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春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第二話「世界にひとつもない人形」⑶
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やがて、一人の女の子がビビットピンクの髪のレカちゃん人形を、複数人の子供達がドールハウスを抱え、戻ってきた。〈心の落とし物〉を見つけられなかった子供も、代わりの戦利品を手に入れ、満足そうだ。
「はい、お姉さん」
「ありがとう、みんな」
〈探し人〉の女性は感動で目を潤ませ、人形とドールハウスを受け取る。由良も初めて見るレカちゃんとドールハウスに目が釘づけになった。
女性は最初は嬉しそうだった。が、次第に顔が強張っていき、ついには人形とドールハウスを抱きしめ、泣き出した。
「ごめんね、ごめんね……!」
「ど、どうしました?」
「……思い出したんです。なぜ、レカちゃんとドールハウスを失くしてしまったのか。なぜ、このレカちゃんとドールハウスが売っていなかったのか」
女性はレカちゃんの髪を愛おしそうに撫でる。ところどころ色が落ち、元の金色が見えていた。
「自分でデコったんです。絵の具とかシールとか使って。そして、捨てたんです」
女性は早く大人になりたかった。
子供だった過去を捨てれば、大人になれると思っていた。
だから、捨てた。お気に入りだった人形もドールハウスも、何もかも。
髪はペンで一本一本塗った。ドールハウスはシールや折り紙で装飾した。服や小物も自分で作った。
けれど、「子供っぽい」と小学校高学年くらいから遊ばなくなった。中学校に上がると、完全に置物になった。
そしてとうとう、一人暮らしを期に断捨離してしまった。人形も、ドールハウスも、拙い出来の服や小物も、全て手放した。
捨てた時は、生まれ変わったような気分だった。幼稚な遊びをしていた自分はもういないのだ、と。
その選択が間違いだと気づいたのは、会社で懐かしいオモチャを見つけた瞬間だった。
「私、本当は舞台衣装のデザイナーになりたかったんです。でも、どこも採用してもらえなくて……唯一受かったのが、今働いているオモチャ会社でした。会社のエントランスには代表的なオモチャがたくさん飾ってありました。私も持っていた物もあって、とても懐かしい気持ちになりました。同時に、お気に入りだったレカちゃんとドールハウスを捨ててしまったことを後悔しました。同じ型のものが売っていないか調べたところ、どちらも廃盤でプレミアがつき、手の届かない額にまで吊り上がっていました」
オモチャといえど、人気で生産数の少ないものほど価値は高い。当時どこでも売っていたからといって、現在もあるとは限らないのだ。
〈探し人〉の女性は袖で涙を拭い、人形とドールハウスに優しく微笑みかけた。
「もう二度と、手放したりなんかしない。子供のオモチャでも、私にとっては大切な宝物だもの」
ひとしきり人形とドールハウスを取り戻した喜びに浸ると、女性は約束どおり子供達とドールハウスで遊んだ。稚拙なごっこ遊びではあったが、女性は楽しかったらしく、次第に彼らと同じ子供の姿に変わっていった。
由良がLAMPの飾りを探しに下へ行き、戻ってくると、渡来屋以外全員消えていた。
「満足したの?」
「そうらしい。〈心の落とし物〉も持って行ったよ。お前のほうは? 探し物は見つかったのか?」
「えぇ。ちょっと予想外のお宝も見つけたけど」
由良は一階と地下室で見つけた、飾りとお宝を渡来屋に見せた。
「はい、お姉さん」
「ありがとう、みんな」
〈探し人〉の女性は感動で目を潤ませ、人形とドールハウスを受け取る。由良も初めて見るレカちゃんとドールハウスに目が釘づけになった。
女性は最初は嬉しそうだった。が、次第に顔が強張っていき、ついには人形とドールハウスを抱きしめ、泣き出した。
「ごめんね、ごめんね……!」
「ど、どうしました?」
「……思い出したんです。なぜ、レカちゃんとドールハウスを失くしてしまったのか。なぜ、このレカちゃんとドールハウスが売っていなかったのか」
女性はレカちゃんの髪を愛おしそうに撫でる。ところどころ色が落ち、元の金色が見えていた。
「自分でデコったんです。絵の具とかシールとか使って。そして、捨てたんです」
女性は早く大人になりたかった。
子供だった過去を捨てれば、大人になれると思っていた。
だから、捨てた。お気に入りだった人形もドールハウスも、何もかも。
髪はペンで一本一本塗った。ドールハウスはシールや折り紙で装飾した。服や小物も自分で作った。
けれど、「子供っぽい」と小学校高学年くらいから遊ばなくなった。中学校に上がると、完全に置物になった。
そしてとうとう、一人暮らしを期に断捨離してしまった。人形も、ドールハウスも、拙い出来の服や小物も、全て手放した。
捨てた時は、生まれ変わったような気分だった。幼稚な遊びをしていた自分はもういないのだ、と。
その選択が間違いだと気づいたのは、会社で懐かしいオモチャを見つけた瞬間だった。
「私、本当は舞台衣装のデザイナーになりたかったんです。でも、どこも採用してもらえなくて……唯一受かったのが、今働いているオモチャ会社でした。会社のエントランスには代表的なオモチャがたくさん飾ってありました。私も持っていた物もあって、とても懐かしい気持ちになりました。同時に、お気に入りだったレカちゃんとドールハウスを捨ててしまったことを後悔しました。同じ型のものが売っていないか調べたところ、どちらも廃盤でプレミアがつき、手の届かない額にまで吊り上がっていました」
オモチャといえど、人気で生産数の少ないものほど価値は高い。当時どこでも売っていたからといって、現在もあるとは限らないのだ。
〈探し人〉の女性は袖で涙を拭い、人形とドールハウスに優しく微笑みかけた。
「もう二度と、手放したりなんかしない。子供のオモチャでも、私にとっては大切な宝物だもの」
ひとしきり人形とドールハウスを取り戻した喜びに浸ると、女性は約束どおり子供達とドールハウスで遊んだ。稚拙なごっこ遊びではあったが、女性は楽しかったらしく、次第に彼らと同じ子供の姿に変わっていった。
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「満足したの?」
「そうらしい。〈心の落とし物〉も持って行ったよ。お前のほうは? 探し物は見つかったのか?」
「えぇ。ちょっと予想外のお宝も見つけたけど」
由良は一階と地下室で見つけた、飾りとお宝を渡来屋に見せた。
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