237 / 314
春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第二話「世界にひとつもない人形」⑶
しおりを挟む
やがて、一人の女の子がビビットピンクの髪のレカちゃん人形を、複数人の子供達がドールハウスを抱え、戻ってきた。〈心の落とし物〉を見つけられなかった子供も、代わりの戦利品を手に入れ、満足そうだ。
「はい、お姉さん」
「ありがとう、みんな」
〈探し人〉の女性は感動で目を潤ませ、人形とドールハウスを受け取る。由良も初めて見るレカちゃんとドールハウスに目が釘づけになった。
女性は最初は嬉しそうだった。が、次第に顔が強張っていき、ついには人形とドールハウスを抱きしめ、泣き出した。
「ごめんね、ごめんね……!」
「ど、どうしました?」
「……思い出したんです。なぜ、レカちゃんとドールハウスを失くしてしまったのか。なぜ、このレカちゃんとドールハウスが売っていなかったのか」
女性はレカちゃんの髪を愛おしそうに撫でる。ところどころ色が落ち、元の金色が見えていた。
「自分でデコったんです。絵の具とかシールとか使って。そして、捨てたんです」
女性は早く大人になりたかった。
子供だった過去を捨てれば、大人になれると思っていた。
だから、捨てた。お気に入りだった人形もドールハウスも、何もかも。
髪はペンで一本一本塗った。ドールハウスはシールや折り紙で装飾した。服や小物も自分で作った。
けれど、「子供っぽい」と小学校高学年くらいから遊ばなくなった。中学校に上がると、完全に置物になった。
そしてとうとう、一人暮らしを期に断捨離してしまった。人形も、ドールハウスも、拙い出来の服や小物も、全て手放した。
捨てた時は、生まれ変わったような気分だった。幼稚な遊びをしていた自分はもういないのだ、と。
その選択が間違いだと気づいたのは、会社で懐かしいオモチャを見つけた瞬間だった。
「私、本当は舞台衣装のデザイナーになりたかったんです。でも、どこも採用してもらえなくて……唯一受かったのが、今働いているオモチャ会社でした。会社のエントランスには代表的なオモチャがたくさん飾ってありました。私も持っていた物もあって、とても懐かしい気持ちになりました。同時に、お気に入りだったレカちゃんとドールハウスを捨ててしまったことを後悔しました。同じ型のものが売っていないか調べたところ、どちらも廃盤でプレミアがつき、手の届かない額にまで吊り上がっていました」
オモチャといえど、人気で生産数の少ないものほど価値は高い。当時どこでも売っていたからといって、現在もあるとは限らないのだ。
〈探し人〉の女性は袖で涙を拭い、人形とドールハウスに優しく微笑みかけた。
「もう二度と、手放したりなんかしない。子供のオモチャでも、私にとっては大切な宝物だもの」
ひとしきり人形とドールハウスを取り戻した喜びに浸ると、女性は約束どおり子供達とドールハウスで遊んだ。稚拙なごっこ遊びではあったが、女性は楽しかったらしく、次第に彼らと同じ子供の姿に変わっていった。
由良がLAMPの飾りを探しに下へ行き、戻ってくると、渡来屋以外全員消えていた。
「満足したの?」
「そうらしい。〈心の落とし物〉も持って行ったよ。お前のほうは? 探し物は見つかったのか?」
「えぇ。ちょっと予想外のお宝も見つけたけど」
由良は一階と地下室で見つけた、飾りとお宝を渡来屋に見せた。
「はい、お姉さん」
「ありがとう、みんな」
〈探し人〉の女性は感動で目を潤ませ、人形とドールハウスを受け取る。由良も初めて見るレカちゃんとドールハウスに目が釘づけになった。
女性は最初は嬉しそうだった。が、次第に顔が強張っていき、ついには人形とドールハウスを抱きしめ、泣き出した。
「ごめんね、ごめんね……!」
「ど、どうしました?」
「……思い出したんです。なぜ、レカちゃんとドールハウスを失くしてしまったのか。なぜ、このレカちゃんとドールハウスが売っていなかったのか」
女性はレカちゃんの髪を愛おしそうに撫でる。ところどころ色が落ち、元の金色が見えていた。
「自分でデコったんです。絵の具とかシールとか使って。そして、捨てたんです」
女性は早く大人になりたかった。
子供だった過去を捨てれば、大人になれると思っていた。
だから、捨てた。お気に入りだった人形もドールハウスも、何もかも。
髪はペンで一本一本塗った。ドールハウスはシールや折り紙で装飾した。服や小物も自分で作った。
けれど、「子供っぽい」と小学校高学年くらいから遊ばなくなった。中学校に上がると、完全に置物になった。
そしてとうとう、一人暮らしを期に断捨離してしまった。人形も、ドールハウスも、拙い出来の服や小物も、全て手放した。
捨てた時は、生まれ変わったような気分だった。幼稚な遊びをしていた自分はもういないのだ、と。
その選択が間違いだと気づいたのは、会社で懐かしいオモチャを見つけた瞬間だった。
「私、本当は舞台衣装のデザイナーになりたかったんです。でも、どこも採用してもらえなくて……唯一受かったのが、今働いているオモチャ会社でした。会社のエントランスには代表的なオモチャがたくさん飾ってありました。私も持っていた物もあって、とても懐かしい気持ちになりました。同時に、お気に入りだったレカちゃんとドールハウスを捨ててしまったことを後悔しました。同じ型のものが売っていないか調べたところ、どちらも廃盤でプレミアがつき、手の届かない額にまで吊り上がっていました」
オモチャといえど、人気で生産数の少ないものほど価値は高い。当時どこでも売っていたからといって、現在もあるとは限らないのだ。
〈探し人〉の女性は袖で涙を拭い、人形とドールハウスに優しく微笑みかけた。
「もう二度と、手放したりなんかしない。子供のオモチャでも、私にとっては大切な宝物だもの」
ひとしきり人形とドールハウスを取り戻した喜びに浸ると、女性は約束どおり子供達とドールハウスで遊んだ。稚拙なごっこ遊びではあったが、女性は楽しかったらしく、次第に彼らと同じ子供の姿に変わっていった。
由良がLAMPの飾りを探しに下へ行き、戻ってくると、渡来屋以外全員消えていた。
「満足したの?」
「そうらしい。〈心の落とし物〉も持って行ったよ。お前のほうは? 探し物は見つかったのか?」
「えぇ。ちょっと予想外のお宝も見つけたけど」
由良は一階と地下室で見つけた、飾りとお宝を渡来屋に見せた。
0
あなたにおすすめの小説
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
闇夜の姫は、破壊王子に溺愛される。
カヨワイさつき
恋愛
物心ついた時から眠ると、うなされる女の子がいた。
目の下には、いつもクマがある、オリービア。
一方、デルラン王国の第4王子。
ヴィルは、産まれた時から魔力量が多く、
いつも何かしら壊していた。
そんなある日、貴族の成人を祝う儀が
王城で行われることになった。
興味はなかったはずが……。
完結しました❤
お気に入り登録、投票、ありがとうございます。
読んでくださった皆様に、感謝。
すごくうれしいです。😁
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
【完結】雨の日に会えるあなたに恋をした。 第7回ほっこりじんわり大賞奨励賞受賞
衿乃 光希
恋愛
同僚と合わず3年勤めた仕事を退職した彩綺(さいき)。縁があって私設植物園に併設されている喫茶店でアルバイトを始める。そこに雨の日にだけやってくる男性がいた。彼はスタッフの間で『雨の君』と呼ばれているようで、彩綺はミステリアスな彼が気になって・・・。初めての恋に戸惑いながら、本をきっかけに彼との距離を縮めていく。初恋のどきどきをお楽しみください。 第7回ほっこり・じんわり大賞奨励賞を頂きました。応援ありがとうございました。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる