇者ポンコツ過ぎるでしょ。絶対、ザマスロットの方が勇者に向いてるって。王様も戦力外通告を受け入れて下さるはずよ」
「受け入れてくれなくては、困る。三人で一人の人間を一方的にざまぁするなど、騎士としてあるまじき汚点……相応の見返りが無くてはな」
三人は城に戻ると、王様に報告した。
ヨシタケがいくら鍛錬をしても、〈ザマァ〉を発動出来なかったこと、モンスターに出くわし、そのまま逃亡したこと、あのような軟弱者は勇者に相応しくないこと……。
そして、勇者をパーティから追い出すための書類、「戦力外通告書」を王様に提出した。
王様はしばらく悩んでいたが、「勇者不在のままでは冒険を始められない」として書類を受理し、ザマスロットを次期勇者に選んだ。
ザマスロットはメルザマァルとパロザマスを率い、念願だった勇者ライフをスタートさせた。
「……待っていて下さい、姫様。貴方のことは必ずや、このザマスロットが救ってみせます」
〈第1章 戦況報告〉
▽異世界に転生した!
▽ヨシタケは勇者になった!
▽騎士ザマスロット、賢者メルザマァル、槍使いパロザマスが仲間になった!
▽冒険に出発した!
▽騎士ザマスロット、賢者メルザマァル、槍使いパロザマスが奇襲を仕掛けてきた!
▽ヨシタケは目の前が真っ暗になった……。
▽騎士ザマスロット、賢者メルザマァル、槍使いパロザマスがパーティを離脱した……。
To be continued……
ひと気はなく、鬱蒼としている。今にもモンスターが飛び出してきそうだった。
「なぁ、エクスザマリバーがある湖まで、どれくらいかかるんだ?」
ヨシタケは本を読みながら歩くメルザマァルに尋ねた。持ち上げるのも難しそうな分厚い本を、細腕で軽々と支えている。
しかしメルザマァルはヨシタケを一瞥しただけで、答えてはくれなかった。仕方なく、代わりにザマスロットとパロザマスに聞いた。
「俺達は今、何処に向かってるんだ? この森の先に何があるんだ?」
「……」
「……」
が、二人も口を閉ざしたまま、答えてはくれなかった。
パロザマスに至っては、困っているヨシタケを見て愉快そうにニヤニヤと笑っている。
(……何なんだ? こいつら。協力して魔王を倒す気、あるのか?)
ヨシタケは三人が何を考えているのか、全く分からなかった。
それからさらに歩き、日が傾いた頃、ふいにザマスロットが口を開いた。
「……聞いたぞ。お前、転生者なんだってな」
「転生者?」
「前世の記憶を持ったまま、転生する人間のことだ。勇者に相応しい生き方をした人間かどうか、メルに調べさせたんだ」
ザマスロットはヨシタケを振り返り、ニヤッと笑う。
ヨシタケには、その笑みがランスの嘲笑と重なって見えた。
「大して努力もせず、伝説の勇者に選ばれたくらいだ。前世ではさぞ優秀な人間だったのだろうと思っていたが……存外、平凡以下の人生だったんだな。〈ザマァ〉」
「何ぃ?!」
ザマスロットに馬鹿にされ、ヨシタケは怒りで頭が真っ白になった。
直後、ヨシタケの体が炎に覆われた。
「あっつ?! 何で火がついたんだ?!」
ヨシタケは慌てて火を消そうと、地面を転がる。
するとメルザマァルがヨシタケを冷めた目で見下ろし、本で口元を隠した。
「やだ……この勇者、子供でも簡単に習得できる水系魔法を使えないの? 〈ザマァ〉」
「えっ、そうなのか?」
ヨシタケは自分の能力の低さを思い知らされ、愕然とする。
すると、今度は体が一瞬で凍りついた。寒さも相まって、全く身動きが取れない。
(さ、寒い! これが女神が言ってた"特殊な攻撃方法"か?! こいつら、俺を殺すつもりなのか?!)
「おー、綺麗に凍りついたねぇ」
パロザマスは氷漬けになったヨシタケを氷像でも見るかのように鑑賞する。
(た、助けてくれ! せっかく転生したのに、こんなすぐ死ぬなんてあんまりだ!)
「んー、何言ってるかは分かんねぇけど、俺が君を逃がすことは万に一つとしてないよ? だって俺、ザマスロットの大親友、もとい忠実な部下だから。どうしても逃がして欲しいなら、今すぐ金払ってくれる? 一兆ザマドルくらい。まぁ、ただの村人が払える額じゃないけどね。〈ザマァ〉」
一兆ザマドルがどれほどの価値の金かは知らないが、少なくとも今この場でヨシタケが払える額ではないことは確かだった。己の無力さを突きつけられ、ヨシタケは呆然とした。
直後、鋭い突風がヨシタケを襲い、氷ごと彼を貫いた。
「ガハッ……!」
反動で氷からは解放されたものの、風によるダメージは深刻で、体のあちこちに穴があき、傷口から血が流れ出ていた。
これだけの重症を負っているにも関わらず、三人はヨシタケを助けようとはしなかった。むしろ「あともう少しで仕留められる」と言わんばかりに、殺意のこもった目で彼を見下ろしていた。
「お前ら……そんなに俺が勇者になるのが不満だったのなら、王様に言えば良かったじゃないか」
「それは出来ん。勇者は女神の神託を元に決める規則となっている。勇者が死ぬか、勇者として相応しくない人間であると認められるまでは、交代させることは出来ない。だから、俺はお前を殺さねばならないのだ」
ザマスロットは腰に刺していた剣を抜き、振りかぶった。
「そういえば、知っているか? お前の前世での想い人だった女……あの後すぐ、結婚するぞ?」
「……え?」
その瞬間、ヨシタケは頭の中が真っ白になった。
(エリが、結婚する、だと?)
「しかも相手は泉谷ランスという、お前が毛嫌いしている男だ」
「え」
(あの、イケすかない、野郎、と?)
「ついでに言うと、お前の想い人だった女は、金目当てで男と結婚するらしい。男の親が資産家で、男が実家の会社を継いだら大金持ちになるからだそうだ」
「そんな……」
(嘘だ……あのエリが、金目当てで結婚するなんて)
ヨシタケはまだあどけなかった頃のエリを思い浮かべ、愕然とする。彼の頭の中のエリは、純粋な小学生のままだった。
ザマスロットは充分過ぎるほどのショックをヨシタケに与えると、渾身の力をもって剣を振り下ろした。
「平民のお前には、最初からチャンスなんて無かったんだよ! 〈ザマァァァァ〉!」
剣はザマスロットの声に応えるように、薄く紫がかった雷を放った。
雷は呆然と立ち尽くしていたヨシタケに直撃した。
「ギャァァァッ!」
ヨシタケは雷の衝撃に絶叫しながら、失神した。体に電流が走り、ピクピクと痙攣している。
エリのその後を知ったショックと同じくらい、すさまじい威力の攻撃だった。
「これで良し。帰るぞ」
ザマスロットはヨシタケを放置し、来た道を戻った。
メルザマァルとパロザマスも後に続く。
「"哀れ! 勇者ヨシタケ、モンスターを目前に逃亡! 次期勇者は王立騎士団団長、ザマスロットか?!"……明日の朝刊の見出しは決まったな」
「一切抵抗出来ないなんて、あの勇者ポンコツ過ぎるでしょ。絶対、ザマスロットの方が勇者に向いてるって。王様も戦力外通告を受け入れて下さるはずよ」
「受け入れてくれなくては、困る。三人で一人の人間を一方的にざまぁするなど、騎士としてあるまじき汚点……相応の見返りが無くてはな」
三人は城に戻ると、王様に報告した。
ヨシタケがいくら鍛錬をしても、〈ザマァ〉を発動出来なかったこと、モンスターに出くわし、そのまま逃亡したこと、あのような軟弱者は勇者に相応しくないこと……。
そして、勇者をパーティから追い出すための書類、「戦力外通告書」を王様に提出した。
王様はしばらく悩んでいたが、「勇者不在のままでは冒険を始められない」として書類を受理し、ザマスロットを次期勇者に選んだ。
ザマスロットはメルザマァルとパロザマスを率い、念願だった勇者ライフをスタートさせた。
「……待っていて下さい、姫様。貴方のことは必ずや、このザマスロットが救ってみせます」
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▽ヨシタケは勇者になった!
▽騎士ザマスロット、賢者メルザマァル、槍使いパロザマスが仲間になった!
▽冒険に出発した!
▽騎士ザマスロット、賢者メルザマァル、槍使いパロザマスが奇襲を仕掛けてきた!
▽ヨシタケは目の前が真っ暗になった……。
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To be continued……
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