234 / 314
春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第一話「もらえなかった第二ボタン、もらってしまった第二ボタン」⑶
しおりを挟む
泣いていた女子高生が申し訳なさそうに戻ってきた。
「ただいまー。私の分、残しといてくれた?」
「当たり前でしょ。ヒヨリのために頼んだんだから」
「えー。ツバメちゃんも食べなよー」
泣いていた女子高生、ヒヨリはスコーンにクロテッドクリームをつけ、美味しそうに頬張る。
ツバメは由良と視線を交わすと、覚悟を決めた様子で小さく頷いた。
「ヒヨリ。これ食べ終わったらさ、ヤマドリ君に告白しに行かない?」
ヒヨリの手が止まる。目を丸くし、驚いていた。
「えっ、今から?」
「うん。私もこれ、返しに行きたいからさ」
ツバメはポケットに隠していた第二ボタンを、ヒヨリに見せた。
ヒヨリはボタンをつまみ、裏を見る。そこに書かれた名前を見て、ハッと息を呑んだ。
「これ……ヤマドリ君の第二ボタン? どうしてツバメちゃんが持ってるの?」
「ごめん。今朝、"持っているだけでいいから"って渡されたの。ヒヨリもヤマドリ君も傷つけたくなくて黙ってたけど、何も言わないのも傷つけているのと同じだなって気づいて……もっと早く言えば良かったよね。ごめん」
ヒヨリは「そんなことない!」と首を横に振った。
「打ち明けてくれて嬉しかった! この先ずっと秘密にされるより、何倍もマシ! 私のほうこそ、ツバメちゃんがずっと悩んでるのに気づいてたのに、何も訊いてあげられなくてごめんね。ツバメちゃんは私とヤマドリ君のこと、ずっと応援してくれてたのに」
「ヒヨリちゃん……!」
二人はひとしきり泣くと、残りのサンドイッチとスイーツを平らげた。さらに、涙で失った水分を補充するべく、紅茶をティーポット一個分おかわりした。
「お騒がせしました」
「いえいえ、お気になさらないでください」
二人はおみやげに桜のマカロンを購入し、LAMPを後にした。店の前で、二人の姿がパッと消えた。
入れ替わりに、真冬と彼女のクラスメイトがLAMPに来た。
「卒業しましたー! 卒業証書持ってきたんで、割引してくださーい!」
「そんなサービスはやってませーん」
「えー。けちー」
「しょうがないなぁ。私がおごってあげるよ」
「やったー! 有希ちゃん、大好きー!」
真冬とクラスメイトはテーブルに旅行雑誌やパンフレットを広げ、卒業旅行の計画を立てる。さすがの真冬もクラスメイトの趣味に合わせて、テーマパークやアミューズメントパークに行く予定らしい。
由良は注文された品を運ぶついでに、第二ボタンのクイズを彼らに出題してみた。
「第二ボタン?」
「ホントに欲しがる人なんているんですね」
「俺、中学の時あげたよ。高校別々だったから付き合わなかったけど」
「そういえば真冬ちゃん、めっちゃ告白されてなかった? 同じ部活の男子とか、よそのクラスの男子とか」
「うん。第二ボタンも押し付けられたよ」
「そのボタン、どうしました?」
真冬は満面の笑みで答えた。
「欲しい子にぜーんぶあげちゃいましたっ! 私が持ってたら失くしちゃうかもしれないですし、そもそも私はゆきちゃんひと筋ですから!」
「真冬ちゃんって、本当に雪だるまが大好きだよねー」
「大学に行っても、そのままの君でいて欲しいよ」
テーブルにほっこりした空気が漂う。高校でもああしてクラスメイトに可愛がられていたのかもしれない。
真冬は「むむむ?」と眉根を寄せた。
(今の"ゆきちゃん"は有希ちゃんのつもりだったんだけど……言わないほうがいいのかな?)
閉店時間まで粘ったけど、とうとう友人は戻ってこなかった。
諦めてアパートに帰ると、私の部屋の前で友人が座り込んで待っていた。友人はバツが悪そうに、桜のマカロンが入った紙袋を差し出した。
「ごめん、八つ当たりした。ヤマドリ君に告白しなかったのは私なのに、全部ツバメちゃんのせいにしてた。ごめん」
「ううん。私のほうこそ、もっと早く第二ボタンのこと話せていれば良かった。ごめんね」
私は涙をぬぐい、紙袋を受け取った。
「いっしょに食べよう。外、寒かったでしょ? 春って言っても、夜は冷え込むから」
「うん、あったかい紅茶がいい。砂糖多めのやつ」
(春編③第二話へ続く)
「ただいまー。私の分、残しといてくれた?」
「当たり前でしょ。ヒヨリのために頼んだんだから」
「えー。ツバメちゃんも食べなよー」
泣いていた女子高生、ヒヨリはスコーンにクロテッドクリームをつけ、美味しそうに頬張る。
ツバメは由良と視線を交わすと、覚悟を決めた様子で小さく頷いた。
「ヒヨリ。これ食べ終わったらさ、ヤマドリ君に告白しに行かない?」
ヒヨリの手が止まる。目を丸くし、驚いていた。
「えっ、今から?」
「うん。私もこれ、返しに行きたいからさ」
ツバメはポケットに隠していた第二ボタンを、ヒヨリに見せた。
ヒヨリはボタンをつまみ、裏を見る。そこに書かれた名前を見て、ハッと息を呑んだ。
「これ……ヤマドリ君の第二ボタン? どうしてツバメちゃんが持ってるの?」
「ごめん。今朝、"持っているだけでいいから"って渡されたの。ヒヨリもヤマドリ君も傷つけたくなくて黙ってたけど、何も言わないのも傷つけているのと同じだなって気づいて……もっと早く言えば良かったよね。ごめん」
ヒヨリは「そんなことない!」と首を横に振った。
「打ち明けてくれて嬉しかった! この先ずっと秘密にされるより、何倍もマシ! 私のほうこそ、ツバメちゃんがずっと悩んでるのに気づいてたのに、何も訊いてあげられなくてごめんね。ツバメちゃんは私とヤマドリ君のこと、ずっと応援してくれてたのに」
「ヒヨリちゃん……!」
二人はひとしきり泣くと、残りのサンドイッチとスイーツを平らげた。さらに、涙で失った水分を補充するべく、紅茶をティーポット一個分おかわりした。
「お騒がせしました」
「いえいえ、お気になさらないでください」
二人はおみやげに桜のマカロンを購入し、LAMPを後にした。店の前で、二人の姿がパッと消えた。
入れ替わりに、真冬と彼女のクラスメイトがLAMPに来た。
「卒業しましたー! 卒業証書持ってきたんで、割引してくださーい!」
「そんなサービスはやってませーん」
「えー。けちー」
「しょうがないなぁ。私がおごってあげるよ」
「やったー! 有希ちゃん、大好きー!」
真冬とクラスメイトはテーブルに旅行雑誌やパンフレットを広げ、卒業旅行の計画を立てる。さすがの真冬もクラスメイトの趣味に合わせて、テーマパークやアミューズメントパークに行く予定らしい。
由良は注文された品を運ぶついでに、第二ボタンのクイズを彼らに出題してみた。
「第二ボタン?」
「ホントに欲しがる人なんているんですね」
「俺、中学の時あげたよ。高校別々だったから付き合わなかったけど」
「そういえば真冬ちゃん、めっちゃ告白されてなかった? 同じ部活の男子とか、よそのクラスの男子とか」
「うん。第二ボタンも押し付けられたよ」
「そのボタン、どうしました?」
真冬は満面の笑みで答えた。
「欲しい子にぜーんぶあげちゃいましたっ! 私が持ってたら失くしちゃうかもしれないですし、そもそも私はゆきちゃんひと筋ですから!」
「真冬ちゃんって、本当に雪だるまが大好きだよねー」
「大学に行っても、そのままの君でいて欲しいよ」
テーブルにほっこりした空気が漂う。高校でもああしてクラスメイトに可愛がられていたのかもしれない。
真冬は「むむむ?」と眉根を寄せた。
(今の"ゆきちゃん"は有希ちゃんのつもりだったんだけど……言わないほうがいいのかな?)
閉店時間まで粘ったけど、とうとう友人は戻ってこなかった。
諦めてアパートに帰ると、私の部屋の前で友人が座り込んで待っていた。友人はバツが悪そうに、桜のマカロンが入った紙袋を差し出した。
「ごめん、八つ当たりした。ヤマドリ君に告白しなかったのは私なのに、全部ツバメちゃんのせいにしてた。ごめん」
「ううん。私のほうこそ、もっと早く第二ボタンのこと話せていれば良かった。ごめんね」
私は涙をぬぐい、紙袋を受け取った。
「いっしょに食べよう。外、寒かったでしょ? 春って言っても、夜は冷え込むから」
「うん、あったかい紅茶がいい。砂糖多めのやつ」
(春編③第二話へ続く)
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

非公開とさせていただきました(しばらくはお知らせのため残しますが、のちに削除いたします)
双葉
キャラ文芸
キャラ文芸大賞に応募していた本作ですが、落選したため非公開とさせていただきました。夢である書籍化を目指して改稿し、別の賞へチャレンジいたします。
審査員の皆さま、読者として読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる