245 / 314
春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第四話「イースター・あの日割れた卵」⑷
しおりを挟む ひき逃げ事故から三ヶ月。
骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。
事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。
療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。
女は夢を見る。
友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
何人か、こちらをチラチラと見てきた。
こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
そう友人たちに伝える。
体を揺すられ、女は目を覚ました。
講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」
さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。
どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。
七人になった集団で食堂へ向かう。
女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。
(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)
夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。
(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)
痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
すると、前を歩いている友人が振り向いた。
「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」
さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。
女の頭に強い痛みが走る。
夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
女は思わず顔をしかめた。
その反応に友人たちに緊張が走る。
一瞬、沈黙が空間を支配した。
すぐに女は自身の失態に気づく。
「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」
だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。
その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。
骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。
事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。
療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。
女は夢を見る。
友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
何人か、こちらをチラチラと見てきた。
こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
そう友人たちに伝える。
体を揺すられ、女は目を覚ました。
講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」
さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。
どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。
七人になった集団で食堂へ向かう。
女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。
(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)
夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。
(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)
痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
すると、前を歩いている友人が振り向いた。
「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」
さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。
女の頭に強い痛みが走る。
夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
女は思わず顔をしかめた。
その反応に友人たちに緊張が走る。
一瞬、沈黙が空間を支配した。
すぐに女は自身の失態に気づく。
「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」
だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。
その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
キスより甘いスパイス
凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。
ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。
彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。
「先生、俺と結婚してください!」
と大胆な告白をする。
奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
夕立ち〈改正版〉
深夜ラジオ
現代文学
「手だけ握らせて。それ以上は絶対にしないって約束するから。」 誰とも顔を合わせたくない、だけど一人で家にいるのは辛いという人たちが集まる夜だけ営業の喫茶店。年の差、境遇が全く違う在日コリアン男性との束の間の身を焦がす恋愛と40代という苦悩と葛藤を描く人生ストーリー。
※スマートフォンでも読みやすいように改正しました。
実はこれ実話なんですよ
tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる