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春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第一話「もらえなかった第二ボタン、もらってしまった第二ボタン」⑶
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泣いていた女子高生が申し訳なさそうに戻ってきた。
「ただいまー。私の分、残しといてくれた?」
「当たり前でしょ。ヒヨリのために頼んだんだから」
「えー。ツバメちゃんも食べなよー」
泣いていた女子高生、ヒヨリはスコーンにクロテッドクリームをつけ、美味しそうに頬張る。
ツバメは由良と視線を交わすと、覚悟を決めた様子で小さく頷いた。
「ヒヨリ。これ食べ終わったらさ、ヤマドリ君に告白しに行かない?」
ヒヨリの手が止まる。目を丸くし、驚いていた。
「えっ、今から?」
「うん。私もこれ、返しに行きたいからさ」
ツバメはポケットに隠していた第二ボタンを、ヒヨリに見せた。
ヒヨリはボタンをつまみ、裏を見る。そこに書かれた名前を見て、ハッと息を呑んだ。
「これ……ヤマドリ君の第二ボタン? どうしてツバメちゃんが持ってるの?」
「ごめん。今朝、"持っているだけでいいから"って渡されたの。ヒヨリもヤマドリ君も傷つけたくなくて黙ってたけど、何も言わないのも傷つけているのと同じだなって気づいて……もっと早く言えば良かったよね。ごめん」
ヒヨリは「そんなことない!」と首を横に振った。
「打ち明けてくれて嬉しかった! この先ずっと秘密にされるより、何倍もマシ! 私のほうこそ、ツバメちゃんがずっと悩んでるのに気づいてたのに、何も訊いてあげられなくてごめんね。ツバメちゃんは私とヤマドリ君のこと、ずっと応援してくれてたのに」
「ヒヨリちゃん……!」
二人はひとしきり泣くと、残りのサンドイッチとスイーツを平らげた。さらに、涙で失った水分を補充するべく、紅茶をティーポット一個分おかわりした。
「お騒がせしました」
「いえいえ、お気になさらないでください」
二人はおみやげに桜のマカロンを購入し、LAMPを後にした。店の前で、二人の姿がパッと消えた。
入れ替わりに、真冬と彼女のクラスメイトがLAMPに来た。
「卒業しましたー! 卒業証書持ってきたんで、割引してくださーい!」
「そんなサービスはやってませーん」
「えー。けちー」
「しょうがないなぁ。私がおごってあげるよ」
「やったー! 有希ちゃん、大好きー!」
真冬とクラスメイトはテーブルに旅行雑誌やパンフレットを広げ、卒業旅行の計画を立てる。さすがの真冬もクラスメイトの趣味に合わせて、テーマパークやアミューズメントパークに行く予定らしい。
由良は注文された品を運ぶついでに、第二ボタンのクイズを彼らに出題してみた。
「第二ボタン?」
「ホントに欲しがる人なんているんですね」
「俺、中学の時あげたよ。高校別々だったから付き合わなかったけど」
「そういえば真冬ちゃん、めっちゃ告白されてなかった? 同じ部活の男子とか、よそのクラスの男子とか」
「うん。第二ボタンも押し付けられたよ」
「そのボタン、どうしました?」
真冬は満面の笑みで答えた。
「欲しい子にぜーんぶあげちゃいましたっ! 私が持ってたら失くしちゃうかもしれないですし、そもそも私はゆきちゃんひと筋ですから!」
「真冬ちゃんって、本当に雪だるまが大好きだよねー」
「大学に行っても、そのままの君でいて欲しいよ」
テーブルにほっこりした空気が漂う。高校でもああしてクラスメイトに可愛がられていたのかもしれない。
真冬は「むむむ?」と眉根を寄せた。
(今の"ゆきちゃん"は有希ちゃんのつもりだったんだけど……言わないほうがいいのかな?)
閉店時間まで粘ったけど、とうとう友人は戻ってこなかった。
諦めてアパートに帰ると、私の部屋の前で友人が座り込んで待っていた。友人はバツが悪そうに、桜のマカロンが入った紙袋を差し出した。
「ごめん、八つ当たりした。ヤマドリ君に告白しなかったのは私なのに、全部ツバメちゃんのせいにしてた。ごめん」
「ううん。私のほうこそ、もっと早く第二ボタンのこと話せていれば良かった。ごめんね」
私は涙をぬぐい、紙袋を受け取った。
「いっしょに食べよう。外、寒かったでしょ? 春って言っても、夜は冷え込むから」
「うん、あったかい紅茶がいい。砂糖多めのやつ」
(春編③第二話へ続く)
「ただいまー。私の分、残しといてくれた?」
「当たり前でしょ。ヒヨリのために頼んだんだから」
「えー。ツバメちゃんも食べなよー」
泣いていた女子高生、ヒヨリはスコーンにクロテッドクリームをつけ、美味しそうに頬張る。
ツバメは由良と視線を交わすと、覚悟を決めた様子で小さく頷いた。
「ヒヨリ。これ食べ終わったらさ、ヤマドリ君に告白しに行かない?」
ヒヨリの手が止まる。目を丸くし、驚いていた。
「えっ、今から?」
「うん。私もこれ、返しに行きたいからさ」
ツバメはポケットに隠していた第二ボタンを、ヒヨリに見せた。
ヒヨリはボタンをつまみ、裏を見る。そこに書かれた名前を見て、ハッと息を呑んだ。
「これ……ヤマドリ君の第二ボタン? どうしてツバメちゃんが持ってるの?」
「ごめん。今朝、"持っているだけでいいから"って渡されたの。ヒヨリもヤマドリ君も傷つけたくなくて黙ってたけど、何も言わないのも傷つけているのと同じだなって気づいて……もっと早く言えば良かったよね。ごめん」
ヒヨリは「そんなことない!」と首を横に振った。
「打ち明けてくれて嬉しかった! この先ずっと秘密にされるより、何倍もマシ! 私のほうこそ、ツバメちゃんがずっと悩んでるのに気づいてたのに、何も訊いてあげられなくてごめんね。ツバメちゃんは私とヤマドリ君のこと、ずっと応援してくれてたのに」
「ヒヨリちゃん……!」
二人はひとしきり泣くと、残りのサンドイッチとスイーツを平らげた。さらに、涙で失った水分を補充するべく、紅茶をティーポット一個分おかわりした。
「お騒がせしました」
「いえいえ、お気になさらないでください」
二人はおみやげに桜のマカロンを購入し、LAMPを後にした。店の前で、二人の姿がパッと消えた。
入れ替わりに、真冬と彼女のクラスメイトがLAMPに来た。
「卒業しましたー! 卒業証書持ってきたんで、割引してくださーい!」
「そんなサービスはやってませーん」
「えー。けちー」
「しょうがないなぁ。私がおごってあげるよ」
「やったー! 有希ちゃん、大好きー!」
真冬とクラスメイトはテーブルに旅行雑誌やパンフレットを広げ、卒業旅行の計画を立てる。さすがの真冬もクラスメイトの趣味に合わせて、テーマパークやアミューズメントパークに行く予定らしい。
由良は注文された品を運ぶついでに、第二ボタンのクイズを彼らに出題してみた。
「第二ボタン?」
「ホントに欲しがる人なんているんですね」
「俺、中学の時あげたよ。高校別々だったから付き合わなかったけど」
「そういえば真冬ちゃん、めっちゃ告白されてなかった? 同じ部活の男子とか、よそのクラスの男子とか」
「うん。第二ボタンも押し付けられたよ」
「そのボタン、どうしました?」
真冬は満面の笑みで答えた。
「欲しい子にぜーんぶあげちゃいましたっ! 私が持ってたら失くしちゃうかもしれないですし、そもそも私はゆきちゃんひと筋ですから!」
「真冬ちゃんって、本当に雪だるまが大好きだよねー」
「大学に行っても、そのままの君でいて欲しいよ」
テーブルにほっこりした空気が漂う。高校でもああしてクラスメイトに可愛がられていたのかもしれない。
真冬は「むむむ?」と眉根を寄せた。
(今の"ゆきちゃん"は有希ちゃんのつもりだったんだけど……言わないほうがいいのかな?)
閉店時間まで粘ったけど、とうとう友人は戻ってこなかった。
諦めてアパートに帰ると、私の部屋の前で友人が座り込んで待っていた。友人はバツが悪そうに、桜のマカロンが入った紙袋を差し出した。
「ごめん、八つ当たりした。ヤマドリ君に告白しなかったのは私なのに、全部ツバメちゃんのせいにしてた。ごめん」
「ううん。私のほうこそ、もっと早く第二ボタンのこと話せていれば良かった。ごめんね」
私は涙をぬぐい、紙袋を受け取った。
「いっしょに食べよう。外、寒かったでしょ? 春って言っても、夜は冷え込むから」
「うん、あったかい紅茶がいい。砂糖多めのやつ」
(春編③第二話へ続く)
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