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最終編『蛍火明滅、〈探し人〉のゆく先』
第十一話「魔女の家」⑷
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確かに、永遠野は若い頃の祖母に似ている。だが、現在の祖母は七、八十代の老人のはずだ。失踪した当時も、ここまで若くはなかった。
そんな由良の疑問に答えるかのように、永遠野は自身の秘密を打ち明けた。
「未練街の影響でね、姿だけが若くなったの。髪と目の色は私の願望。一度でいいから染めてみたいと思っていたのよ」
「私が孫だと、はじめから気づいていたんですか?」
「いいえ。ベラドンナに監視はさせていたけど、それは新しい住人になるかもしれない人だったからだし。もしかしたらって思ったのは、農園で自己紹介してもらったときね。添野姓は洋燈町では珍しいし、何より貴方の顔が蛍太郎にそっくりだったから。決定的だったのは、さっきの写真ね。私も同じ写真を持っているのよ」
永遠野は先ほど由良が見せた写真と全く同じ写真を取り出した。
構図も、写っている人物も一致している。よほど厳重に保管しているのか、昨日今日焼き増したかのように、状態が綺麗に保たれていた。
永遠野の話が本当だと証明することはできない。が、そのような嘘をつくメリットもない。
(とりあえず信じてみるか)
由良はさっそく、祖母に会ったら言おうと思っていた言葉を口にした。
「何はともあれ、生きてお会いできて良かったです。一緒に洋燈町へ帰りましょう」
「帰って、どうするの?」
永遠野は寂しげに目を伏せた。
「私が大切にしていたものは、何もかも失われてしまった。今さら戻ったところで、つらくなるだけよ」
それに、と永遠野は憐れむような視線を由良に向けた。
「貴方も帰らない方がいいわ。私と同じように、周りから忘れられているでしょうから」
「ご心配なく。朝になるまでには戻るつもりなので」
「……蛍太郎から何も聞いていないのね」
永遠野は空を見上げた。
オーロラがたなびく、夜の空。日が昇ってくる気配はない。だから……由良は安心していた。
「未練街はね、夜が明けない〈未練溜まり〉なの。だから、いつまで経っても夜のままなのよ」
「……え」
絶句する由良。
さらに、永遠野は残酷な現実を告げた。
「その上、現実よりも遅く時間が流れている。貴方は数時間だけ未練街にいたつもりでしょうけど、現実ではとっくに朝を迎えているはずよ。それどころか、一日、一週間、一ヶ月、一年、あるいはそれ以上経っていてもおかしくない。そんな長い時間、〈未練溜まり〉にいたらどうなるか……貴方なら分かるんじゃない?」
「……」
〈未練溜まり〉に捨てられた〈心の落とし物〉や〈探し人〉は徐々に忘れられ、やがて完全に無かったものとなってしまう。
それは人間も同じ。現に、祖母は〈未練溜まり〉へ行った日を境に忘れられ、死んだものとされてしまった。祖母をまともに覚えていたのは、祖父くらいだろう。
永遠野の言うとおり、由良もかなりの時間を未練街で過ごしていたのだとしたら……現実では今頃、とんでもないことになっているのではないだろうか?
(……どうしよう。LAMP、潰れたかもしれない。それとも、私だけがいなくなったことになって、中林さん達が店を回してくれてる? 紅葉谷さん、他の人と付き合っていたりして)
いつもと変わらないLAMP。活気にあふれ、笑顔が絶えない。
だが、そこに由良の姿はない。従業員も、お客も、友人も、両親さえも、由良の不在に気づかない。最愛の人の隣には、知らない誰かがいる。
そんなイメージが頭に浮かび、青ざめた。不安、そして絶望。大切なものを次々に失った祖母の気持ちを、初めて心から理解できた気がした。
(永遠野さん……おばあちゃんの言うとおり、戻らないほうがいい? ここでおばあちゃんと過ごしていれば、傷つかずに済む? それとも私が現実に戻れば、何もかも元に戻る? まだ手遅れじゃない?)
由良は頭を抱えた。
そんな由良の疑問に答えるかのように、永遠野は自身の秘密を打ち明けた。
「未練街の影響でね、姿だけが若くなったの。髪と目の色は私の願望。一度でいいから染めてみたいと思っていたのよ」
「私が孫だと、はじめから気づいていたんですか?」
「いいえ。ベラドンナに監視はさせていたけど、それは新しい住人になるかもしれない人だったからだし。もしかしたらって思ったのは、農園で自己紹介してもらったときね。添野姓は洋燈町では珍しいし、何より貴方の顔が蛍太郎にそっくりだったから。決定的だったのは、さっきの写真ね。私も同じ写真を持っているのよ」
永遠野は先ほど由良が見せた写真と全く同じ写真を取り出した。
構図も、写っている人物も一致している。よほど厳重に保管しているのか、昨日今日焼き増したかのように、状態が綺麗に保たれていた。
永遠野の話が本当だと証明することはできない。が、そのような嘘をつくメリットもない。
(とりあえず信じてみるか)
由良はさっそく、祖母に会ったら言おうと思っていた言葉を口にした。
「何はともあれ、生きてお会いできて良かったです。一緒に洋燈町へ帰りましょう」
「帰って、どうするの?」
永遠野は寂しげに目を伏せた。
「私が大切にしていたものは、何もかも失われてしまった。今さら戻ったところで、つらくなるだけよ」
それに、と永遠野は憐れむような視線を由良に向けた。
「貴方も帰らない方がいいわ。私と同じように、周りから忘れられているでしょうから」
「ご心配なく。朝になるまでには戻るつもりなので」
「……蛍太郎から何も聞いていないのね」
永遠野は空を見上げた。
オーロラがたなびく、夜の空。日が昇ってくる気配はない。だから……由良は安心していた。
「未練街はね、夜が明けない〈未練溜まり〉なの。だから、いつまで経っても夜のままなのよ」
「……え」
絶句する由良。
さらに、永遠野は残酷な現実を告げた。
「その上、現実よりも遅く時間が流れている。貴方は数時間だけ未練街にいたつもりでしょうけど、現実ではとっくに朝を迎えているはずよ。それどころか、一日、一週間、一ヶ月、一年、あるいはそれ以上経っていてもおかしくない。そんな長い時間、〈未練溜まり〉にいたらどうなるか……貴方なら分かるんじゃない?」
「……」
〈未練溜まり〉に捨てられた〈心の落とし物〉や〈探し人〉は徐々に忘れられ、やがて完全に無かったものとなってしまう。
それは人間も同じ。現に、祖母は〈未練溜まり〉へ行った日を境に忘れられ、死んだものとされてしまった。祖母をまともに覚えていたのは、祖父くらいだろう。
永遠野の言うとおり、由良もかなりの時間を未練街で過ごしていたのだとしたら……現実では今頃、とんでもないことになっているのではないだろうか?
(……どうしよう。LAMP、潰れたかもしれない。それとも、私だけがいなくなったことになって、中林さん達が店を回してくれてる? 紅葉谷さん、他の人と付き合っていたりして)
いつもと変わらないLAMP。活気にあふれ、笑顔が絶えない。
だが、そこに由良の姿はない。従業員も、お客も、友人も、両親さえも、由良の不在に気づかない。最愛の人の隣には、知らない誰かがいる。
そんなイメージが頭に浮かび、青ざめた。不安、そして絶望。大切なものを次々に失った祖母の気持ちを、初めて心から理解できた気がした。
(永遠野さん……おばあちゃんの言うとおり、戻らないほうがいい? ここでおばあちゃんと過ごしていれば、傷つかずに済む? それとも私が現実に戻れば、何もかも元に戻る? まだ手遅れじゃない?)
由良は頭を抱えた。
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