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最終編『蛍火明滅、〈探し人〉のゆく先』
第一話「洋燈商店街発、〈未練溜まり〉行き」⑴
しおりを挟むガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
路面電車は闇の中を走る。ライトの先には線路しか見えない。
窓には退屈そうな由良自身の顔が映っていた。
(……何も見えないと暇だな。〈未練溜まり〉まで、あとどのくらいかかるんだろう?)
由良は祖母の美緑に会いに、路面電車で〈未練溜まり〉へ向かっていた。
普通の人間には見えない、〈探し人〉専用の路面電車だ。祖父の日記によれば、祖母もこの路面電車に乗って〈未練溜まり〉へ消えたらしい。大切なものを失う苦しみに耐えられず、〈未練溜まり〉に沈んだ思い出と共に生きる道を選んだのだ。
渡来屋には「間違っても会いに行こうなどとは思うなよ」と忠告された。実際、行けば会える保証などない。見つからないかもしれないし、そもそも亡くなっているかもしれない。
それでも由良は祖母を探したかった。会って聞きたい話も、伝えたいことも山ほどある。そして叶うなら、祖母を洋燈町へ連れて帰りたかった。
退屈しのぎに、車内を見回す。
路面電車には由良の他に、高校生くらいの制服を着た女子と黒猫が乗っていた。女子高生は由良の斜め向かいに座り、黒猫は網棚のすみで丸まっている。
この電車に乗っているということは、彼らも〈探し人〉なのだろう。
それも、存在を完全に忘れられた〈探し人〉だ。どんな身の上か興味をそそられる。
しかし女子高生はガラケー、黒猫は昼寝に夢中で、話を聞ける雰囲気ではなかった。特に女子高生はゲームでもしているのか、ひどく焦っている。
(ガラケー、懐かしいな。服装も、ひと昔前のギャルみたいな格好してるし)
ストレートの長い黒髪、細眉、丈の短いスカート、ルーズソックス、そして派手なシールやキーホルダーでデコったガラケー……まるで平成初期からタイムスリップしてきたようだ。由良のクラスにも似た格好をした同級生がいたので懐かしい。思わずまじまじと見てしまう。
ふいに、女子高生がガラケーを操作していた手を止めた。ため息をつき、気だるげに手足を投げ出す。顔を上げた拍子に、由良と目が合った。
「こんばんは」
「あ……ども」
女子高生は慌てて姿勢を正す。ガラケーに夢中で、由良の存在に気づいていなかったらしい。
「すみません、ジッと見てしまって。懐かしい格好だなーと思って、つい」
女子高生は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「今時こんな格好してるの、私くらいですよ」
「そんなことないですよ。最近の学生さんでもルーズソックス履いてる子、結構いますよ」
「あの子達は今風にアレンジしているからオシャレに見えるんです。洗練されているというか、垢抜けているというか……私が〈探し人〉じゃなければ、とっくに着替えていますよ」
由良は驚いた。
彼女は自分が〈探し人〉だと知っている。どうりで、歳の割に口調が大人びているはずだ。
「貴方、ご自身が〈探し人〉だって気づいているんですか?」
女子高生は「えぇ」と自嘲気味に笑った。
「スマホが普及し始めた頃に、やっと。ファッションは当時のままでも、ガラケーを使う子は減る一方でしたから」
「この電車の行き先もご存知で?」
「〈未練溜まり〉でしょう? 渡来屋さんから聞きました。私の〈心の落とし物〉は用意できない、探すのを諦めたいなら乗るといいって」
渡来屋は世界中から〈心の落とし物〉を集め、〈探し人〉に高値で売りつけている。金のためなら、危険な〈未練溜まり〉にだって出向く。
そんな彼が〈心の落とし物〉を「用意できない」と言い切ったのは、にわかに信じがたかった。渡来屋が売る商品は季節ごとに変わるため、「今は買えない」と断られることはあっても、「用意できない」ことはなかった。
「どんな〈心の落とし物〉を探していたんですか?」
女子高生はガラケーに視線を落とし、答えた。
「彼氏からのメールです。もう、この世にはいないんですけど」
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